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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その115

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遠くに思えた宝酷城ほうこくじょうは、黒眼こくがん五人衆のメベヘって奴がいた場所から1時間足らず歩くと、目の前に大きく見えてきた。

三角屋根の破風はふっていうものが見える。見た目は、日本の城に近い印象だな。この城も、窓以外は家と同じ様に黒一色に染められている。

5階建てくらいはあるのかな。家の真ん中から上の階は、大きな窓がいくつもついていて、そこから溢れる様な明かりが、近くの黒い家を昼間の陽の様に明るく照らしている。

窓には障子の様な紙が貼られている様に見える。だから、明かりがそのまま強く外に抜けているんだ。

あの城から、たまに太鼓の様な音が聞こえてくるから、何かの催しでもやってるのかも知れない。



「テテ。あの城に行くのか?」



「いや、今は行かない。さっき会った奴の中で、あの城に招待するって言ってた奴がいたけど…」



「じゃあ、明日、行くど」



ええ?決断早いですね、パルンガ大先生わ。お前、死ぬかも知れないのにな。この街は、ゼドケフラーと何かあって、印象が悪いんだよ。情報を手に入れたら、この街を去るのが一番なんだと思うけどな。



「フフフ、おバカなよそ者だねぇ?」



「!?」



「どうして、この街に入って来てしまったのさぁ?大してこの街の事、知らないんだろう?残念な行動力だねぇ?」



恐いな、急に話しかけやがって。何処にいやがる?少しきつめな感じの言い方だけど、20才台くらいの女の声だ。まさか、ここで戦いを仕掛けられないだろうな?ここは城の明かりのおかげで、まだ多少は戦えるのかも知れないけど、この街では、俺は完全によそ者、できれば、この街で争いは一切、したくない。



「テテ、そこの家の屋根にいるど!」



目がいいな、パルンガ!



「良いだろう、無知なお前達に、交渉してあげるよ。その目の前の家の戸を開けて入りな。それしか、お前達がこの街の事、また、この街から出られる方法を知る事はないのさ」



え?何か脅されてるのか?確かに、俺達は何もこの街の事、知らない。

このまま街を出られないなんて事があるのか?この街に入る時に、特別、門番らしい奴はいなかったけど。

いや、門自体が、門番か?

だったら、また何とかうまくしてあの門をくぐり抜けるだけだ。

問題はないとは言い切れないけど、何とか、また抜けてやるよ。

だけど、街の事を多少は知っておきたいし、それ以外の事も、少しは聞けたら、俺達の今後の行動がはっきりとする。

でも、これは罠かも知れないし、このまま2人でこの家に入るのも危険だ。

どうするべきか…。

この機会を逃して、後悔しないとも限らないよな。

…。

ようし。



「俺だけが入る。それでもいいなら、交渉してもいい…」



1人は恐いけど、パルンガも一緒になってやられたら、誰も助けは呼べないからな。



「まぁいいけどさ。今は、そう簡単に街中で殺しはできない様になっているから、心配はないさ…」



今は、か。



「パルンガ、街の情報とか、あと、ベルダイザーの事も、聞いてくるからな。外で待っててくれないか」



「テテ、何かあったら、オデを呼んでほしいど」



「わかった。ありがとな、パルンガ」



さてと。この気味悪い黒い家に、入るのか。

今さらだけど、やだな。

でも、行くしかねえよな。



ガラガラ…。



「開けたら、閉めてね。私は、勝手口から入るからさぁ…」



うう…。本当に、罠じゃないとは言い切れないよな。俺の見えない所で、俺を殺す支度でもするつもりじゃないよな?



ピシャン。



家の中。紐で吊るされた大きめの電球みたいなものが、部屋を明るく照らしている。家具も全て黒一色、物は最小限という印象だ。部屋は10畳くらいかな?意外と広く感じる。靴を脱がないと部屋には上がれないから、あえて脱がなくても行ける場所まで行って、待つ。何かあった時、すぐに戦える様にはしておかないと。



「部屋に上がりなよ。まぁ、その鉄靴を脱いでだけどねぇ?」



何処から話しかけてんだ?早く部屋に入って来いよ。



「いや、このままでいい…」



「戸口に近い場所にいられて、他の住人達に聞かれたら、反逆と見なされて、私はハムカンデ様に処刑されてしまうんだよ」



さっきは、外で俺達に話してたのにな。まぁ、周りに誰もいなそうだったからか。危険を背負ってでも、俺と交渉したいのは、何でだ?でも、このままだと、この街の情報が手に入らないまま、明日を迎えると、魔力の買取人との交渉か、その魔力の交渉人の家にいた別の奴と、城に一緒に行く事になる気がする。

それよりも、今のこの機会をうまく利用する方がいいのかも知れない。

ここは、勇気を持つべきだよな。



「わかった…」



カチャ。


カチャ、カチャ。



さっきの宿で久々のシャワーを浴びれたから、足があまり臭くはないな。シャワーを浴びたのは、シュティールと宿に泊まった時以来だったよな。



「…そして、その大きな剣は、その鉄靴の側にでも置いておいたらどうだい?」



バカか?蟹が自ら、自分のハサミを紐で縛って、茹でられるのを待つのかよ。

黙って殺されろと言われている様なもんだ。

近くに剣を置けないんだったら、交渉はなしだ。



「それは遠慮しておくよ。あんたとは、大して親しくない様な気がするからな…」



「…」



まさか、こんな事くらいで怒らないよな?



「そうだねぇ…。じゃあ、その条件を飲んであげるよ」



何だ、恩着せがましい。妥協してやるから、交渉を有利に運ばせろとか、言うつもりじゃないだろうな。

この交渉を持ちかけてくるこいつは、また別の魔力の買取人って事か?それとも、それとは関係ない奴なのか?

街の裏切り行為に近い事をしてまで、俺と交渉したいって、どんな理由なんだ?

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