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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その81

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目の前にぶら下がってる餌に、必死に食いつこうとしている猫みたい、そんな感じがした。

その餌は、俺の場合、日本に帰るための、ギルロだったり、夢魔操エイジアだったりするのかな。

この第5大陸に夢魔操、隣りの大陸にギルロの根城、それがわかっただけでも、何か急にそれらが手に入りそうな気がしてきたのは、大した手がかりもなく、諦めていたものが、大きな情報が入って、前よりも身近に感じたからなのか。



「オラァァ…!」



次元斬なんてもんじゃない。俺が今やってるのは、ただ力任せに相手に向かって剣を振ってるだけだ。心に余裕なんて、ある訳がない。相手が俺のラッキーパンチを食らって効いているとわかって、勝負を急いでるだけだ。それはわかってるけど、悠長に戦いを長引かせるのが、結局、俺の勝率を0に近づける事になるっていうのも事実。

正直、考え過ぎて行動をためらうのが、嫌なだけだ。俺は、命乞いをして、名前を捨ててまでして、今、生きている恥知らずな小心者だ。考えたって、まともな考えなんて、浮かぶ訳がない。

相手の女も、俺のまぐれパンチに警戒して、俺に隙ができても、あまり攻撃をしてこなくなったな。多分、俺がわざと隙を作って、こっちに引き込もうとしてると思ってるんだろうけど、残念だったな。そんな上等な頭を持っていないんだよ。

《冬枯れの牙》ラグリェの時も、この女の時も、無我夢中で手を出すと、突きや蹴りが当たる時がある。でも、俺は拳術とか、格闘術とか、奴らが言う様なものはやってきていない。まぐれでしかないんだ。

でも、今、そのまぐれを期待して剣を振っているのは間違いないな。殴る蹴るより、剣の方が、一度でも当たれば、勝負がつく可能性があるから、何も考えずに、剣を振る。

俺の動きが読めてきて、女のかわし方に余裕が生まれ出してきたのがわかる。多分このままだと、どのタイミングかで、まとめて攻撃を仕掛けてくるだろう。

でも、俺は、この動きを止められない。



まぐれパンチが当たって、何で、剣は当たらないんだ?そんな思いがずっと頭を巡っている。



早く、この女を倒して、夢魔操やギルロの体と魂の場所へ行かないといけないのに。



俺が何度も剣を大きく振って、その動きで生まれ続ける大きな隙。女は軽蔑した笑いで、とうとう攻撃を再開した。



「アルヴァロ・スティッカーッ!」



また黒い煙が俺の周りに浮かんでくる。


そして、黒い煙の中から、女の手足が急に出てきて、いい様に殴られたり、蹴られたり。


悔しくて。



悔しくて、たまらねぇよ。




「う、うぉおッ!!」







ブオォッ!








俺は、いつからこんな情けない奴になっちまったんだよ…!






本当は、こんなに情けない奴じゃなかったはずだ。






こんなに弱い奴じゃなかったはずだ。







こんなに、自分の事ばかり、







考えてる奴じゃなかったはずだ。







この戦いで、俺のために駆けつけた奴が。









死んでるのに…!








パルンガにひどい事を言った。それなのに、あいつは助けに来てくれた。お前は、成獣になるために、ベルタイザーを倒しに行くはずだったのに。







俺のために、戦ってくれたのによ。










「フフフ…!」










ヒュッ。










ヒュッ。









「…これが、君の実力なのさぁ。目がついてこれていないみたいだねぇ?」









ササッ!








「さぁ、私は何処にいるかなぁ…?」










サササッ!











「フフフ…。この戦いは終わりさぁ。もう、決着の時だよぅ!」








サササッ!










ザッ!











ヒュッ!!









…お前は、俺の背後にいる。その踏み込み方は、右突きだ。







「にゃ?」










ビュッ!








「!?」









「か、かわした!?お前は、何者だにゃあ!」








くらえッ!?









まぐれパンチ第2弾!!







「オラァァッ!」








ズドッッ!!








「くっ…ふぁぁッ!!」


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