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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その125

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相手が刀を振り上げた時、俺の手には大剣があった。だけど、どう持ったら効率良く走れるか、直前までそれしか考えてなかったから、相手の攻撃に対して、とっさに剣を構えて、応じようとする動きなんて取れなかった。

宝酷城ほうこくじょうの明かりが俺の周囲まで届いている。左右に避ける事もできる空間はあった。だけど、それをさせないほんの一瞬の間は、相手からの威嚇や洞察か。

だから、俺は身動きの取れないただの人形と同じ。

殺されるのを、ただ待つだけ。

そう感じた。



「うろ」



もう、終わりだ。



ビューンッ!



ドガァッ!



「ドガ?」



野球で球を投げる時、キャッチボールなら、お互いに立ち合って、相手に向かって投げる。

投手なら、ホームベースの向こう側に座る捕手に向かって投げるよな。

もちろん、お互いにグローブをはめてやるのは当然だ。球を受ける側の手が痛くなるから。

それを、例えば、背を向けた相手に球を投げた場合、どうなるか。

球の硬さにもよるけど、普通に考えると、投げられた側の背中はやられる。

背中にグローブなんてつけられないし、強く投げれば投げるほど、ダメージは増すばかりだ。

それを、球じゃなくて、自分の体ごと投げたらどうか。

この場合は、投げたじゃなくて、跳躍して突進かな?



パルンガ、ストライク!



「テテ、大丈夫か?」



波立つ髪の黒い着物姿の不気味野郎は、不意のパルンガによる背中への突進攻撃に、背中を仰け反らせ、声を上げた。うろ以外に声が出せたんだな。さすがに片膝をついて、うな垂れてやがる。



「ああ、無事だ。助かったぜ」



感情なしで襲ってくるなんて、とてつもなく恐い奴だ。こんな奴を放し飼いになんてしてんじゃねえよ。

これ以上、近くにいたくもない。

この不気味野郎を警戒しながら回り込み、俺とパルンガはまた宝酷城の方へ走っていった。

たまに振り返っても、その場から動かず、追いかけて来る様子はない。よほど痛かったみたいだな。

そのまま走って、黒い灯籠で囲む内側の城の側まで行った。

城の一番下は、頑丈な石垣。その間に階段があって、その先は城門に繋がってるみたいだ。

今は、城よりも、あの不気味野郎の動きが気になる。

平然と立ち上がるなら、ヘタに逃げるより、ここで迎え撃った方がいい。

しばらくして、不気味野郎は何事もなかった様に立ち上がり、俺達をひと目も見る事なく、違う方向へ歩き始めた。

何なんだ、あいつは。頭の神経が何本か抜けてるんじゃないのか?



「パルンガ、何処かやられてないか?」



「黒の攻撃をかわしたら、武器の取っ手で殴られただけだど。大丈夫だど」



黒?

ああ、相手の姿が黒いから、黒って事かな。

もう少し言葉使えよ、幼獣君よ。

でも、本当に助かった。あともう少しで、俺は殺されていたからな。パルンガに命を救ってもらったのは、これで二度目だ。

夜にあんな殺人鬼みたいなのがふらっと街の中を歩いてるなんて、恐い街だな。



「テテ、あの女、エズアの事、何か言ってたか?」



女…。あの東方猫トーニャ族の女の事か。自分の事より、エズアの事を気にするなんてな。



「エズアは強かったみたいだな。多くの相手にも負けなかったから、この街があるんだ。でも、無敵の奴なんて、いないからな…」



「う?」



「ケガしたら、ちゃんと治療しとかないとダメだって事だ。パルンガも、ケガしたら、治さないとな」



「オデ、してないど」



それは何よりだ。



「テテは、してるのか?」



「俺も、してないど」



危なかったけどな。

お互いに無事で良かったというところかな?



ジャリ…。



「ん?」



「儂を探しに来たんじゃないのか?そうだろうな?いや、そうだろうよ。この場所は、城の明かりがよく差し込んどる。お互いの姿が確認できるからな。何も、心配は要らん」



三角帽子で、黒い着物姿の長身男。

この姿と話し方…。

黒眼こくがん五人衆の1人、メベヘ!?

くそっ!今度はこいつか!?

最悪だ…。

何で、こんな場所にいやがるんだ。

このまま黒い灯籠の内側にいちゃダメだ。感情むき出しにしても、この場所だと、やり放題なんだ…。



「おい、おい、おい!!折角の互いの真剣勝負、自ら舞台を降りるなんて事は、あってはならないよな?そんな事する男じゃないよな?」



「…俺は、ここにそんなつもりで」



「そんなつもりで、何だ?これ以上、ふざけた事言うつもりなら、容赦はしないぞ。死んで詫びるか?この儂に。それが嫌ならば、儂を…見事、斬り殺して見せろ。それが筋。そうだろうが」



三角帽子の下から、歯のない口で、唾を撒き散らしながら、よくしゃべる。こいつは、戦う気満々だ。

黒い灯籠の外側にはさっきの奴、内側にはこのメベヘだ。

もし、さっきの奴が黒眼五人衆の1人なら、合流されるとまずい。

どうにか、突破口を見出さないと…。

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