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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その59

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カツン!











カツン!











大剣を持ちながらじゃ、うまく走れない!大剣を持ってる手がちぎれそうだ。通り抜ける木にぶつかって、その跳ね返りがたまに俺に襲いかかる。








「うわっ!」








後ろからついてくるブタウサギに攻撃されてる訳でもないのに、自分の大剣で危ない目に遭う俺って…。




いい加減、追うの止めてくれないかな!たかが石投げただけだろう!?それがいけなかったのか?





気が短い奴らばっかりだよ、この世界の奴らはよ。ついてねぇな、助けようとした奴が一番化け物みたいな奴だったし。





高速這い這いの三つ目赤ちゃんは追って来てないよな!?さっき、コケてたからな。追いついてきてないと思うけど、後ろを振り向く余裕もない。








「オデ…」







「ギャー!」







木をかわしながら俺の横で並走してくるブタウサギ!仲良くランニングしてるみてぇじゃねぇか!?もう許してくれよ、お願いだから!






しかし、この森、深そうだな。やっぱり、さっきいた場所のゴフルオーターって森じゃないのかもな。何で瞬間移動させられたのか、よくわからねぇ。





俺、思いっきり落ち込んでたのによ、そんな暇すら与えてくれねぇのかよ、この世界のゴミどもわ!?







俺の顔を覗き込んでやがるよ、コイツ!木を避けて、地面も多少は歪んでんのに、それも苦にならないで、よく並走できるよな!?俺が遅過ぎか!?この大剣をこのブタウサギにぶつけてやってもいいんだけど、もう腕が痺れてそれもできねぇ。









「…オデ、助けてくれたの?」











「はぁ?お前なんか、助ける訳ねぇだろうが!?」











くそっ!何か言ってきたな!?俺を足止めするために、油断させようって事だな!?ははは、本当にムカつく生き物ばっかりだよな、この世界はよ!俺も笑顔でお前の頭上から、この大剣で斬り下ろしてやろうか!?









「オデ…」








ダメだ、逃げ切れねぇ。このブタウサギと、広場に出て、戦うしかねぇのか!?ああ、ヤダヤダ!もう死ぬ思いなんか、したくねぇのに!







「オデ…」







オデ、じゃねぇんだよ!うるせぇブタだな、コイツ!いい加減、俺から離れろ!!









「オデ…」








あっ…。










ドカッ!!










ガキィィン…、キィン。









バサッ。










「いってぇ…」







はぁ…。










はぁ…。










はぁ…。









木にぶつかった。うう…、痛ぇ。







平衡感覚がない。地面がぐらぐら揺れてるみたいだ。脳震盪か?








俺の大剣は何処行った?わからねぇ…。









「オデ…」









ダメだ、俺、死んだかも。








「オデ、成獣になるために、ベルダイザーを食べるといいって、言われた。さっきの超音波、ベルダイザーじゃない。額に目がない」









ああ、そう。別に、お前の好みの食べ物はそれじゃないって、教えたい訳じゃなかったんだけどな。







ダメだ、しばらく立ち上がれねぇ。体が痺れてる。










「知力と魔力、質のいい肉を持った、ベルダイザーを食べないと、いけない」










じゃあ、さっきの赤ちゃんもどきの化け物でも良さそうだけどな。見かけによらず、強そうだしな。だけど、外見が赤ちゃんだから、気分良くないし、他の動物でも食べてくれ。







俺が人間に生まれたから、この考えも自分都合だよな。まぁでも、仕方がない。人間なんだから。








「オデ…、助けられた」








何だ?やっぱり警戒してたのか、あの赤ちゃんを。そんな感じだったもんな。やっぱり、この世界の奴ら同士、魔力ってもんを互いに感じてたのかな?









「助けられた…」










助けてねぇけどな。だけど、思った以上に、弱虫なのかもな、コイツ。今の俺と同じだ。







「オデ、ベルダイザーを食べる。探してくれるか?」









やだよ、バカ。何で俺がお前の食べ物を探さなきゃならないんだよ。餓死してくれた方が助かるんだよ。








大体、三つ目じゃない赤ちゃん風の奴なんだろ?ベルダイザーって。じゃあ、赤ちゃんそのものを探してるんだろうよ。探す手伝いする訳ねぇだろう。








「アルテリンコ・ブイ!」







ピロリン!










「わっ…」









いきなり空間に、青く透けた電子枠みたいなものが現れたぞ。すげー。










その枠の中に、立体的な動物が映ってる。ゆっくり回ってるな。何か、虎みたいな動物だな。








「これ、ベルダイザー」









四つ足で歩いている様に見えたから、赤ちゃんを食べようとしたのか?虎みたいなのを探してるのか。











「お腹に青い模様が入ってる」









虎のお腹を見るのは、寝てる時くらいじゃないのか?








「アルテリンコ・ブイって言って、相手を思い浮かべれば、送りたい言葉が送れる」









何で俺が、そんな変な言葉を使って、お前とメッセージ交換しなきゃならないんだよ。







「相手がこのアルテリンコ・ブイ使う能力を持ってれば、お互いに使える。オデ、能力ある。だから、テテ、能力なくても、オデとのアルテリンコ・ブイできる」








そうなのか?ところで、今、俺の事、テテとか呼ばなかったか?









「テテ、助けてくれた。名前、教えて」









テテって、お前とか、貴方とか、相手の事を呼ぶ言葉だったのか。








俺の名前…。









5才くらいの時、何かの施設の裏の空き地で、石を拾って、木に当てて遊んでた時の事、また思い出しちまった…。







同い年の子が近づいて、名前を聞いてきたけど、俺は答えなかった。だから、殴られた。








家に帰って、母さんにその事を話したら、自分が生まれて、存在している、生きているんだから、名前を教えてあげるんだって言われたよな。






俺は、《冬枯れの牙》ラグリェに、自分の名前を否定する事で、命まで取られずにすんだ。







名前を守れなかった。










俺が今も存在しているのは、名前を捨てたからだ。









生きているのは、名前がなくなったからだ。










俺は、名乗れる名前がない。









「テテの、名前は?」









俺に誇りなんてないんだよ。土下座でも何でもして、生き残りたいだけだ。死にたくないだけだ。








…勇気がないんだよ、俺は。









何もないのが、俺なんだよ。









「テテ?」











「悪ぃな。俺、名前なんて、持ってないんだよ」


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