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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その76

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「君の動きは私のこの目で、はっきりと見えるんだよぉ?フフフ…。その手に大事そうに持っている剣を、私に向けて振ってみるのかなぁ…」







女がそう言ってきたけど、もちろん当たりだ。当てたからと言って、攻撃をしない訳にはいかないんだ。俺は、必ず地球に、日本に帰るって、決めちまったんだからよ!





「うぉぉぉぉおっ!」







俺の手は、笑っていない。剣の握りをしっかりと、つかんでいる。








ブォオッ!








ヒュッ!







「ほらほら、ちゃんと狙わないと、私の反撃は恐いよぉ?」








いくらこの女の目が光ってるからって、こんな暗闇の中で、女との距離感がわかりづらい。もちろん、次元斬の斬り筋なんかも、全く見えない。それでも、手を出さないよりはマシだ。ひたすら振り続けるしかない。








こいつを倒して、先に進まないと。俺には今、幸運の女神が微笑んでんだよ。







「うぉおっ!」











ブォオッ!









「!?」






「その程度の剣技で、よく今まで生きてこれたねぇ?腰が浮いてるから、ひと振りの精度が悪いのかにゃ。フフフ…。私は、ここだよ?ここにいるのにさぁ…。さぁ、当ててごらんよ!?」







ブォ…、カキッ!







くそっ!痛ぇな!木の幹に、剣が当たりやがった!






この女、暗闇の中でフットワーク取ってんな?光る目が上下にふわふわ浮いてるぞ。この場所は地面に草が結構茂っていて、ステップ踏んだりとかには向いてなさそうなのに。






戦いの経験、か?








数撃ちゃ、当たるじゃないけど、攻撃の手は休める訳にはいかねぇ!








「うぉお…っ!」









ブォオッ!







「にゃははっ!肩に力が入り過ぎだにゃ。そんな攻撃で、後何万回剣を振ったところで、私に当たる訳がないのさぁ。ねぇ、どうする?どうしようかなぁ?もう、私から攻撃して殺してしまおうかなぁ?それとも、もっと遊んでほしいのかにゃあ!?」







このままじゃ当たらない?俺が剣を振ろうとした時に、この女の光る目が遠のく。もう動きが完全に読まれてきたぞ。






どうするのがいいか?距離感が曖昧過ぎるのに、ヘタにさらに距離を詰めようとしても、今度は懐に入り込まれたり、回り込まれたりするとさらに厄介だ。







どちらにしても、周りに木が多いし、星の明かりも届かないこの場所は、剣を振って戦うのには向かない。星の明かりが届くすぐそこの開けた道の方に出るしかない。相手は夜行性の目を持っている。どの場所でも、俺の動きが見えているだけでも、この暗闇の場所で戦うのは、単純に俺だけが不利だ。








ようし…!









「俺の、これから見せる必殺剣は、お前なんかにかわせないだろうな!?ハハハ!どうだ?見てみるか、じゃあ、そこの道で見せてやるよ!」






俺がそう言ったら、瞬きを2回パチパチとしてみせたな?呆気に取られてもどうでもいい、場所を変える口実になるのかならないのかもどうでもいい、今止めを刺しに来られない様に、間を作って、場所を変えたいだけだ。






ザザザッ!








「下手な言い訳にゃあ…」







ヘタな言い訳だって?それでも、お前は俺に止めを刺さないでいる。俺を舐め切ってくれたから、少し猶予を見てんだろ?じゃあ、作戦は成功って事でいいよな。






ザッ、ザッ…。







ザッ…、タタタッ。








少しの星明かりの下でも、さっきの場所よりは遥かにマシだ。この女のシルエットがはっきりした。これなら、相手との距離感がつかめる。周りに、剣を振るのに邪魔な木はない。地面も、人が何度も行き来してる様な道だ、地面が適度に固く、草が大して茂っていない。





俺は今、気負い過ぎてる。また戦いに、急に恐れを感じてしまう事を嫌がるみたいに。でも、それでもいい。変に落ち着くと、また手が笑い出して、剣がまともに握れなくなりそうだ。







適当に、必殺剣がどうとか言ってみたけど、全くのウソって訳でもない。








夜空の星の光が当たるこの場所なら、剣をなぞる境界線は見えないだろうか。











次元斬で、決着をつけられないか?




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