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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その134

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まさに、奇跡だ。

ボルティアの宿に見事戻って来れたぞ。

パルンガは俺に感謝だな。



「宿に着いたど!これやるど!」



俺に差し出す木の実。感謝の印か。別に腹減ってないんだけどな。

モグモグ…。

ああ、おいしいな。何となく、香ばしい。甘くて、おいしい。



「テテ」



「ん?」



「…エズアは本当に死んだのか?」



まだ、その事を引きずっていたのか。あの東角猫トーニャ族の話を聞く限り、そうなんだと思う。

パルンガにとって、エズアは成獣としての憧れの姿だったとか、そんな感じなのかな?

憧れ…か。

俺にも、昔そんなものがあった様な気がするけど、今は何もない。

大人には、失望する事しかなかったから。

近くにいる大人なんてのは、学校に行けばたくさんいたけどさ。

教師なんて職も、所詮は金稼ぎの1つ。

偽善を盾に自分の自我をぶつけてくるだけのモンスターだろ?

攻撃力はこの世界の奴らの方があるのかも知れないけど、モンスターは何処の世界もいるもんだよな。

パルンガが俺の答えを待ってる顔をしてるけど、何度聞いても、俺の口から出る言葉は変わらないぞ。



「パルンガ、どうやらそうみたいだ。残念だけど…」



「オデ達ゼドケフラーの中でも、強かったんだど。どうやって死んだのか?」



それについても、話をしたはずだけどな。まさか、俺が話を変えた事に気づいたか?

それを知って、何になるんだよ。

クェタルドを救えない偽物を渡されたエズアが、約束が違うとハムカンデを襲ったら、奴の仲間達に反撃にあって、最後は街の奴らにも攻撃されて、死んだ。

そんな事をパルンガに伝えても、何の意味もないだろう?

どんなに強くても、死んだら、それまでなんだよ。

蘇ってくれる訳がない。

どんなに願っても、だ…。



「オデ達ゼドケフラーは、最後の審判って言われていた事もあったらしいど。困った時は、オデ達のいる神殿に住人達が来て、困った事の最後の判断をオデ達に任せるんだど」



珍しく長く言葉を話したな。意外と会話いけるんじゃないのか?

最後の審判か…。それが本当なら、ゼドケフラーはよほど格が高いと思うな。東角猫族の女が神の系譜を持つとか言ってたのも、本当の事かも知れないな。



「ゼドケフラーは、幼獣が攻撃される事があるんだろ?俺が思うに偉い人達って感じがするけど、何で狙われるんだ?」



「…ゼドケフラーは成獣になるために、いくつかやらないといけない事があるんだど。それをやって、最後にベルダイザーを倒して、食べると、成獣になれるんだど。みんながなれる訳じゃないから、成獣になれたら、他のみんなが急に認めてくれ始めるんだど」



何だ、ただ食べるだけじゃないのか?



「目の周りに赤い色がついたりして、背もずっと高くなって、体の形もかっこよくなって、強いんだど。オデは、必ずなるど!成獣になるど!」



誇らしき我が種族といったところだな、パルンガ。

ベルダイザーが絶滅したって、あの女は言ってたよな?じゃあ、この街の周辺の森にはいないだろうな。もっと北に行かないといけないのかも知れないな。

ベルダイザーは、絶滅危惧種とか、言ってた奴もいたよな。

だとしたら、パルンガは。

いや、きっとまだいるだろうよ。

必ず、ベルダイザーは。



「絶対になるど!成獣になるど!」



俺達人間は、何をしても、大人にはなれる。どんなに堕落しても。

パルンガ達ゼドケフラーは、それができない?試練を越えて、初めて成獣になり、越えられなければ、幼獣のまま死ぬ事になるのか?

そう言えば、俺は…。

もう死んでるからな。

でも、ギルロの体と魂を見つけたら。

また、あの場所からやり直しなんて、本当にできるのかな。

高校1年から、大人になるための階段をさ。

また。

続きから、上ろうと、さ。
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