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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その37

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「ククク…。どうした?お前の魔法は、これから私に披露してくれるのではないのか?大した時間など、お前に残されてはいないのだぞ。出し惜しみしている場合ではないだろう?」











両手を広げて、呆れた様子を見せてるカラス野郎めが。…ムカつく野郎だぜ。













神風閃かみかぜひらめきの剣って剣技が、こいつを倒す鍵なのはわかったけど、今それを手には入れられないだろ?…やっぱり逃げるしかない、か?












次元斬を何とか食らわせられれば、勝ち目はあると思うけど、こいつは俊敏で、中々斬りつけられない。でも、剣の打ち合いとかに応じてくれれば、勝ち目は少しでも、出てくるはず。
















俺の次元斬は、剣も体もすり抜け、心臓を直接斬りつけるからだ。












でも、打ち合いにはなるとは思えない。こいつ、持ってるのが細身剣とか言ってたからな。細い剣が、太い大剣と打ち合う事自体、不利になるのは、誰でも想像がつく。俺の事を相当ナメてくれたとしても、だ。

















ナメる…か。














それじゃなくても…。











少し怒らせて、動きを乱させるのは、ありだな。


























怒らせ方を間違えれば、恐い…けど。












仕方がねぇ…!






















「…おい、ラグリェ。本当は、ボーグン族が恐ろしいんだろ…。だから、お前、金で引き受けた様な形にして、言う事を聞いてるんだよ…」











ほら、怒って俺に突進でもしてこいよ。それを闘牛士みたいにかわして、そして、逃げ切ってやる。















「ククク…。無知こそ、至上の幸福とも言えるのだ、お前は赤子の様に、さぞ、幸せな事だろう。私達の思考に愚劣な者どもが理解を示せるはずがない。いずれ時がくれば、《冬枯れの牙》がこの世界を掌握する事になる。それまでの猶予を、与えているに過ぎないのだ…。矢倉郁人やぐらいくと、お前はここで今、死ぬ事になる。要らぬ思考を巡らせて、それが今のお前に何の役に立つ?」



















あまり乗ってこないか?俺の事を少しだけ怒って、向かってきてくれればいいんだ。けど、難しいな…。必要以上に怒らせるのは、意外とかんたんだと思うけど、それじゃ、逆効果になる気がする。もう一度、俺に負けたらどうだ?とか言えば、いいんだろうけど、多分、それだと怒らせ過ぎて、俺が瞬殺される…。











今の俺の体には、白い空間にいただろう人の力が加わってる感じがする。身軽に感じるんだ。霧蔵や右京みたいな身軽さとは、また違う様な気がするけど、この今の体の感じなら、この目の前にいるラグリェの攻撃も、かわせる気はするんだ。
















例の炎に、今回も感謝、という事だな。











ふぅ…。


















カラス野郎の攻撃をうまくかわして、逃げる、か。












本当は。












こんな世の中のためにならない悪どい奴、倒したい気もするけどな…。
















こいよ…。ラグリェ。

















「ククク…。どうした?私に恐れを成して、向かっては来れないのか?」












こいつ…!挑発し返してないで、早く近づいてこいよ。
















意外と、俺の手に見えた炎を警戒してるのか?












剣だけじゃなくて、魔法も使えるとか言って、バカにした感じだったけどな。


















…一度はやられた相手だから、それなりに警戒はするか?やっぱり。まぁ、それは俺というより、もう1人の俺、だけどな。










あんまり何度も言ってると、頭おかしくなってくるぜ。もう1人の俺とかよ。











普通は、もう1人もクソもないんだよ。俺は、俺だっていうのに。



















このカラス野郎は、妙に落ち着いてやがる。それが、不気味だ。ちょっとした身のこなしを見るだけでも、できる奴って感じがするし、俺が想像している以上の力を、どのくらい持ってるか…。それによっては、俺がわずかな隙を衝いても、逃げられない様な…。














それに、何か、臭うんだよ…。カラス仮面の奥に潜む邪悪な臭い、って言えばいいのかわからないけど。












こいつは、あまり怒らせると、大変な事になる…。














…ふうっ。



















もう1人の俺が、このカラス野郎を退けたって言ってたけど、本当はどうなんだろうな。












もう1人の俺との戦いで、こいつには、もしかしたら、奥の手があったのかも知れない。それにもう1人の俺は気づいて、一瞬の隙を衝いて、こいつを吹き飛ばして、逃げる様に去ったとか?










いや、それなら、このカラス野郎は、俺の事、前の戦いでは、逃げた…って言うだろうな。













まぁいいや。



















俺の次元斬を、何度もうまくかわしてる以上、俺の動きは読まれてる…。

















さっきの白い空間にいた人の力は、どんなもんなんだろう。それ次第で、俺がカラス野郎とどのくらい渡り合えるか決まってくる。












それより、今、感じるのは…。














多分、霧蔵や右京ほどの年もいってないだろうな。何となく、若い気がする。












下手したら、俺より若い気もするんだよな。













でも、何だろうな、あの落ち着きようは。











はぁ…。












まぁ、逃げるまでの力は貸すって事だから、ありがたくお借りしますよ。















白い空間の人の力じゃ、右京の真空斬を出すまでの力はないだろうな。重い大剣を、異常なくらい速く振って、空気を伝って斬撃を飛ばすんだから、剣の振りはバカ速くないとダメだからな。











俺の微々たる力を、さらにつけ加えたところで、真空斬は無理だ。











じゃあ、やっぱり俺には、次元斬しかないな。













これが決まれば、俺の勝ちは決まるんだけど、一撃必殺ばかり狙っても、動きは読まれるばかりだ。














白い空間の人の言う通り、わずかでも勝ちを狙うのは、止めた方がいいかな…。












うまく逃げる方法を考えよう…。 




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