上 下
194 / 399
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その122

しおりを挟む
「ただ、エズアの話は、これ以上続けても、そう心地良いものは何もない。ハムカンデ様に歯向かって、そして、殺された。それだけの話さ…」



やっぱり、エズアは死んでるのか。パルンガは悲しむだろうな。少し英雄扱いしてた様な言い方だったもんな。

でも、神の血が入ってるほどのゼドケフラーが、オーロフ族にやられるんだな。パルンガは、相当強いみたいな事を言ってたけど。ハムカンデが強過ぎるのか?



「最後は、どうやって死んだんだ?」



「…あの時の宝酷城ほうこくじょうの天守層には、ハムカンデ様と太鼓六変人の6人、そして黒眼こくがん五人衆の内の2人、シブとナグがいてね…。太鼓六変人は、ハムカンデ様のご機嫌取りの太鼓叩きだけど、実際は、ハムカンデ様の指示一つで暗器を使って相手を殺す、暗殺者。シブとナグは、ハムカンデ様の護衛さ。エズアは、偽物の宝物をハムカンデ様に投げ、その勢いのまま、ハムカンデ様の喉元に手を掛けた。エズアの周囲には、敵しかいないのにも関わらず…」



「ハムカンデ様の魔力は、魔獣エグゼラス級で、重力を操る魔法は得意だったけど、それでも、エズアの突進は止められなかった様だった。黒眼五人衆シブの変幻稲妻斬りをまともに受け、太鼓六変人の毒針を打ち込まれた。それを意にも介さず、ハムカンデ様を殺そうとしたのは、よほど騙されたのが悔しかったんだろうね。クェタルドもいつ死んでもおかしくない状態だったみたいだから」



エズアは他人のために、自分の意思を曲げて戦ったのかも知れないな。その結果がこれだ。ただ、オーロフ族の発展のために力を貸しただけに終わった。

クェタルドが知ったら、どう思うだろうな。オーロフ族は、支配下に置いた東角猫トーニャ族も引っ張ってきて、戦いに参加させた。エズアは、クェタルドのために戦った。でも、それが戦いを長引かせ、より死人を多く出す結果となっていたら…。

余計な事をしてくれた、そう思われる可能性もなくはないだろうな。

いや、俺も意地が悪いな。

俺は、クェタルドを知らない…。

エズアも知らないんだ、あまり憶測で判断しない方がいいのかもな。



「エズアは、さらに襲いかかる黒眼五人衆ナグの腐乱天元斬りをかわして、ナグの胸元に血飛沫が部屋中に飛び散るくらい、致命傷となる爪の攻撃を食らわし、そして、地面に落ちたナグの刀を奪い、それを間髪入れず、シブに投げ、それが見事シブの胸元を貫通させて、シブを仕留めたんだ。あの戦闘能力の高い黒眼五人衆を、こうもあっさりと倒した。でも、ハムカンデ様に、その時に致命的な隙を与えてしまったんだよ…」



「エズアの首元に麻酔針が刺さり、少し身を仰反らせた時に、魔闘石ロワの出番さ。エズアの膨大な魔力は、大量にハムカンデ様の魔闘石に流れ込み、立場は逆転、猛攻を受けたエズアは堪らず、天守層の窓から飛び降りたんだ。動きの鈍ったエズアに、ハムカンデ様が追いつく事は容易な事だった。でもね、ハムカンデ様は自分で留めを刺さず、エズアは信じられない裏切り者だと、街中で声を上げて、ゆっくりとエズアの後ろをついて回ったんだ」



「…最悪な奴だな」



「約束と違う偽物の宝物を渡そうとしたなんて、他には知られたくないだろうしね。ただでさえ、オーロフ族は、盗人しかできない姑息な種族って見られていたんだから、尚更だよ。ハムカンデ様は、エズアに首を強く掴まれていたせいで、爪が首に食い込んでいたから、その傷痕で血を流していた。重傷ではなさそうだったけどね。その血が流れる自分の首を押さえて、エズアを指差して、裏切り者、仲間を殺した、と被害者を演じ、叫び続けた。家から出てきた者達も、ハムカンデ様の姿を見て、エズアが敵なんだと思い込み、攻撃に出てね、それは、オーロフ族、黒眼五人衆の3人もそうだけど、クェタルドと共に守った事も多かった、東角猫族もエズアを攻撃し始めたんだ。反撃する余力も無くなっていたエズアは、心中穏やかではなかっただろうね。でも、エズアが反目に回ったら、皆殺しに遭うと恐れての事だから、仕方がないのさ」



そうか。エズアを信じてくれる奴なんて、いなかったのか。

淋しい終わり方だったな。

この場所に街が建つまで守り続けたのに、最後は、街に殺された。

利用されっぱなしで終わった。

誰かのために、何かをするっていう事が、バカバカしく思える。

力を借りたければ、相手を支配しろ、それが一番いい方法なのか?

みんなで心をなくす様に仕向けている、そんな世界だ。

勝手にやってろよ。

俺は、この世界にはいたくない。

すぐにでも、元の世界に戻ってやる…。



「エズアはその時に殺された。しばらくして、噂で聞いたよ。クェタルドも、時を同じくして、死んだらしい」



「…そうか。死んだのか」



全てがムダに終わったのか。エズア。せめて、クェタルドが死ぬまで、側にいたかったんじゃないのか?その時間を、クェタルドを救えると信じて、北のこの場所で戦い続けた。

お前は、バカだよ…。

この世界じゃ、人に尽くしても報われないのは、俺なんかより、この世界の住人のお前なら、知ってるはずだよな?

それとも、俺がこの世界を知らないだけか?

クェタルドは、エズアにとって、そこまでの大きな存在か?



「エズアの話はしてあげたよ。あとは、お前が私に札を持って来た時にでも、この街の出方のついでに、他の話もしてあげるよ…」



ギルロの事とか、夢魔操エイジアの事が聞けてないな。他の住人から話が聞けるかな?正直、無理そうな気がする。閉鎖的な街だからな…。

今聞いた話、そのままパルンガに話す訳にはいかない。話を変えないと。あいつの気がおかしくなっちまう。

そうだ、ベルダイザーの話も聞けてないじゃねぇか。

何やってんだ、俺…。



ガチャ。



ガチャ、ガチャ。



鉄靴と脛当てなんかの脱着、だいぶ慣れてきたな。でも、魔法でもっとかんたんに脱着したいところだ。



「もう行くのかい?」



「ああ…」



茶菓子も出してくれなかったからな。



「では、早めに頼むよ?お札をさ…」



「ああ、わかったよ」



できるかどうかわからないけどな。あまり期待しないでくれよ。俺は、この世界で最弱なのかも知れないしな。



「ああ、そう言えばさ…」



「ぐぎゃ…ッ!」



ん!?家の外で変な声がした!?

普通の声じゃない、何か危険な感じがする!誰の声だ?わからない…!わからないけど、家の前で立たせているのは、パルンガだ!

ちくしょうっ!



ダダッ!!



「外は大丈夫だって、言ってなかったか!?」



「…」



お前はここで死ぬんじゃない!

ベルダイザーのエズアが、この街でかわいそうな死に方をした!

お前は、絶対にここで死ぬな!



「パルンガッ!!」


しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...