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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その24

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「あれ?何か、すごく強い風の音が聞こえないか?」







台風でも近いのか?ごーごーって音…、この切り株街も、吹っ飛ぶぞ?









「大陸底との吹き抜けから聞こえる音だよ。気にしない、気にしない」









目を細めて笑う顔がかわいいな、フグイッシュ。だけど、大陸底って言ったか?普通にヤバそうな感じがするんだけど、大丈夫か?その吹き抜けに落ちたら、死ぬよな。









「気にしなくても大丈夫だよ。その吹き抜けには近づけない様になってるんだから。特別に許可を得てるボーグン族以外はね。この大陸の修復は地表だけじゃ、ダメなんだから、仕方がないよ」









表だけじゃなくて、裏からもやらないとダメって事だな。やっぱり、この大陸って、浮いてるのか?実際に、何で支えてんだよ、この大陸はさ。浮かしてるだけ?








「記憶が戻っているイクトなら、この話は知っているはずなんだ。私が今、全てを話さなくても、記憶が戻れば、知る事になるよ。まぁ、気楽にいこうよ」








別に沈むんなら、俺が無事に地球に帰ってから、心置きなく沈んでくれ。止めはしない。でも、ボーグン族は、この切り株街で宇宙にでも脱出してくれよな。この街は、宇宙船みたいに脱出できるんだろ?








この家の通路の壁は、所々に掌サイズの水晶玉が埋められていて、それが通路を明るく照らしてるな。少し青みがかった光で、何か、落ち着く。








この先に、大理石っぽい階段があるな。









そう言えば、この家、土足OKかな?ガインシュタット家の建物は洋風だったから、そのまま土足で入ったけど、ここは大丈夫だったか?









「どうしたの?」









後ろからついてくるフグイッシュが、声をかけてきたから、聞いてみた。







「この家、土足で大丈夫か?」








「イクトがそれで良ければ」









「ああ…、そう」









じゃ、ダメだな。俺、日本人だから、俺の部屋があるなら、常識的に考えて、この家は土足厳禁だ。って、フグイッシュ、お前、すでに土足じゃねぇか!今さら、靴を脱いでも仕方がないよな。この鉄靴、重いから、脱いで入ってもよかったけどな。









「何か、脱ぎたそうだね。脱いだらどう?」








フグイッシュ、私は脱がないけど?みたいな態度で言うのは止めてくれ。俺の足がただ汚れるだけだろうが。









まぁ、でも、正確に言えば、俺の家でも何でもないからな。だから、別にこの家が土足で汚れようが気にはならない。













この今上ってる階段の大理石も、鉄靴で壊れようが、知った事じゃない。もう1人の俺も、戻ってくる事はないんだしな。










何か俺、性格悪いな。








今までのこの世界での苛立ちがたまってるからかな。








2階に上がってすぐに、5畳くらいのスペースがある。その壁に、誇らしげに絵画が、額縁に収められて飾られてる。全部で5枚はあるな。









1枚目は、首が長い四つ脚の、キリン…かな?





顔がゴリラみたいに鼻の穴が広がって、目蓋が重そうだな。しかめっ面だし。この星にいる特殊な生物かな?















「それ、キリンだよ」










…普通にキリンか。随分、ヘタな奴が描いたんだな。よく見たら、動体は丸みがなく、角の立った長方形だぞ。ロボットか、これ?









2枚目は、お!鎧姿で馬に乗り、槍を振り回す様子が描かれている。これは、かっこいいじゃないか!


















「それ、キリンだよ」











「何処がだよ!」










いや、キリンというものが俺の思い描いている首の長い草食動物のキリンとは違うのかも知れないな。勝手に、俺の住む地球の常識を押しつけたら、迷惑だよな。ゴメンな、フグイッシュ。










「キリンて、どんなものを言うんだ?フグイッシュ」










そう言ったら、腰から10インチサイズくらいのタブレット…?を出してきた。いつも持ち歩いてんのか?










なんか検索をしてくれてるな。うーん、とか言ってるから、表現が難しいみたいだな。一体、どんなものなんだ?










「はい、これだよ」










おお、ついにこの星のキリンを拝めるのか!












「普通のキリンじゃねぇか!!」










黄色い体して、首が長くて高い場所の葉を食ってんじゃねぇか。俺のよく知ってるキリンだ。さっきの騎士をよくキリンとか、言ったよな?もしかして、四つ脚で、長いものを持ってたら、長い首じゃなくてもキリンとか呼んでたのか?馬は四つ脚で、長い首の代用として長い槍はあるから、キリン…になるのか?








動物園で、キリンの体調が良くない時に、代わりに騎士が槍振り回して走ってたら、客からは、何あれ?とか言われるだろうな。









「そこを真っ直ぐに進むと、イクトの部屋があるんだよ」










この通路か。いよいよ、俺の部屋に到着か?何か、緊張するな。どんなものが置かれてるんだろ。








え?学校の教室にある様な白い引き戸だ。









何か、懐かしいな。






























「よう、郁人イクト!日本史の酒井、今日から産休に入るから、いつもの小テスト、なしだってよ!」












「…え?」












「お前、日本史嫌いだろ?小テストが面倒臭いとか言ってただろう?産休だから、thank youサンキューって言えよ!」








はは…、くだらない…な。










休憩時間の教室の光景だよな。仲のいい奴らで固まって話したり、菓子を分けてもらったり、1人で机に伏せて寝てる奴もいる。








また、夢か何かか?










