上 下
234 / 441
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その158

しおりを挟む
「お前は…」



遠くから眺めているなんて奴は、そうだろうな。



「人に加われない、淋しがり屋なんだろう?」



「…」



「どうした?当たりだろう」



俺を疎ましく思ってるけど、何かを期待してもいるんじゃないのか?オーロフ族が平和築ける様な奴らじゃないし、むしろ人と人の和を壊す方に力を注ぐ奴らだろう。

それを言ったら、他の人種もそうかも知れないけどな。

だけど、盗みを特技としてるオーロフ族の奴らが人を幸せにする事はない。

だからと言って、俺がこの世界でやる事なんて、何もない。

もちろん、この街なんて滅びてしまえばいいと思っているよ。

もし、俺がこの街を今と違う方向に向かわせてくれるかも知れないなんて思ったとしたら、それはハズレだ。



「私を愚弄するつもりか。お前もまた、破滅の扉に手を掛けると?」



「…っ!」



お前もオーロフ族と変わらねえよ。逆らったら殺すって言いたいんだろう?何でお前の言う事を聞かないといけない?お前は何様なんだよ。

しかし、こいつ、どれだけ強い念力持ってんだよ。体が全然動かないぞ。



「ならば、問おう。お前は、誰だ?」



俺…?

俺は。

誰なんだろうな?

命乞いして、名前を否定したからじゃない。

本当に、俺は矢倉郁人やぐらいくとだったのかな。

この世界に先に辿り着いたもう1人の俺よりも劣る、この俺は、誰だ?

勝手に矢倉郁人と思い込んでただけじゃないのか?

あのしもべが記憶を植えつけただけの可能性もあるよな。

母さんは、名前を言う事で自分の存在がここにあるって。

証明しないと、こんなにも自分が消えそうに思えるのかもな。

誰が、俺を矢倉郁人だと証明してくれる?

それは、俺自身が言い張るしかない。

本当は、言わないといけなかった。

名前を否定してはいけなかった。

例え、命を失おうとも。



「俺は…」



でも、もうどうでもいい。俺は、この世界ではいないに等しい。それでいい。そうでないと、俺は生きてはいけない。



「テテだ」



パルンガがそう呼んでいる。なら、それでいいじゃないか。テテは、貴方って意味だろうけどな。



「お前の名前は、何と言うんだよ…。俺は、教えたぞ」



聞いてみたけど、お前の名前に興味なんかない。答えなくてもいい。



「私の名は、裸眼…。裸の眼だ」



裸眼?

裸眼だって?

前に会ったか?

いや、何か違う。違和感がある。だけど、かなり近い響きの名前?

俺は、こいつに近い存在にあった事がある?

だけど、思い出せない。

しかも、そんなに前の事じゃない。

何処でだ?

こいつに近い存在に、何処であった?



「私の名前を聞いて、その様な反応をするか?ならば、僅かばかりの時間をお前に与えよう。その時まで、答えを用意しておくが良い」



…。



…。



…。



「はっ!?」



俺は夢を見ていたのか?

目の前には、ガラス戸を開けて最初に見た薄暗い部屋。

俺はずっとここで立ち尽くしていたのか?

立ちながら夢を見るなんて、そんな事初めてだぞ。



「ほう?お前が噂の男か…」



奥の部屋から、バサバサの長い前髪を垂らして顔を覆った着物姿の男が、体をフラフラさせながら現れた。



「どうした?物珍しそうな顔をして」



こいつに耳はない。なら、オーロフ族でも、東角猫トーニャ族でもない。それとも、獣化していないだけか?



「ここには、あの虫唾の走る垂れ耳オーロフ族なんていないぞ。俺だけだ…」



じゃあ、やっぱりこいつが?



