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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その78

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はぁ…っ。









はぁっ…。










中々うまく当たらないもんだな。









肩に力が入り過ぎてるのは間違いないんだけど、この力を抜くと、手がまた笑ってくる気がして、難しいよな…。







くそっ。








お前らこの世界の住人とやらは、獣化するんだろ?







早く、獣化してくれよ。







俺は意外と、強えぞ。











「うぉおおおっ!」








ブォオオッ!







「そのままだと、空振りで力を使い果たしてしまいそうだねぇ。そうしたら、君の首を折って、運ぶとしようか?フフフ…。それがいい、ねぇ?」







確かに、この女の言う通り、このままだと、体力が消耗するばかりだ。






何か策があれば、よかったんだけど。







逃げるにしても、確実に追いつかれるだろうな。しかも、この鎧姿だ。俺もよく動いてると思う。大剣は重いし…。








でも、最初の頃と比べると、俺もこの鎧姿で動くのも、大剣を持って、振るのも、慣れてきた感はある。







あの謎の炎から、霧蔵と右京の力を体感して、その技の感覚が今も残っている。だから、俺はしもべから旅に出されたばかりの力量じゃない事は間違いない。







ただ、霧蔵や右京の並外れた力は、相手を倒した時に抜けてしまったのは事実。あの力がそのまま残っていれば、俺はこの女に負ける事はないはずだ。







「もう終わりなのかなぁ?その鎧や剣は、飾りだったみたいだねぇ。じゃあ、君から魔力を奪って殺したら、その鎧と剣も、魔力と一緒に売る事にしようかにゃ?いくらになるか、楽しみだよねぇ。ありがとう…フフフ」






金に目が眩んで、何が一番大切なのか、わからなくなったんだな。かわいそうな奴だ。






だから、たくさん人を殺しても、平気な訳だ。







俺も、集中してやらないと、地球に戻る前に、死んだら意味がないからな。









この女が、もっと鬼みたいな顔してたら、戦いやすかったのかな。こいつ、顔に愛嬌あるんだよ。目は、殺しを続けてきただけあって、鋭い目つきをしているけど。






金のために無実な人を殺し続けたんだろう?じゃあ、お前は地獄行きだ。







うさ耳オヤジのキリングみたいに、利用されて悪に転じたとかだったら、後味悪いんだけどさ。







でも、そんな事ばかり思ってたら、死んだ奴が浮かばれない。







パルンガは、俺のために戦って死んだんだから。








獣化して、もっと醜い姿にでも変わってくれよ。悪魔みたいな姿でも、構わねぇ。そうしたら、思いっきり、この剣を叩きつけてやるよ。







「今度は、私から攻撃してみようかなぁ…?そうしてみようか?大丈夫だよ、取り敢えず、首を折るまでの作業さ」








お前は金、俺は地球に戻る、どっちがそれに対して執着心が強いんだろうな。








俺は、この世界には絶望しかない。だから…。地球に、日本に戻る。また、日本で、失望からの逆転といこうじゃないか。






父さんは家を出た。







母さんは、まだ何処となく、かつての家族を思い浮かべて、呆然としてる日々を過ごしてる感じだ。






そこからだ。








そこからまた、続きを始めてやろうじゃないか。







あんな奴…。








あんな奴だけどよ。








…。









俺が呼び戻してやる。









家に、戻してやるよ。









お前の家は、俺と母さんのいる家が、本当の家なんだってな。













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