もしかして、本当に日本に戻ってきたとかは、ないかな。









「久保、お前も…うれしいだろ?」










「当たり前だろう、漢字が少しでも間違えたら、不正解なんだから、世界史のカタカナと比べたら、ハードル高いぞ!」










ここは、俺の高校…だな。








日本史は中学の時、将軍の名前の漢字を間違えてから、妙に警戒しちゃって、第7将軍と第8将軍の名前を間違えたりして、何となく、嫌いになったな。ひらがなで書いても、間違い扱いだったしな。中2くらいから、日本史で点が取れなくなって、勉強するのも、いやになった。











目の前にいる久保は、高校入学と同時に鹿児島から引っ越してきた奴で、子供の頃から外で遊んでたからとか言ってたか、肌がこんがりと焼けていたな。沖縄じゃなかったよな、確か。サッカーが好きで、よく俺にサッカーの話をしてきたよな。俺も、サッカーをするのは好きだったから、話していて楽しかったな。









サトウキビはくきを食ってる感がハンパないとか言って、嫌いとか言ってたな。








じゃあ、やっぱり、沖縄じゃないよな。









そう言えば、鹿児島からこっちへ来た理由が、校外のサッカークラブ関係でどうとか言ってたな。









高校に入って、最初の夏休みで、あのしもべにしてやられたからな。これから、久保とはもっと仲良くなれそうだったのによ。








あのクソしもべに…。









ギルロの体と魂を、探せと。









あいつ、絶対に正体は悪魔だよな。探し出しても、日本に帰してくれないんじゃないのか?










あ。代わりの先生が来たな。みんな席につき出したから、俺も席につかないと。あれ?俺の席、何処だったかな。










俺の…











席。

















あれ?













俺の…部屋とやらか。











はぁ…。また、この世界に戻ってきましたよー、と。









ここが、もう1人の俺が使っていた部屋なんだな。











4畳のスペースと、部屋としては狭いんだけど、畳みたいなものが敷かれているから、何か感謝だな。









「この部屋は、靴を脱ぐよ」










ガチャ、ガチャッ。











この鉄靴、かかとら辺に馬を走らせるのに使う拍車があるから、脱ぐ時に気をつけないと痛いからな。










ふうっ。











「この机、学校の教室に置いてあるものに似てるな」











「それ、カフクマが作ってくれたんだよー」









《祈祷の像》を作ってくれたのも、そのカフクマだよな。この世界でも、優しい奴がいるんだな。それとも、何か裏があるのか?でも、素直にうれしいな。まぁ、机と小さなベッドが置いてあるくらいしかない部屋だけどな。












机に、何か書いてある。












!?













矢倉茜やぐらあかね…。











くそっ…、矢倉龍斗やぐらりゅうと









母さんと、父さんの名前だ。










どうして、わざわざ親の名前なんて、机に書いたんだ?









もう1人の俺って、いつこの世界に来たんだ?誰か言ってた様な、言ってない様な。でも、俺がこの世界に転生されたのと同じ様な時期じゃないはずだ。拳術に優れていて、あの《冬枯れの牙》のラグリェを退けるくらいの腕、そう簡単に身につけられるはずがない。じゃあ、俺が来るどのくらい前に、来たんだ?










この机に書かれた親の名前、忘れない様に書いたんじゃないのか?










何年前…?











まさか、10年以上前とかじゃないよな?










俺みたいに、2才児から一気に16才に引き上げてもらったのか?









それとも、普通に1才ごとに年齢を重ねたか?









それだったら、この世界に来たばかりの時は親の名前は覚えていても、数年経てば忘れそうだな。








フグイッシュは俺の姿を見ても、違和感はなさそうだった。じゃあ、もう1人の俺も、俺と同じ様な年のはずだ。









…何か、聞くのが恐いな。









フグイッシュは、この畳の部屋に入らず、2階に上がってすぐにある5畳くらいの場所に戻っている。俺に気を使ってんのかな。










母さんの名前ならまだしも、父さんの名前まで書かれているなんて。あいつの名前なんか、忘れても良さそうなのにな。









まぁいいや、もう1人の俺がボーグン族と関係を築いて、手に入れた部屋だ。ここで何を書こうが、自由だろう。俺が何かを勝手に変える必要はないよな。














「…?」











机の端に本が置いてあるな。













「!?」











教科書みたいになってる。でも、中身はほぼ白紙だな。たまに何か書かれているけど、あまりよくわからない…









!?











バカだな…。











何で、これを教科書にしてもらおうとしたんだ?










嫌いだったはずだ。












日本の昔からの歴史があるからか。











白紙が多いのは、途中から勉強しなくなって、ほとんど内容が覚えていないからだ。










嫌いな日本史の教科書を作りたくなるくらい、日本が恋しくなったのか?









なぁ?










もう1人の俺。










この世界に来て、どのくらい過ぎたんだ?











漢字がヘタだぞ?










将軍の名前は、忘れたのか?











江戸幕府の第7代将軍は答えられるぞ、徳川家継とくがわいえつぐなんだよ。









俺は、まだ覚えてるぞ。









この日本史の教科書っぽく作ったもののページの中で、第1代目から第3代目までは将軍の名前が書いているけど、第4代目からは、第4、5…とは書いているけど、肝心の名前は書いていないない。











…俺が第7代目と第8代目を間違えて書いた事があるから、覚えてんだよ。











他は、あんまりわからないんじゃないか?











…。















今さら…。












日本史に…興味持ったって、おっせぇんだよ。












ほとんど何も書いてないのに、こんな教科書作りやがって。











中学は義務教育だし…。











高校受験の時は、世界史と日本史の選択式だったから、別に、やらなくてもよかったんだろうけどさ。















こういう時に、ボロが出る…。











後悔したって…。











…。










俺、もっと日本史、











勉強しとけば…良かった。

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