「俺は、リョウマ族だ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気づいたら異世界でスライムに!? その上ノーチートって神様ヒドくない?【転生したらまさかのスライム《改題》】

西園寺卓也
ファンタジー
北千住のラノベ大魔王を自称する主人公、矢部裕樹《やべひろき》、28歳。 社畜のように会社で働き、はや四年。気が付いたら異世界でスライムに転生?してました! 大好きなラノベの世界ではスライムは大魔王になったりかわいこちゃんに抱かれてたりダンジョンのボスモンスターになったりとスーパーチートの代名詞!と喜んだのもつかの間、どうやら彼にはまったくチートスキルがなかったらしい。 果たして彼は異世界で生き残る事ができるのか? はたまたチートなスキルを手に入れて幸せなスラ生を手に入れられるのか? 読みまくった大人気ラノベの物語は知識として役に立つのか!? 気づいたら異世界でスライムという苦境の中、矢部裕樹のスラ生が今始まる! ※本作品は「小説家になろう」様にて「転生したらまさかのスライムだった!その上ノーチートって神様ヒドくない?」を改題した上で初期設定やキャラのセリフなどの見直しを行った作品となります。ストーリー内容はほぼ変更のないマルチ投稿の形となります。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお
ファンタジー
【書籍化します!】2022年12月下旬にレジーナブックス様から刊行されることになりました! 定番の転生しました、前世アラサー女子です。 前世の記憶が戻ったのは、7歳のとき。 ・・・なんか、病的に痩せていて体力ナシでみすぼらしいんだけど・・・、え?王女なの?これで? どうやら亡くなった母の身分が低かったため、血の繋がった家族からは存在を無視された、みそっかすの王女が私。 しかも、使用人から虐げられていじめられている?お世話も満足にされずに、衰弱死寸前? ええーっ! まだ7歳の体では自立するのも無理だし、ぐぬぬぬ。 しっかーし、奴隷の亜人と手を組んで、こんなクソ王宮や国なんか出て行ってやる! 家出ならぬ、王宮出を企てる間に、なにやら王位継承を巡ってキナ臭い感じが・・・。 えっ?私には関係ないんだから巻き込まないでよ!ちょっと、王族暗殺?継承争い勃発?亜人奴隷解放運動? そんなの知らなーい! みそっかすちびっ子転生王女の私が、城出・出国して、安全な地でチート能力を駆使して、ワハハハハな生活を手に入れる、そんな立身出世のお話でぇーす! え?違う? とりあえず、家族になった亜人たちと、あっちのトラブル、こっちの騒動に巻き込まれながら、旅をしていきます。 R15は保険です。 更新は不定期です。 「みそっかすちびっ子王女の転生冒険ものがたり」を改訂、再up。 2021/8/21 改めて投稿し直しました。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。

kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。 前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。 やばい!やばい!やばい! 確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。 だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。 前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね! うんうん! 要らない!要らない! さっさと婚約解消して2人を応援するよ! だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。 ※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

皇女様の女騎士に志願したところ彼女を想って死ぬはずだった公爵子息に溺愛されました

ねむりまき
恋愛
※本編完結しました!今後はゆっくりペースで他エピソードを更新予定です。    -原作で隠されてた君が運命の人だった-  家族に溺愛されすぎて社交界から隔離されて育った侯爵令嬢エミリア、読んでいた小説の始まる3年前の世界に入り込んだ”私”が宿ったのは彼女だった。馬車事故で死んでしまう設定の皇女、そんな彼女を想って闇落ちし自害してしまう小説の主人公・公爵子息アルフリード。彼らを救うためエミリアは侯爵家の騎士団の制服をまとい、もぐりこんだ舞踏会で皇女に対面。彼女の女騎士になりたいと直談判することに。しかし、そこでは思わぬトラブルが待ち受けており……なぜかアルフリードに見初められ結婚まで申し込まれてしまう。  原作でも語られていなかったアルフリードの生い立ち、近隣諸国との関係。シスコンの兄など様々な登場人物(動物)や出来事に翻弄されながらも、エミリアは無事に彼らを救うことができるのか? ※第2部までは伏線を散りばめた、ほのぼの系。第3部からシリアス展開も混ぜながら、物語が本格的に動き出す構成になってます。 ※第2部、第3部の前にそれまでの登場人物とあらすじをまとめました。

処理中です...