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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その33

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「期待していたボーグン族に裏切られたか?ククク…ッ。お前は、私の期待を裏切らない事だ。そうだろう?かつてのお前は、私の力を凌駕りょうがし、その場から私を退けた。ぜひ、今日は、そのお返しをしたい」












黒いクチバシを尖らせたカラスの様な仮面を被ったこの男、やっぱり、こうやって対峙しているだけでも、恐い…。少し歩いたり、首を傾げたり、または少し黒いマントを動かしたり、その一つ一つの仕草が細やかというか、いざ本気に動き出したら、そのしなやかな体から、素早く指先までカンタンに100%の力が十分に伝わりそうな、感じが伝わる。







かなり戦い慣れている…。









そんな気がする。











そして、前に会った時もそう感じたけど、深い闇を抱えているのが、カラス仮面越しに伝わってくる。何で、そう感じる?声が低く、大して抑揚がないからか?俺に対して、人に接してきている様な感じがしないのも、気になる。まるで、動き出す事のない人形を目の前に、興味なさそうに踊ってみせてるみたいだ。









奴の頭の中じゃ、すでに俺を殺して、死体に変えてる姿を思い描いてる?










死体と話してるとでも?












それとも、人を殺し過ぎて、人を生き物として見れなくなったのか?










ただの、悪魔だ。















今度は、見逃す事はないだろうな。











シュティールを切り株街に置いてきたのは、間違いだった。あいつは俺の神経をやたら逆撫でしてくるけど、多分、あいつは強い。










少なくとも、俺よりは。











どうする?













こいつから、どう逃げる?













逃げて…。












何処に行こうか…?











フグイッシュ…。











俺がもう1人の矢倉郁人やぐらいくととは何か違うと疑っても、暗殺者に俺を差し出して、本物かどうかを確かめさせるほどの事か?










カフクマの言葉に、俺がこうなる事に気づいたはずだ。












なのに、俺にその事を教えないで、このカラス野郎に、そのまま俺を差し出した。










悪魔が、かわいい皮を被って過ごしていたのか?











俺が利用価値があるとわかると、優しくして、そうではないと感じたら、遊ばなくなったおもちゃみたいに、処分するのか?









偽物の優しさなんて、吐き気がするよな。












無償の優しさなんて、そんなもの、元々、この世に存在しないか?











そうだよな。











俺も、ボーグン族を最初から信用してないし、エルヴァ・ガインシュタットとか、ギルロ探しに利用してやろうとしていただけだからな。











ボーグン族のカフクマは、もう1人の俺のために、家や神社を作ってくれてたみたいだけど、もう少しで、その偽物の優しさに騙されるところだった。













残念だったな。もう1人の俺は、もうとっくに、死んだんだよ。











夢魔操エイジアとかいうものを持ってた奴に殺された、そういう話だったよな。










もう1人の俺は、何でも願いを叶えてくれるその夢魔操で、この世界から地球に帰ろうとしてたのか?










片眼鏡男も、ボーグン族も、この目の前の《冬枯れの牙》ラグリェも、もう1人の俺に一目置いてるのに、そのもう1人の俺は、夢魔操を持っていた奴に殺された。











俺より強いのに、強かったのに、死んじまったんだ。










俺なんかが。












生きていられるほど、甘い世界じゃない。










もう、戻れない…。











地球に。

















くそっ!俺には、もう1人の俺みたいに、拳術がない。でも、もう1人の俺は、剣を持たなかったんだろ?じゃあ、次元斬もできるはずがない。











俺にも、少しばかりの強みはある。











この目の前のカラス野郎を、倒す可能性は0じゃないはずだ。











やる前から、負けを認めたら、あのクソボーグン族どもにも、バカにされるだろうよ。









やっぱり、偽物だった。よかった、暗殺者に差し出しておいて、とよ。











…そうはさせねえ。












冗談じゃねぇよ。












バカボーグン族の、クソ野郎どもが。
















大剣の握りを、両手でしっかり握って、少しの震えを、俺は大丈夫、俺は大丈夫だって、魔法をかける様に心で念じた。











ほら、俺だって、少しはやれる男だろ?













カラス仮面の奥にある目を考えると、今、どんな目で俺を見てるんだろうと、そう考えると恐くなるから、考えない様に。












黙って、殺されはしない。












俺は。
























「クククッ…!シンガリ族をやった時と同じ様に、やはり、その大剣を使うか?私を過小評価するとは、よほど、私との戦いを、余興程度にしか考えていない様だな」























カラス野郎、もう1人の俺に、拳術でやられたんだろ?また、それを使ってほしいんだろうな。
















拳術を使わせた上で、俺を倒したいんだろ?



















拳術だけじゃ飽きるだろうから、さ。


















次は、剣術で、倒されろよ。



















ここで死ぬ訳にはいかないんだよ。












俺は…。












もう1人の俺みたいに、この世界の奴らに認められた存在じゃないのかも知れないけど。











その頭に、俺の情報をアップデートしておけよ。




















俺が、






















矢倉郁人やぐらいくと様だ。



















俺を殺したいなら、かかってこい。


















だけど、俺はもう1人の俺みたいに、武術の達人じゃないんだ。手加減なんて、できやしねえ。










今度は、もう1人の俺と戦って負けた時みたいに、お前を退けるなんて、生易なまやさしいもので終わるなんて、思うんじゃねぇよ。





















「カァ!カァ!剣を使うとは、私の知っている矢倉郁人ではない、よって目の前にいるお前は矢倉郁人の偽物と判断し、この場での処刑執行を宣言しよう。クククッ…。元々、次に会った時は、生かしておくつもりはなかったがな!」






















「よくしゃべるカラスだな…?カラスは光り物が好きなんだろ?」
























「…この剣を、お前の口に突っ込んでやるぜ!」





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