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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その133

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ガラガラ…。



「外には誰もいねえ…」



「テテ、行くど」



ピシャッ!



東角猫トーニャ族の女め、また俺達との関係を否定する様な戸の閉め方をしたな。



カチッ。



そして、完全に鍵を閉めたな。さっきは鍵を閉め忘れたから、俺達が家に入って行けたんだもんな。教訓を生かしたいい判断だ。

ただ、直感的に、ムカつく。



「テテ、道わかるのか?」



ボルティアの宿までの道のりを一緒に聞いてたよな?この世界の住人が、異世界から来た俺にお任せ状態なのは良くないぞ?



「一応聞いたから、行ってみるしかないよな…」



ボルティアの宿に戻る道を聞いたけど、いまいちたどり着く自信がない。同じ黒い家が続く街並みだ、看板の形が違うものだったり、そこに書かれている文字などを頼りに、進んで行くしかない。ムダにこの辺りを彷徨うとまずい事になる。黒眼こくがん五人衆らに出くわしたら、最悪だからな。

何とか、ボルティアに戻ってみせるさ。



「テテ」



「何だ、パルンガ?」



「城で何か叩く音が聞こえるど」



確かにな。太鼓を叩く音が聞こえる。何か、かけ声みたいなものも聞こえてくるけど、気のせいか?

何かの宴でも開いて、舞妓さんが踊っていたりな。

どうでもいいな。とりあえず、進むか。

えーと。

何て言っていたかな?

東角猫族の女の家を出て、城と反対側の方へひたすら進み、看板に竜盤と書かれた家をさらに3軒ほど進んでから、左に曲がり、進んだ先の突き当たりを右に曲がり、白い無記入の看板が家の真ん中に置かれている家が見えたら、周辺のオレンジ色に発光している建物を探せ、か。

俺もよく覚えてるな。



「テテ、大丈夫か?」



「わからねえ。ただ、あまり話しかけるなよ?教えられた進み方を忘れる可能性があるからな」



「ど!」



何だ?ど、って…。まぁいいや。邪魔すんなよ、ブタウサギ君。

周りに黒眼五人衆のメベヘはもちろん、ゲルもいないな。

あいつら、あの後どうなったんだ?

ゲルは生きているに違いない。ただ、メベヘはゲルに斬られたんだ。死んでいても不思議じゃない。

う。嫌なものが視界に入った。

不気味に赤く染まる夜空を見ると、悪いものを連想しそうな気がする。空はあまり気にせずに行こう。



「…」



しばらく黙々と歩き続けてみてわかったけど、夜になると街中で出歩く奴が全くと言っていいくらい、いない。

夜更けっていう時間帯でもないのにな。

やはりあのメベヘやゲルが歩き回って無差別殺人をするから、家の外にはみんな出なくなるのかな。

そう思い始めた時、女の唸り声を耳にした様な気がして、辺りを見回すと、近くにある黒い家の屋根の上に、体を伏せた女のシルエットが浮かんでいるのが見えた。

気づかないふりして、そのまま進んだ方がいいと思って、止まりかけた足を無理に前に出そうとした瞬間、今度は何処かで聞いた声がはっきりと聞こえて、無意識に足が止まる。



「どうしてお前がここにいるにゃー。さては、つけて来たのかにゃ?」



え!?つけて来た?辺りが暗くて、顔は全く見えない。ただ、声だけが聞き覚えがある。誰だ?



「…つけて来たって?」



「ふぅん、惚けるんだ?まぁいいけど、私の邪魔をしたら、殺すからねぇ?」



カチャカチャカチャッ!



タンッ!



タタタタタタッ…。



低い姿勢のまま屋根を駆けて、飛び降り、そのまま去っていきやがった。

何だったんだ?

この街に来て、誰か思い当たる奴がいるか?

猫っぽい感じがするから、東角猫族か?

勘違いしやがって。誰もお前になんか興味がないんだよ。



「ガルルルルルルッ…」



パルンガが唸ってる。俺がじゃなくて、まさかパルンガが追っていた奴?

まぁ、いずれにしても、今はそんな感情的になられても困る。

とりあえず、ボルティアだ。そこにたどり着いてから、何とでも唸ってくれ。

えーと。

黒い家に看板がある。

竜玄…。

あれ?

向こうの看板には、竜然…。

どっちだったかな?

どっちかだったかな?



「パルンガ、看板に何て書いてある家をもう少し先に進むんだったかな?」



「ど?」



「ど、なんて書いてある看板なんて、ないんだよ」



「知らないど!」



お前が変なところで唸るから、頭に描いてたぼんやりとした地図も完全に消えたぞ!代わりにお前が案内しやがれ。



「テテ…!」



パルンガは、俺に木の実を差し出した。今、おやつの時間じゃないだろうが。変なタイミングで出してくるんじゃねえよ。

お前の鼻の穴をさらに広げてやるから、ボルティアの臭いを嗅ぎ分けて、宿まで案内してくれよ。それができなきゃ、その穴に差し出した木の実全部詰めてやるからな。

はぁぁ…。

役に立ちそうもないパルンガ君を見ていても、腹立つだけか。

この看板も何か違う様な気がするから、もう少し先を歩いてみるしかない。
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