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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その116

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部屋の奥の戸が開いた時、白髪の上にきれいに三角を形作った白い猫耳がある、少し目のつり上がった色白の容姿端麗な女が姿を現して、微笑んできた。

茶色の地味な着物を着ているのが、少し残念だ。

垂れた茶色の獣耳が、確かオーロフ族だった気がするけど、耳が違っても、この女も同じオーロフ族か?



「おや?近くで見ると、よくわかるよ。お前は、リョウマ族だね?」



またか。この世界だと、よほど似てるんだろうな。まさか、この体は、リョウマ族を意識して作られたのか?それとも、リョウマ族の赤ちゃんの中に、俺を転生させた?



「お前達の故郷は、前の星の破壊で、復元されていない…。ただ、別の説によれば、正常な地理の位置にはないだけで、剥離されたリョウマ族の故郷の土地を、他の大陸、またはこの第5大陸の中央、東側の空いた箇所等に加えられたとも言われている。実際はどうなのかねぇ…。もう、私達は東側に行く術はないのだから」



リョウマ族の故郷…?前に、謎の炎の力の中で、力を貸してくれた霧蔵や右京も、リョウマ族の様な気がするけど(日本人の様な気もしないでもないが)、もし何処かの場所にそれがあるなら、少しは行ってみたい気もするな。



「さて、本題に入るとするよ。私がお前達をこの街から出るための情報を教えてあげる。もちろん、ただでという訳にはいかないのは、お前達も予測している事だろう?私ら東角猫トーニャ族は、ここに連れて来られる前に、ハムカンデ様の地場止クレイグという彫魔法ジェルタ類の魔法で、この周辺に寄せられて、元の故郷に帰る事ができなくなっているんだ。もっと前に、東角猫族の一部は、私より早くからここに連れて来られて戦わせられたみたいだけどね。その地場止を解除する手伝いをして欲しいのさ」



うわぁ…。凄ぇ、面倒臭そうだな。ハムカンデって、オーロフ族で、この街の一番の支配者とかだよな?そいつに何かされたから、それを解く手伝いをしろって、それは、この街の支配者に楯突けって事だよな?本当にこの街から出られないのか試してもないのに、その話に乗ったら、本当に100%出れなくなるだろうが。

割に合わねえよ、それは。



「その地場止を解除する札は、あの宝酷城ほうこくじょうの一番上にある天守層にあるという話さ。私らは、あのオーロフ族から奴隷扱いされているから、あの宝酷城に入る余地はないけど、来客扱いされそうなお前ならどうかねぇ?気に入られれば、あの宝酷城に招かれる事もあるはずさ」



すでに招かれてはいるけど、外で待ってるゼドケフラー様々のおかげで、罠の臭いしかしねえけどな。



「いや、中々厳しい条件じゃないかな…?」



「断りたいのなら、断っても良いさ。私は、今日明日、死ぬって事もないのだからな?特に私は、この家主が滑って勝手に死んだのだから、今は、誰からも直接虐げられる事もない。この事が他の者に知られたのなら、この家に新たなオーロフ族の家主が来て、再び地獄の日々だけどねぇ…」



じゃあ、断ってもいいのかな?何か、少し引っかかる言い方した様な気もするけど。



「よく考えて、答えてごらんよ?お前達は、この街の事をよく知らずに入った、言わば旅人なのだという事は、察しがつくのさ。この第5大陸の北西の端まで来て、何を求めている?この北には、第6大陸の橋が架かってはいる。そこを渡ろうとしているのなら、このまま進んでも、渡れる事はないのさ。この街に魔力を売りに来たという話も、有り得ない話だよ。この街に魔力を直接売りに来るなんて、普通のルートじゃないんだ。異例な事だとしても、そういった輩も最近は現れない。大陸南部にいるオーロフ族が魔力買い取りの取りまとめをしていて、それを定期的にオーロフ族自身がこの街に運んでくる。また、奴隷とされた私ら東角猫族が、魔力を集めに出て、夜になるとこの街に戻り、家主に譲り渡すのさ。お前達の目的は、この街じゃないんだろう?わかってるのさ。ひと休みに立ち寄った程度の事なのだろう?ここに一生、留まりたくはないよねえ?」



うーん。見透かされた様な気もするけど。でも、ハムカンデか…。

俺、別に窃盗の技術なんてないけどな。幼い頃、夜中に起きて、冷凍庫のアイスを親の許可なしに食ったとかならあるけど。

でも、最近はあまりこの街に魔力を売りに来る奴なんていなかったんだな。というか、魔力を売るのにこの街に直接来る事自体がまれって事か。

オーロフ族の変なジジイに絡まれた時、よくこの街に泊まろうなんて思えるね?みたいな事を言われたかな。

よっぽど、腕に自信があるとでも思えたのか、それか、とてつもなく大きな魔力を売りに来たのかと思われたのかな。

因縁のありそうなゼドケフラーの幼獣を連れて混乱させてやろうと、わざとこの街にやって来た奴とか、思われてたりして。

ただ、このまま北に行っても、第6大陸に渡れなそうなのは、少し前に会った黒眼こくがん五人衆のメベヘも同じ事を言っていたな。

それなら、明日、宝酷城に招かれるしかないのか?

それで、実際に、少しだけその札の事を口に出しても良さそうな機会があったら、言ってみてもいいし。

うーん。

そこまでが限界かな。

このまま黙って、この街を出ても意味がなさそうだしな。

それに、この街に入ってからずっと、まだ薄らと右手に紫色の炎が浮かんでるのが見える。

この街で何かが起こる、それを予感して、誰かの魂が俺に力を貸そうとしてくれている様な、そんな感じがする。



「わかった。じゃあ、その札を手に入れてきたら、この街の脱出方法を聞くとするよ…」



「そうか!わかってくれたか!」



「たださ、俺も疑い深くはなってるから、この街の事や、その他の事の話を聞きたいんだけど、それは可能かな…。俺も、命懸けの条件になりそうだからさ…」



当然、これは飲むよなぁ?飲まないと、おかしいぜ。何となく、俺側の方に負荷がかかり過ぎてる感じだもんな。



「フフ、おもしろい男だな。いいだろう、少しは暇潰しにもなる」



そう言って、この女は近くにある木樽のハンドルを捻って、コップに黄色い液体を注いだ。それを、俺の前に差し出してきた。



くんくん。



まさか、これは。

…オレンジジュース。

俺の殺害に使われた飲み物だ。しもべが、オレンジジュースの中に微生物のイボオカシを入れ、俺を殺害、転生に成功という訳だ。ははは、今思い出しても、ムカつく内容だ。



「飲め、ひと時の同盟を組む証だ」



ほう?同盟ですか…。これで?とても刺激的な贈呈をありがとうございます。

でも、この状況で飲まないはないかもな。何も飲んでないから、喉も乾いているし、この目の前の女がオレンジジュースに毒仕込んで俺を殺す利点はないしな。安全だろう。



ゴクリ…。



「ふーっ」



久し振りに飲んだからなのか、オレンジジュースはおいしいな。

さすが森に囲まれた街ってだけあるよな、果汁100%って感じだ。



「ちなみに、オレンジ果汁は3%未満だ」



何ぃ!?こんなに濃厚なのに、3%未満!まるで地元の自販機の果物ジュース並みじゃないか?

それをわざわざ公表してくるこいつもおかしいが…。



「他は何で補ってるの?」



「もちろん、オレンチさ」



何だ、オレンチって。



「さぁ、ひと息つけただろう?お前が欲しい情報を言ってみてごらんよ?私にとって、久々の来客だから、多少の話にはつき合ってあげるよ…」
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