上 下
185 / 395
第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その114

しおりを挟む
黒眼こくがん五人衆メベヘって名乗った奴は、急に黒い家の屋根の上に視線を向けて、様子を窺い、不気味に笑った。



「未だにあの様な者共が、この辺りに現れるとはな。まさか、お前の連れかな?そうであれば、お前は白い砂ではない…」



屋根の上の何かが一瞬動いたのは、俺も感じだけど、俺の連れなんて、パルンガぐらいしかいない。

でも、このメベヘって奴は、屋根の上を妙に警戒してるな。



「またな…。よく休むといい。そうだな、休め。儂は帰るとするよ。明日、そのまた明日。会えると良いな」



このメベヘから感じるものは、殺気か?ただの威圧感か?でも、これ以上、恐くてこいつから何も聞く事はできない。

屋根の上の何かを警戒して、俺との会話から気が逸れた感じだな。

しかし、屋根の上に何がいたんだ?よくわからないな。

メベヘが暗闇に消えた後、パルンガが少し唸った。いなくなったところで、ガルルとか言ったって、負け犬の遠吠えだぞ。だけど、今回はそれでいい。



「テテ、あいつは少し気をつけた方がいいど。死んだ肉の臭いがするんだど」



「え?死んでる…の?」



ブンブン首を振って、否定するパルンガ。結構、大きく何度も首を振ってくれたな。検討ハズレも甚だしいとか、そんな感じかな。少し苛ついちゃったぞ、俺。



「たくさん住人を殺してる。それで、たくさんの住人の体の少し、自分の体についたままでいる、そんな感じの臭いだど」



「へー…」



あまりの恐怖に、頭が働かない。そんな感じの奴に、よく質問なんてしたな。機嫌を損ねていたら、俺は殺されていたかも知れない。

メベヘって奴は、相手に対して、容赦なく、斬り刻む様に殺すのかも知れないって事か?

俺、まさか目をつけられてないよな?だって、何もやってないから。

この街で何かやったか?

パルンガをこの街に連れてきた。

それが、この街にとっては大罪、そうなのかも知れないな。

だから、明日か、そのまた明日会えるといいなとか言ってたのかも。

じゃあ、今日なら、逃げられるって事か。

もしかして、この街を出た方がいいのかな?

でも、この街を出て、どうするんだよ。そうしたら、まず、夢魔操エイジアは諦めるしかない。人が持ってるのは間違いないのに、その人との会話を避けて、手に入れられる訳がないんだ。しかも、確か、使うには、魔法が必要だったよな?あの片眼鏡男は吸魔晶エイマジクルスとか言ってたか?その魔法の事も知らないのに。

北に行って、第6大陸に渡り、ギルロの根城には行けるかも知れないけど。その中に気軽に入れるとも限らない。

情報がないんだ。

この世界で情報を手に入れるには、逃げてばかりじゃなくて、勇気を持ってイカれた住人どもと接するしかねえんだよ。



「テテ、オデはエズアの事、知りたいど。手伝ってほしいど」



え?お一人で、ご自由にどうぞ。俺は別に、エズアの事なんて、どうでもいいからな。それどころじゃない。



「テテ、優しいから、手伝ってくれるど」



いや、くれないど。ただでさえ、お前と一緒にいて不穏な空気が漂ってるのに、その大元となるゼドケフラーのエズアの情報集めなんか始めちまったら、裸でみんなにナイフを配って、俺を刺し殺して下さいって頼んでる様なもんだろうが。

絶対に、手伝わねえ!



「テテ、エズアは思いやりがあって強いんだど。かんたんに、死んだりなんか、しないはずなんだど」



それは、思いやりがなくて、実は弱かったから、死んだんじゃないのか?

いや、強かったとしても、誰でも、死ぬ時は死ぬんだ。仕方がない。でも、お前はまだ生きてる。お前がやらなきゃいけない事は、それじゃねえだろ?



「パルンガ、エズアの事よりも、自分の事はどうするんだ?ベルダイザーを倒して、幼獣から抜けないと、死んじまうって、お前、言ってたよな?」



ベルダイザーは、絶滅危惧種って、あのメルシィーニって猫女が言ってたよな。

この街まで歩いて来たけど、ベルダイザーはいなかった。それどころか、獣1匹、見当たらなかっただろう。全て狩られて、絶滅してたら、お前どうすんだよ。



「ベルダイザーの情報集めをやれよ…」



だけど、ベルダイザーの情報集めも難しいかも知れない。

この街の奴らに拒否反応が出てるゼドケフラー、その幼獣を、成獣にする手助けをする様なもんだからな。だったら、こいつは、この街から出して、ベルダイザー探しに時間を使わせた方がいいんじゃないのか?

いつかは、別れがくる。

それはわかってはいても、淋しいもんだよな。

俺は自分の事ばかり考えてる。パルンガがそばにいてくれたら、何だかんだ言っても、心強い。

でも、お前に何の利点があるんだ?

俺の命が危ない時も、助けに来てくれたよな?

俺は、お前にとって、何の役に立っている?



「パルンガ、お前はベルダイザーをさ…」



「オデは、ベルダイザーの情報を集めるど!」



「!?」



お前は、このまま街にい続けると、殺されるかも知れないけどな。でも、俺も同じ様なもんか。お前と一緒にいるのが目撃されているからな。

この街はゼドケフラーに関わりがあるんだ、情報はたくさんありそうだからな。パルンガがもう少しこの街で情報を集めるのも、悪くはないのかも知れないな。

ただ、この街を支配してそうなオーロフ族とか、さっきの不気味な奴じゃダメだ。さっきの奴が言ってた、奴隷として使われてる東角猫トーニャ族、そいつらから情報を得るんだ。この街で、立場は悪いはず。だったら、何か一石を投じたいと思う奴がいてもおかしくはないよな。

俺は、夢魔操とギルロの情報を集めるから、お前はベルダイザーの情報を集めろ。

気が向いたら、エズアの事、聞いておいてやるよ。





しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界に生まれ落ちたのは予想外でしたがみんなを幸せにします!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:2

アンティーク魔導玩具店、アンヌの日常

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:4

イケメンがモテすぎてオタクに目覚めたら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:72,030pt お気に入り:24,137

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,778pt お気に入り:3,059

処理中です...