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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その163

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この猫女は信用できないけど、俺にそんなに選択肢がある訳じゃない。明日またここに来てみるか。

時間のムダになる可能性もあるから、この猫女にばかり期待するのは危険だ。他にも何か解決策がないか探してみる方がいいよな。

あ、そうだ!

ここに来た理由だ。もう1人の猫女のメルシィーニが人探しをしているから、これを聞きに来たんだった。

あいつに恩を売るためにな。

まぁ、期待はできないけど。



「ちなみに、クラファミースって東角猫トーニャ族の名前を聞いた事があるか?」



「お願いばかりするんだねぇ?お札も持って来れない奴が、私に何を聞きたいんだって?」



「俺は、あの城に絶対に行かなきゃならない理由なんてなかった。でも、結果的に行っただろう?アンタのために行った様なもんだからな」



「フフ、何をバカな事を。それだけじゃ、あんたは行かなかったに違いないさ。でも、いいよ。答えてあげようか」



「クラファミースという名前の東角猫族はもういないよ」



「…前はいたのか?」



「ああ、いたよ」



この街にはもういない、それでいいか。そのクラファミースの生死を聞きたくない。それを知ると、場合によってはそれをメルシィーニに会った時に、それも伝えないといけないからな。



「東角猫族の事を聞くなんてさ、何か怨みでもあったのかい?」



「何だ、そのクラファミースはそういう存在か?」



「何だ、会った事がないのに気になったのかい?なら、誰かが探してるという事か」



この街の奴でもないメルシィーニが来てる事を、この街の奴に知られるのはどうなのか。わからないけど、一応、はぐらかしておくか。



「この街に来る時に頼まれたんだよ。そのクラファミースがこの街にいたら、元気にしてるって伝えてくれってさ」



「フフ、おもしろいねぇ。まぁ、何でもいいさ。クラファミースは私よりも年は上でね、気品ある女で、思いやりなんてものがまだ残っている住人だった。でもそんなものがある住人が、まともに生きていける訳がないのさ」



それは死んでいる?それとも、まだ何処かで生きている?ここから先は知りたくないな。



「あ、もういいよ。この街にいないのなら、それでいい。納得した…」



こいつの目が何かを悟った様な感じで、笑ってみせた。俺がそのクラファミースの生死を知りたくないというのがバレバレなんだろうな。



「そう言えば、この街の住人の背中に殲滅って文字をつけた服を着たのを見かけたんだけど、どういう住人なんだ?」



「次々と私に聞いてくるなんてさ。じゃあ、私もあんたにお札以外にも要求してみようかなぁ?いいだろう?」



「…」



「フフ、今となっては、お札すら難しくなった様だからねぇ?明後日にハムカンデ様の御前で良い戦いでも披露する事だねぇ。城の警備の者達も戦いに気が向くだろうから、その時に私が城に忍び込んでお札を取ってくるという計画は忘れるんじゃないよ?」



「私があんたの望みばかり叶えるのも、この街の創設前にいた神仏の代わりみたいで気味が悪いけどねぇ?」



神仏が、いた?

だから、顔の門までの道の左右に神社とかにありそうな灯籠が並べられてたのか?

まさか…。

この場所を奪うために戦った相手の中に、その神仏か、それに近い存在の住人がいたという事か?



「背中に殲滅という文字の入った服着てる者達はさ、ハムカンデ様の浮浪殲滅部隊だよ。この街周辺の警備部隊さ。エズアの事もあって、ゼドケフラーは根絶やしにしろとの命令も出されていたはずだから、あんたにいい印象なんてないだろうね。何せ、その浮浪殲滅部隊をすり抜け、ゼドケフラーをこの街に連れ込んじまったんだからねえ?」



そういう事か。俺がこの街にゼドケフラーを連れてきたから、奴らの警備が手抜きって見られたのかも知れないな。ハハハ、ざまぁないな。



「浮浪殲滅部隊は、オーロフ族で構成されていて、元々は同じオーロフ族のホルケンダが率いていた部隊だった。もう死んだけどねぇ」



何だ、ホルケンダって奴は。ハムカンデが最初からこの街を仕切っていた訳じゃないとか?いや、どうだかわからないけどな。



「ところでさ、この街中では戦いなんてできないけど、一部の黒く染められた家の中でなら、多少の暴力は空の力も十分に働かずにやる事ができるんだよ。だから、ここであんたを死なない程度になら殴るくらいもできるんだ」



え?俺、殴られるの?何で、お前にやられないといけないんだよ。



「冗談だよ、そんな事をしても私の得にはならないからねぇ…」



何で急にそんな話をし出したんだ?



「争いの血で染まった屋根を黒い塗料で覆い隠す前に、魔法の呪文を血の色とは違う明るい赤い塗料で書いた者がいるんだよ。その呪文は空に感情が抜かれるのをいくらか阻止できるみたいだ。その者は、何でそんな事を知っていたんだって、思わないかい?」



「まぁ、思う…」



「まぁ、私も詳しくは知らないけどさ。今夜はその一部に当たる家に入り込んで、あんたの要望を叶えるための下準備をしてやろうじゃないか…」



「…何をやろうとしてるんだ?」



「フフ、あんたと同じ種族をぶっ飛ばす事になるけど、いいよねぇ?」



ああ、そういう事か。

俺は気にしない、死なない程度にやってくれよ。

あいつは東角猫族に酷い事をしてたからな、今度はそれが自分の身に降りかかる。ただ、それだけだ。
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