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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その140

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包帯ぐるぐる男に連れられて、城の前まで来たぞ。

城の前にある黒い灯籠の並びを見ると、昨日の戦いを思い出す。そこを越えたら、黒い家の並ぶ街中とは違って、どの奴も感情剥き出しに、殺し合いができる場所。

昨日の夜は、黒眼こくがん五人衆のゲルに追いかけられて、黒い灯籠を抜けて、仕方がなく戦う事になったけど、まさかあの時、メベヘまでいるとは思わなかった。

メベヘが俺を見くびってくれたのもあり、また、奴の仲間であるはずのゲルがメベヘを攻撃したのもあって、昨日は混乱の中でうまく逃げ出す事ができたけど、次はそうもいかない。

昨日は暗くてよくわからなかったけど、黒い灯籠を抜けた地面は、固めの白い土だ。場所によって赤黒い染みが広がっている。多分、犠牲になった街の人や、メベヘが斬られて、撒き散らされた血なんじゃないか?



「顔が硬直しているよ?少し緊張を解いた方がいいねー。恐い顔をしていると、ハムカンデ様が勘違いしてしまうじゃないか」



どう勘違いするんだよ。いちいち、不安をあおぐんじゃねえよ。

宝酷城ほうこくじょうの一番下、石垣の間にある石階段を上っていくと、城に入るための大きな黒い門にたどり着いた。それを包帯ぐるぐる男が力を込めて両手でゆっくりと押していくと、重々しくも門が開いていく。その先は、もちろん城の内部…。

だけど、小さな灯りひとつなく、暗闇に覆われている。

どうして、暗闇なんだ?



「気にしなくてもいいよ。さぁ、ゆっくりと真っ直ぐに進むといいさー」



この真っ暗闇の中で、急に刀で斬りかかって来られたら、防ぎようもない。ここは、進むべきじゃない…。



「テテ。オデには見えているど。大丈夫、壁の方に3人いるけど、オデ達とは離れているから、すぐに攻撃はしてこれないど」



暗闇の中で、パルンガの目が光っている。よく見えているのなら、助かる。俺が見えてなくても、パルンガが部屋の中の人の動きが確認できているのなら、先に進めそうだ。



「ぃいーい、お友達じゃないかー?ククッ、友達だなんて、そんな言葉は、今は存在なんてしないか…。安心してもらえたのなら、このまま進むよ?じゃあ、ついてきなよー」



友達なんて言葉は、存在しないか。淋しい奴らばかりな世界だな。それとも、心が荒んだ奴らばかり出会ってるから、俺がこの世界をそう勝手に決めつけているだけか?

包帯ぐるぐる男が先に城の中に入って、その後、俺とパルンガが入る。そして数歩、歩いていくと、急に門が閉まり始めた。



「ちょっ…!?」



「気にしない、気にしない。大丈夫だよー。ゆっくりと、真っ直ぐに進めばいいからさー」

城のこの部屋は、真っ暗闇に何の意味があるのか?近くに武器を構えた奴がいないのが本当なら、何の意味があるんだ?



ゴツッ…。



「つま先に当たったのは、階段だよー。そのままゆっくりと一段、一段、上がって行ってねー」



タッ…。



タッ。



タッ。



「テテ。壁の方にいた3人が、少しずつ近づいてきたど。でも、追いつこうとしてないから、大丈夫だど」



近づいてきただって?暗闇の中で、周りが見えてるとは。素晴らしい目だな、パルンガ。

その3人は追いつこうとしていないなら、安心という事でいいのか?



コンコンッ!



木の板を叩く音が響くと、天井が開き、そこから大量の光が入る。そして、通り過ぎた部屋の姿が現れる。

手すりのつもりなのか、いくつかの場所に木造の柵が見える。そして、壁にたくさんの槍。あれで刺されていたら、終わっていた。

パルンガの近寄ってきたと言っていた3人は見当たらない。

天井にあった両開きの戸が開いただけだから、そこから入る光でさすがに部屋の隅々までは行き届かない。

部屋の隅の何処かに、その3人は微動だにしないで潜んでいるのかも。



2階は、横に2人並ぶくらいの幅の道が続く。壁は白い壁に柱なんかや紋章みたいな装飾は、黒と金で塗り分けられている。2階の通路だけでも、雰囲気が、偉い奴が住む場所って感じがする。急に城って感じがしてきたな。

この通路だと、剣みたいな長い物を振っても、壁に遮られて戦いにはならないだろうな。下の階の壁に掛けられた槍だと、うまく攻撃はできるかも知れないけど。

だから、槍があったのか?

まぁ、わからないな。



「何をまだ警戒してるのさー。せっかくのハムカンデ様のご招待なんだからさ、もっと笑顔でいてよね?」



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