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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その70

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俺の背後から首を締めつけて人差し指の爪を刺す女が、もう俺は手中に落ちたと思ってんだろう、余裕そうに俺に話しかけてくる。バカにしやがって。ただ、今の俺にはここから何かをして形勢逆転なんて、何も発想が湧かない。





少しでも後ろを見ようとすると、女は機敏に反応して、俺の首にかけた手の力を強めてくる。今すぐ死にたいのかと言わんばかりに。俺に話しかけながらも、俺への警戒は解いてない。この女は少し軽そうな口調だけど、隙がないのは、こうやって俺みたいな警戒心が薄い奴を捕まえて、そして殺すのに手慣れてるんだ。俺の指先が痺れている…。俺は、首にかかる女の手を掴んで、首から離そうとする事すらしようとしなかった。ただ、怯えてるだけなんだ…。






俺のこの世界での無駄な人生を終わらせてくれるなら、それも悪くはない。ただ、首と手足を折って、魔力を奪ったら、その後殺すつもりとか、ちょっと拷問タイムが長過ぎだろう。それはさすがに嫌だ。首を押さえなくても身動きが取れない様にするために首なんかを折って、そして魔力を奪うつもりらしい。最後には、永久に逆襲されない様に殺す選択は、最悪だ。この世界の奴らは、その程度の事しか考えてないんだよ。





俺に魔力なんてないのによ…。









…待てよ?








この女の口にした、ここが第5大陸って言うのが本当なら、あのウサギオヤジのキリングが俺を見て言ってた、田舎者っぽいから第5大陸から来たんだろとかいう言葉も、俺を助けた冷血野郎が言ってた、俺がリョウマ族なのかと聞いてきた事も、今、背後にいる奴も、俺の事をリョウマ族だと思ってる事も考えると、もしかしてそのリョウマ族って、俺みたいな姿の人種なのかも知れない。






そうだとすると、俺の記憶に浮かぶ人が2人いる。あの不思議な炎から俺に力を宿してくれた霧蔵と右京だ。あの2人は人情がある。この世界の人間じゃないんだろうなとも思っていたけど、そうじゃない可能性も十分に出てきたぞ。この女が言った、リョウマ族起源がこの大陸なら、俺とまともに話せて、協力してくれそうな人がいるんじゃないのか?







だとしたら、この大陸に飛ばされて運が良かったとしか思えない。









この場をどうにか凌げないと、その運も全く意味がない…。これはチャンスだ。それはわかっているんだ。だけど、何か行動を起こす気力を湧かせようにも、ラグリェとの戦いと今の状況を重ねて見てしまう。全然状況が似てもいないのに、勝手に恐がりやがって…。








何て、情けない…。








いいさ、好きにすればいい。







俺の手に剣はない。それに、俺がこの女に恐れてなかったとしても、この首にかかる手の力は、今は本格的に首を絞めにかかってなくても、首を掴んで爪をある程度気管近くまで差し込む力でこの女の持つ力の強さがわかる、俺にはこの女の力を超える力は出せはしない。





金が欲しいから、人をかんたんに殺すのか?その金で何を買うんだ?





おいしいものを食べるのか?そんな汚れた金で買った食べ物はおいしいのか?





服でも買うのか?人を殺して稼いだ金で買った服は、血で汚れた服を着てるのと同じだ。それは呪いの服だ…。






そこまでして生きて何がある?








お前らみんな、ゴミなんだよ。







自分の事ばかり、考えてんだよ…。






「フフフ…、じゃあ、取り敢えず、この首を折らないとにゃー」








「ああ…。好きにしろ」








特に何も感じなかった。虚無感。ああ、それだ。何もかもがもう、どうでいい。今、この世界に居続けても、この先の未来なんかない。もし仮に生き続けられたとしても、日本人だった事も忘れていくんじゃないのかな。俺が誰だったのかもわからなくなって、そしてこの世界の絶望に付き合わされるのかも知れない。俺はこの世界で何かの仕事にありつける気がしないし、もし、生きる事に執着するなら、この女みたいに、手を汚す仕事をし始める事も、あり得る…。そうしたら、俺は…。






そうなる前に、今、この人生を終わらせた方がいいんだ…。











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