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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その136

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チェックアウト当日、確実に争い事になる様な気がしたため、俺は部屋の中で入念なアキレス腱伸ばしを繰り返していた。

理由はただ1つ。

お金を持っていないからだ。

成り行きでこのボルティアに泊まってしまったが、お金を持っていない。

あのしもべが、俺に鎧と大剣をくれたのはいいが、お金を持たせなかったのは、どういうつもりだと、言いたい。

窃盗を繰り返して、資金を調達するとでも思ったのか?

それなら、重罪人を転生させれば良かったのにな。

さて。

パルンガが昨日、お金を持っているという話をしていたが、俺の予測だと、葉っぱのお金だ。

毛虫しか喜ばない、葉っぱのお金だ。

フロントで店員に宿泊代を要求され、パルンガは葉っぱのお金を出す訳だ。

そして、店員が、深い眠りから目覚めた魔王の様な恐ろしい目つきに変わった瞬間、俺は踵を返し、出口へ激走、そのまま逃げ切らなければならない。

その場に取り残されたパルンガは、何故、葉っぱのお金が使えないのかと、無駄な平行線のお話し合いを店員達と延々と続けてもらって、最終的に店員に呆れられて、追い出される、と。

パルンガも脱出成功。

完璧な筋書きじゃないか。



「あ、パルンガ。もう行くのか?」



「宿代払ってくるど。テテのも、払うど」



ありがとうよ、その言葉だけでもうれしいぜ。

軽快な足取りでフロントまで行き、パルンガは腰回りを触りながら、何かを取り出す。

ちぎれた葉っぱを取り出し、カウンターに乗せてパズルでも始めるもんなら、唖然とする店員をよそ目に、俺は平然と外に出るために歩き始めるからな…。



「!?」



お金っぽいぞ??

え、お札…。

パルンガが、まさかのパルンガが、お金を持っている??

お金を店員に渡しているぞ!?

こんなにも金が似合わねえ単細胞動物はいな…っ。いや、ここは本音を隠して、パルンガに感謝するべきだ。

ありがとう、ブタウサギさん。







「テテ、この後、どうするんだど」



パルンガは、ベルダイザーの情報収集が最優先だけど、あの東角猫トーニャ族の女の言うベルダイザーは絶滅したって言葉が頭に引っかかるな。

他の住人にも同じ質問をしてみたいけど、その時の話をすぐにパルンガの耳には入れたくない。

かと言って、俺とパルンガが別々の行動をするのはまずい気がする。

街の奴らは、ゼドケフラーをよく思っていない。

それに、俺に対してもゼドケフラーを連れ込んだ奴って事で、良くは思っていないだろう。

俺がゼドケフラーの魔力を売ろうとしている訳じゃないって事は、早い段階でみんなにバレるだろうし。

それなら、目的は何だって事になるだろうな。

この際、この街での情報は手に入れず、早々と街を出て、北に向かってベルダイザーを探させた方がいいかな。

しかし、東角猫族の女が言ってた、街からは出られないっていうのは本当なのかな?それをまずは確認しないと。

この街から出られたとしたら、俺は夢魔操エイジアの情報がないから、そうなると、やっぱりしもべの言っているギルロの体と魂を探すのが一番の近道か?それなら、ギルロの根城に行くため、第5大陸から第6大陸に渡るしかないよな。

メベヘの話だと、そのまま向かっても渡れはしないとか言ってた様な気がする。

…。

東角猫族の女には、一時的にでも匿ってもらったり、この街の情報をもらったり、食事もごちそうになった。

この街から離れたいから、俺達に望みをかけているのかも知れないけど、それをかんたんに裏切るのも、気が引ける。

だけど、この世界の奴らは、人を利用し、裏切るのが得意なんだ。

いずれ、あの女も俺達を裏切るに決まっている。

…。

そう思った方が楽だよな?

…。



「テテ」



「ああ。パルンガ、お前はベルダイザーを探さないと行けないよな?」



「そうだど!テテは、情報が入ったのか?」



「俺が必要としてる情報の事か?まぁ、いまいちって感じだな…」



「手伝うど!オデの命の恩人だから、一緒にやるど!」




「その必要はねえよ…」



「テテ?」



そうさ、元々選択肢はないんだから。それでいいじゃないか。

俺は、この世界が嫌いだ。



「この街を出ようぜ」


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