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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その75

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この女、パルンガをやりやがった…!よくも…。





「少しは戦い慣れたゼドケフラーだったみたいだけどさぁ、私は幼獣にやられるほど、弱くはないのさ。だけど、右肩に強く噛みつかれたから、苛々させられたけど、お別れの時間は意外と早くやってきた様だよぅ。君の場合は、もう少し、長く生きていたいよねぇ…?そう思うなら、素直に首を折られて、魔力抽出の場所まで持っていきやすい状態にさせてくれるよねぇ?」





くそっ!腹立つけど、俺の剣を持つ手が笑ってやがる…。こんな状態で、剣なんかまともに振れる訳がねぇ!






根性も何も、失くしてんだよ…。






俺が、何ができるって?







命乞いだ。







俺は自分の名前さえも放棄して、命乞いして助かった。それが取り柄なんだよ…。








パルンガ、お前には悪かったと思ってるよ。でも、正直、そこまで強くないんだったら、ベルダイザーって獰猛そうな獣には勝てなくて、結局、お前は幼獣のまま死ぬ事になっていたんだ。どうせ、死ぬ運命だったんだよ。






許してくれ…。







俺も、このまま、死にそうだ。同じだよ、お前と。俺も、弱いからな。








命乞いをしても、この女には通用しない…。








金儲けのために、俺から魔力を取って、そして殺すんだから。








「…それとも、先ほどのゼドケフラーみたいに、私に歯向かってくるのかなぁ?お勧めしないけど、私がケガをした腹いせに、八つ当たりで君を殺してしまっても悪い選択ではないかも知れないねぇ。魔力も、多く持っていそうにもないみたいだしさぁ。まぁ、君に任せるよ…。どちらにしても、死ぬのには変わらないからねぇ…?」






恐い…。








恐いけど、このまま暗闇の中で首を折られて魔力を奪われて、そして殺されるだって…?






一瞬で楽にさせてもらえないのなら、やっぱり、冗談じゃねぇよな…。








ググ…。








こんな場所で淋しく死にたくねぇ…。せめて、日が出てる明るい時に、知ってる奴に見守られて死にてぇよ…。








「わかったよ。そのまま、震えていてねぇ…?すぐ済むからねぇ?」








ああっ!ま、待て待て!









頭が回らねぇ!









どうしょうか!?









取り敢えず、間が…欲しい。













何か、何か言おう…。









…。









そうだ、ギルロだ。









俺がこんな目にあってるのも、この世界に来るハメになったのも、ギルロがいたからだ。








ギルロがいなければ、あのしもべは俺をこの世界に転生させなかったんだよな?








ギルロ…。









ギルロ、ギルロ!









その野郎は、今、何処にいやがるんだ!?











「…お前は、ギルロを知ってんのか?」







取り敢えず、何かしゃべらないと、頭と体がカチカチになってるから、緊張を解くつもりで、頭に浮かんだ事をしゃべろうとしたけど、でも、この境遇の元凶とも言える奴の名前が浮かびやがった…。








そしたら、この女は。








「ギルロ?何を言ってるんだ?第6大陸に根城を構えているじゃないか。最近は姿を見せないけどさぁ。この第5大陸から北に架かる橋から行けたみたいだけど、今はどうなのかなぁ?」








そうなのか!?








ギルロの体と魂を探せってのが、雲をつかむ様な話だったけど、ギルロの根城…がわかっただけでも大きいんじゃないのか?すげぇ、すげぇぞ!これはもしかしたら、この大陸に魔法で移動させられて、ついているのかも知れない!







「まぁ、君には関係ないよ…。魔力を抽出しに私と別の場所に行くんだからねぇ?」







くそっ…。魔力を奪われる、か。俺に魔力があったとしても、完全に雀の涙だろうに。やっぱり、ゲルロブライザーに…。







「ゲ、ゲルロブライザー装置か?」








「君もしつこいなぁ。そのゲルロブライザーとかって、知らないんだって…」








「君は大きな魔力がありそうにないから、メルボリック魔石に吸い取ってもらうのさぁ」








メ、メルボリック魔石?








「とてつもなく大きな魔力があれば、あの方の持つ、夢魔操エイジアで吸い取ってもらうんだけどねぇ。そうすれば、もっと多くの報酬がもらえるのさ」








「!?」










「夢魔操…?」









…確かに、そう言ったよな?










片眼鏡の人が教えてくれた、あの夢魔操。ゲージが3つあって、そのゲージを魔力を集めて満たせれば、願いが1つ叶うっていうものだろ?








もう1人の俺を殺した奴が持っているっていう話だったけど。








…。











来やがった…。俺に、とてつもなく大きな運が。









俺が地球に帰る方法として、ギルロの体と魂を見つける事、もしくは、夢魔操で願いを叶える事だったはず…。








この運だ…。








この運に賭けるしかねぇ…。









「おしゃべりはここまでさぁ。じゃあ、首を折らせてもらうからねぇ?」







首を…。俺の首をか?








「悪ぃな…」








俺に血の気が戻ってきやがった。当然だ、地球に戻れる可能性が1%もなかったのに、その可能性が一気に膨れ上がってきたんだからよ。






どんな強い奴が持ってるかもわからねぇ夢魔操だけどよ、この第5大陸にいる奴が持ってるんだよな?それがわかったなら、このまま諦めて死ぬよりは、わずかな可能性を選ぶしかねえ!








ギルロの居場所も、もしかしたら、本人の根城…にいたりしてな。






よくも、こんなクソ世界に連れてきやがって…!








俺は帰るぞ…。








必ず、帰ってやるぞ。








「そうか、その構え…。死を選ぶのかぁ?了解にぁぁ…」










「…知っちまったんだよ。」











「わずかでも、俺に希望があるってよ…」










「フフフ…」









「だったら、そこにしがみつくしかねぇよな…?」










「君には、絶望しかないのさぁ…」









「お前は絶望に到達してるみてぇだけどな、お前と一緒にするんじゃねぇよ…!」








「にゃぁあ!?」









「そうか、癇に障ったか…?悪かったな」










「じゃあ、そのついでに…」










「…へぇえ?」











「…倒してやる!」




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