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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その74

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「夜空から照らされる僅かな光で、この私の動きを目で捉えられると思うなよ。そんなに簡単な事じゃないんだよねぇ。フフフ…。ゼドケフラーの幼獣程度が、私に牙を剥く事自体が分不相応なのさ…」






さっきの女の姿が見えない。何処だ?今、何処にいるんだ?あの女の目は、パルンガと同じ様に目が光っている。でも、声がする方へ目を向けても、うまく暗闇に紛れているのか、全く見当たらない。





パルンガの目は光っている。そのパルンガの視線をなぞって、その先を見てみる。でも、いない…。いない様に見えるだけで、本当はそこにいるのか?






「テテ、オデが倒すど。黒い空気は見えている。何も心配いらないど」








 パルンガが声を抑え気味にして、俺にそう言ってくれるけど、俺はただそれを信じるしかない。だから、情けないんだ。この世界の奴らは信用できないとか散々思っておきながら、自分の力が弱過ぎる、この世界で通用なんかしないとわかったら、誰かに縋ろうとするなんて、本当に情けない。




パルンガが鼻息を大きく吐いた瞬間、地面を蹴って、あの女の方へ向かっていった、様に感じた。目では捉えられない。鼻息と、風を切る音と、その聞こえてくる方角で判断してるだけ。


離れたところで争っている音が聞こえる。パルンガとあの女が戦っているんだ。俺は、その間に落とした大剣を拾って、戦いに備えるしかない。




暗くて地面がわからないから、足で草の上から地面を踏みつけ、剣の金属音がしたら、そこを手探りで探そう。





ふみふみ。







…。








ふみふみ。








カキン!









あ…。









えーと。









あ、あったー。








「!?」










…急に何だ?








周りが静まり返った。パルンガとあの女の戦いはどうなった?下手に動かない方がいいのか?腰を屈めて、身を隠す事に集中するべきか、それとも体を起こして、大剣を構えた方がいいのか?その気になれば、あの女の目は光ってる、夜行性という事なら、俺が本気で隠れようとしない限り、こんな光の大して届かないこの場所も、かんたんに見つかるんだろうな。




虫の音一つ、しないこの静けさ。






嫌な間だな。







パルンガ、お前は今、何処にいる?







あの女は何処だ?






あの女に首を掴まれた時の、人差し指の爪の突き立てられた箇所がまだ痛い。








血は出てなさそうだけど。





生きた心地はしなかった。






あんなのがいるから、この世界はおかしいんだ。いっその事、みんな、死ねばいいんだ。この世界の奴ら全員。イカれた性格が感染して、この世界全体に広がってるのなら、もう誰も助からないだろうし。







はぁ…。







パルンガは、かわいそうか…。








今、あの女と戦ってるのは、俺があいつを呼んで、俺を助けるために戦ってるんだ。あいつには、俺が生きようが死のうが、関係なかったのにな。





あいつが本当に追ってるのは、ベルダイザーって、獣なのに。





《冬枯れの牙》ラグリェに刺されまくった胸が、まだ何か怯えてる。震えていて、俺の呼吸がおかしくなってくる。






俺、こんなんで、この世界、生きていけんのかな?楽に、死んだ方がマシなんじゃないかな?






つまらねぇよ。






こんな人生、誰も望んでねぇのによ。










ザッ…。











ザッ…。








「!?」











「フフフ…」










ま、まさか!?ウ、ウソだろ!?パルンガはどうしたんだ?








暗闇に浮かんだ光る目は、獲物を狩ったばかりの興奮気味な様子で、殺気立ってる。







次は、俺の番だって事か…?










この女…。















「とても刺激的な夜だにゃあ。次は、名無し君、再び君の番がきた様だよぅ…」











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