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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その38

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カラス野郎のラグリェは、俺を見据えたまま、一歩も動こうとしない。俺への恨みをさらに溜め込んで、一気に殺そうと思ってんのか?俺を見くびって、遊びながら殺そうとしてんのか?











または、その両方かよ…。












ザッ!












俺が一歩横に動いても、カラス野郎は動かなかった。











こんなんで、反応する訳ないよな。












俺の体には、あの白い空間の男の力が宿ってるのは、間違いなさそうだ。











今、カラス野郎の後ろにある木の天辺から、勢いよく飛び立った鳥…、くちばしにくわえていたのは、ミミズか?でも、触角は2つあったよな?









この世界、虫も変わってるのがいるのかもな?










俺の普通の時の目じゃ、急に飛び出した鳥のくわえていたものが何かなんて、見える訳がねぇ。









この白い空間の男は、動体視力が際立って高いのは、間違いない。











もしかしたら、目の前の《冬枯れの牙》ラグリェ相手に、勝てるんじゃないのか?













この白い空間の男の力を使って、次元斬で、倒せはしないのか?











なぁ…。











このカラス野郎は、俺にかなりの恨みを持っていて、殺意があるのは明らかだ。今、この場所から逃げられたとしても、また何処かで戦うはめになる様な気がする。









こいつは、薄汚ぇ、ボーグン族の依頼を受けて、俺以外にも、こうやって待ち伏せて、この世界の住人を殺し続けてたんだろ?











ゴミボーグン族以外、いらねぇだろう。こんな奴。












ダメか?











俺は、霧蔵から、次元斬を教わった。











こいつが決まれば、相手の心臓だけを斬り、勝負は一瞬だ。










この機会を逃せば、次にカラス野郎に出くわした時に、今、体に宿ってる力があるとは限らねぇ。その時は、負ける可能性は遥かに高くなる。










正直よ…。











俺は、ボーグン族の偽物の優しさや、こいつのふざけた殺害意欲にうんざりしてんだよ。











…この世界の住人なんて、どうでもいい。











ろくな奴がいないんだからよ。











この世界で今まで、何人いたかよ。大した理由もなく、俺を殺そうとした奴は。












ふざけやがって…。
















俺は、自分の身を守るため、今、こいつを倒す!


















こいつを、倒す…か。けど、もう1人の俺は、どうやって倒した?












もう1人の俺が、このラグリェを負かした時にも、手から炎が出て、大きな力を手に入れて倒したのかもな。いや、でも奴は、俺の手から炎が見えた時、魔法も使えるのか?みたいな事を言っていたから、違うのかな。











もう、















決めたよ…。












どうであれ、もう1人の俺が一度は倒した相手、俺だって、やれるさ。










ラグリェは、未だ動く気配はない。














余裕ぶりやがって。















でも、だから。















今なんだ…。











今、やれるさ!











少しは気の緩みもあるだろう。













そうだ。











俺は、ラグリェをやれる!












…悪いけど。












頼むから、このまま力を貸してくれ。














…頼む!





















いぃっ…!











く、












ぞぉぉぉ…!!













「…ッ!」












ザザザザザッ!!













ほら、カラス野郎との距離をかんたんに縮められたぞ!













ビュンッ!












オラァ…!













待て!逃げんじゃねぇよ!















ビュンッ!

















何ぃ…!?































「ククク…。今の俊敏な動きは中々のものだぞ、矢倉郁人やぐらいくと。だが、その剣が手枷てかせとなっているのか、まだ私の知るお前とは、程遠い動きだ」











ふぅぅ…。












後ろに跳んだり、横に跳んだり、よくそんなに動けるよな。何で、そんなに俺の剣をかわせるんだよ…。俺の動きは、かなり速くなってるはずなのに。奴の言う通り、まだ速さが足りないのか?










…動きが読まれているのか?













一度、もう1人の俺と戦っているから、何かの俺の動きの中で、癖を見抜いているとか?












今さら、そんな俺の動きの癖なんて気づかないし、気づいても、すぐに直せる訳がねぇ。












今、俺はカラス野郎との距離を、一気に2mに縮めたはず。そこから、無駄のない動きで、大剣を水平に振った。











カラス野郎は、俺の大剣をかわすため、後ろに跳んだから、その動きに合わせて距離を詰めて、また、大剣を水平に振ったんだ。









今度は、横に大きく跳んで、俺の攻撃を軽やかにかわしやがった。











何て身軽な奴なんだ。











腹立つな…。










逃げる事しか興味がないのか?だから、もう1人の俺に負けるんだよ。そのままじゃ、剣さえ抜かずに、いつか負けるぞ。バカカラス野郎。













はぁ…。












俺と同じ様な身長のくせに。体重は、何処かに置き忘れてきたのかよ…。












「お前の小手調べは、まだ続くのか?ククク…。この再戦は、待ち焦がれたものだ。今日は、忘却の夜…、日は落ちず、空の明かりはこのまま保たれる。どんなに戦いが長引こうとも、私は構わないぞ」












ああ?日が落ちないだと?










都合がいいのか悪いのか、わからねぇから、どうでもいいや。











本当に、この俺の今の動きが通用しないのか、試してやる。














もう一度、いくぞ。












…。















今度は、次元斬を混ぜて、攻撃してやる!













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