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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その62

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この森の中で、意外にもこの紫色したリンゴみたいな形をしたものが、一番おいしかったな。これに毒入ってたら、この後、多分、死ぬ。





味は甘酸っぱくて、おいしかった。






今のところ、特に体に異常はないから、多分、大丈夫だろう。







何個か食べたら、お腹が満たされたから、しばらくは何も食べなくても大丈夫そうだ。






しかし、手の届きにくい高さにあった木の実を取るのに、この大剣が役に立つとは、思わなかったな。この大剣の今後の用途が決まった。木の実収穫用道具、これだ。







今度は、柿が食べたいな。甘い果実が食べたい。






柿、柿…。









ん?









誰か、何か話したか?









声の低い男が、何か叫んだ…?








この森に、誰かいるのか?









パルンガ?






それとも、あの赤ちゃんもどきの化け物?








それ以外の奴が、この森の中に?








いや、気のせいなのかも知れないな。はっきりと聞こえた訳じゃない。もしかしたら、人じゃなくて、獣が叫んだとか。








警戒はしておこう。もし、手に負えない化け物が現れたら、いざとなったら、この大剣も投げ捨てて逃げれば、ある程度の速さで逃げられる。逃げて、逃げまくってやる。






この大剣の重さ、正直言って、最初は持って歩くのが苦痛でしょうがなかった。剣を振る精度なんて、ひどいものだったし。だけど、あの不思議な炎が現れると、俺は剣の達人の生きていた頃の過去に連れていかれ、その生き様を見せられる。その剣の達人の力を、一時的にだけど手に入れる事ができていて、現在に戻り、それを利用して、目の前にいる敵と戦った。







その剣の達人の技を戦いの中で使い続けると、その技の感覚が体に慣れていって、戦いが終わって、その剣の達人の力が俺の体から離れていっても、その技の感覚が体に残っていて、今もその技もどきを使えたりする。







この大剣の重さが、今は最初ほど気にならなくなっている。剣の切っ先まで、俺の手の指先みたいに感じる時がある。もう少しで、この大剣の重さだけじゃなく、剣の振り方も、もっと慣れてくる。そんな気がする。







霧蔵の剣技、次元斬を使う時に見える剣を振る道筋、この道筋を速く正確になぞらないと、次元斬でも何でもない、ただの斬撃になる。だから、剣を正確に振ろうとする。それが、この大剣に慣れる近道になったのかな。








だったら、この大剣は、この世界で生きるための命綱…。逃げる事に専念するために、この大剣を捨てて逃げる事は、結局、死に繋がるのかもな。








でも、せめてこの大剣を収納する鞘はほしい気がする。背中にでも納められれば、移動が楽になる。








この剣は何か特殊みたいな事言ってたよな。じゃあ、しもべに言って、この剣専用の収納する鞘をもらうしかないんだよな。







しもべ、か。








この世界で、俺にギルロの体と魂を探させるため、俺を殺してこの世界に転生させた元凶を信用するなんて、俺もアホだよな。








はぁ…。









もう、戻れないよな。









俺は、しもべに踊らされてるだけ。








冷静に考えると、そうだよな…。









はぁ。










ん?









やっぱり、声が聞こえる。









今度は悲鳴にも感じるな。










さっきとは違って、今度は、そこまで離れた場所から聞こえた声じゃない様な気がするけど、でもやっぱり、声がはっきり聞こえてくる訳じゃないから、気のせいなのかも知れない。でも、気持ちが悪いな…。









開けた道に出るのは止めておこう。







…?










あれ?










あそこの木に寄りかかってるのは、あれ、人じゃないのか?









ぐったりしてるけど、寝てんのかな?










上着が派手な色だな…。長袖の赤いシャツ?下は黒いズボンに長靴履いてるのか?









首が垂れてるから、寝てそうな気がするけどな。








まさか、死んでないよな?










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