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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その135

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いてて…。

野宿の癖がついてんのか、鎧のまま寝てしまった。

宿の意味が全くないな。

パルンガは、隣りのベッドの、その下で寝ている。前に野宿で俺の隣りで寝ていた時、俺を襲って、噛みついてきたから。その時は無意識にだろうけど、一応、俺に気を利かせて視界から外れる様にして寝てるんだろうな。

パルンガの様子はその頃から変わってきている。今の幼獣の体がもたなくなってきているみたいな事を言ってたからな。体の皮の張りが出てきてるし、さらに体が膨らめば、風船みたいに破裂しそうだ。

俊敏さも力も、特に衰えている感じもしないから、破裂して、今すぐに死んだりはしないと思うけど。

パルンガの生き残るための本能が、何かを食らって魔力を体内に吸収して、成獣となろうとしているんだ。そんな本能の衝動から、俺を襲ったんだと思っている。

パルンガのためにも、ベルダイザーの居場所がわかればいいんだけどな。



「テテ」



「うおっ!?…起きてるのか、パルンガ」



「起きてるど、テテ」



「チェックアウトまで、まだ時間があるのかな?」



「う?まだ、出る時間じゃないど。まだ夜中だど」



あ、そう。何を頼りにそう言ってんのかな?地下1階だから、窓から外の状況がわからないけど。



「テテ」



「何だ?パルンガ」



「テテは、もう知りたい話は聞いたのか?」



俺が知りたい情報?ギルロの事とか、夢魔操エイジアの事だな。ギルロをよく思っていないのは、あのメベヘの反応からしてもわかる。第2大陸でも、嫌われ者な感じだったからな。この大陸でも、嫌われてんだろう。東角猫トーニャ族の女に聞くタイミングも見失ってたな。ヘタに無理矢理聞こうとして話の腰を折って、その他の情報も聞けなくなったら困ってただろうし。

夢魔操は魔力をゲージいっぱいに入れたら、夢が叶うという箱だ。魔力を吸収する魔闘石ロワの話が出たついでに聞く…ってのも、難しかったな。野心を持ってる奴が狙いそうな物だからな。話してみて、変に敵意を持たれない様な相手がいれば、それが一番いいんだけど。

お前の知りたがってたエズアの事は聞けたんだけどな。お前には聞かせられねえ。酷過ぎるからな。

ベルダイザーの事は、多分、あの女にもわからないんだろうな。

街を出たらさ、もっと北に行って探せばいいじゃないか。

とりあえず、この街を出る事が先だ。

そのためにも、あの宝酷城ほうこくじょうに招かれてみようじゃないか。

危険は覚悟の上。

俺達に選択肢は、そうないだろう。

俺があまり考えないだけか?

気持ちに余裕もないしな。



「テテは、成獣か?」



成獣…。俺は獣じゃないからな。要するに、成人してるかどうかって事かな?幼獣が、人間で言うと、どのくらいの年齢に当てはまるのかわからないけど。



「まだ大人って訳じゃないよ。幼いっていう言葉も当てはまらないような気もするけどな」



「う?」



「成獣…っていう事はないよ。おれはまだ未熟だ。体も、心も」



「オデと同じ幼獣か?」



俺のお話聞いてました??別に俺はお前みたいに幼くはないよ。言葉もお前以上に話せるしな。知恵もお前より上だろう。お前が勝ってるのは、鼻の大きさと、負けん気の強さだ。

強さ…か。

力の強さと精神的な強さは、お前の方が上なのかも知れない。

俺は弱いよな。

お前に縋ってる事もなくはない。

なら、俺も幼獣扱いでもいいのかもな。

この世界で、俺の存在は無に等しいんだ。

そして、もう1人の俺の方が、その存在を知らしめている。

あの《冬枯れの牙》ラグリェを退けたんだから、矢倉郁人やぐらいくとの名前はお前のもんだ。

俺は、名前を否定して、命乞いをして、見逃してもらったんだ。

笑えるよな?

それでも、今の俺はそうしてでも生き残って、元の世界に帰りたいんだ。

俺はこの世界では、そよ風のままでいい。

帰れれば、それでいい。
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