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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その22

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「イクトが、生きて戻って来れる様に、《祈祷の像》で祈ってたんだよ」






フグイッシュが目を見開いて、嬉しそうに俺を見てる。







何か、後ろめたい気がするな。俺なんだけど、俺じゃないって言うか。もう1人の俺、分身。








もう1人の俺、そんなにいい奴だったのか。








ちゃんと、笑顔をしてやらないと。せめて、それくらいはしないと、悪いからな。









フグイッシュ、俺を。もう1人の俺を、無事を祈って、待っていてくれたんだもんな。









言える訳ねぇよな。もう1人の俺の事なんか。










もう1人の俺は、










死んだなんて。



















でも、俺の分身なんだから、俺なんだよな。じゃあ、生きていたって、事でいいよな?







よし。









生きている。










俺は生きて、ここに来た、矢倉郁人やぐらいくとだ。








そうだよな、そうだよ、うん。









「ただいま、フグイッシュ!」








「うん!」









「…俺、戦いで頭打ってさ、記憶が曖昧なんだよ。この街の事、みんなの事、思い出したいからさ」









「え!?」










「あの、一時的なものかも知れないけどさ、早く回復したいんだよっ。はははっ、前にもこんな事があったんだよ。心配いらないからさ…!」









「そう…」










何言ってもうまくねぇな、俺。言葉ヘタクソなんだろうな。フグイッシュ、落ち込んじゃったじゃないか。









そう言えば、母さんが落ち込んだ時も、励ますのが下手だったよな。








俺には重い内容だったから、何もできなかった。









あーあ。










何処の世界に行っても、俺は役立たずなんだろうな。









もう1人の俺は、よくやったみたいだけどな。










ただ、最後が良くなかったな。










死んでるんだからな。











俺も、この先、生きてる保証はないけどさ。












「この《祈祷の像》は、カフクマが、イクトの神様の印象を形にしてくれたんじゃん。この《祈祷の像》に拝むと、よく願い事が叶う様になって、評判なんだよ!」








へぇ。俺、千手観音の印象、強かったかな。そう言えば、ゲームのキャラで、必殺技を出した時に、背後に浮かび上がってたのが、千手観音だった様な気がするな。それを伝えた?








たまに、自分がわからないな…。









「イクトは、イクトなんだから、いいよ。帰って来てくれただけでも!」











「そうか。ありがと、フグイッシュ…!」










「そうだ、早く思い出せる様に、イクトの部屋に連れていってあげるよ!そうしたら、早く思い出せていいよね!」









俺の部屋?そんなにボーグン族に尽くしたの、俺。すごいな、俺。


















そして、ゴツゴツした岩の家が点在する場所に戻ってきた訳だけど。







たまにすごく小さな家があるから、はらはらしちゃうよな。その家の俺の部屋って、しゃがんでギリギリ体入る部屋だったら、やだしな。くつろげない、休まらない、息ができない、けど、もう1人の俺にとって、最高のくつろぎの部屋だとしたら、俺は苦笑いしながら、その拷問部屋にしばらく収納されてないと、間違いなく怪しまれるだろうからな。









「あそこ!」








まーさーかー…。












あの、高さ10m、横幅15mくらいあるあの家か?上出来、上出来。いい広さじゃないの!窓がないのが気持ち悪いだけで、酸素はちゃんと入ってきてはいるんだろ?問題ないよ!じゃあ、俺の部屋とやらに入っていこうじゃないか。









あれ?








第1歩から、向きが違うみたいだけど。









まさか、あの犬小屋みたいな大きさの岩のかたまりの中に、俺を押し込める訳じゃないよな。関節という関節を外したら、入れるんだよとか。フグイッシュは、ボーグン族最高のサイコ野郎とか。野郎とか、男じゃないから、じゃあ、サイ子か?








あ、そう言えば、シュティール置いてきたままだな。










でもたまにはいいか。俺のストレスを増やす事しか考えていない様な奴だからな。







ほっ。










俺の部屋、岩の犬小屋じゃなかったみたいだな。











「そう言えばさ、倒せたの?」











「え?何を…?」












「まさか、それも忘れちゃったの?」











目を丸くして、呆然として俺を見てるフグイッシュ。そこまで記憶をなくすなんて、バカとしか言いようがないな、本当に生きてる価値のない奴だ、今のフグイッシュの気持ちは、そんなトコか?








適当に合わせておいた方がいいかな?










「…倒せた…」




































「何の話…?」











うわっ!











な…何だ?











え、と。












中学の制服だな、コレ。









紺色のブレザー姿。










ネクタイは赤。










サラリーマンみたいで、何か嫌いなんだよな、このブレザーって。






このネクタイ、学校の外に出たら、外したがるのも、サラリーマンと同じ。








さっき、過去の記憶?に飛んだ時も、中学生の学校の中だったけど、あまり制服に気がいかなかったな。








着てたんだよな、きっと。










この景色は、学校の帰り道。長くゆっくりとカーブしていく下り坂の歩道。









目を丸くして、俺を見てるのは、フグイッシュ…でもない…か。










どうしたんだ?俺。










もう3度目だぞ?過去の記憶…に来たのは。












「何が倒せたの?」











ぉぉ、久し…振り。








「いや、何の話だったか、忘れた…」








え、と。何を言おうとしてたんだか。ネクタイが赤い、とかそんな事じゃないよな。








「格ゲー、好きなんだね。俺は、そんなの、得意じゃないけどさ」










「へへ…。でも、買ったじゃねぇか!少しは、やり込んだのかよ?」









懐かしいな。こんな会話、してたかな。












学校帰りのこの下り坂の先に、パンの耳をラスクにした菓子が、150円で売ってんだよな。小さなパン屋が、パンの耳をムダにしないで、商売に結びつけようって始めた、みたいな、さ。










「君だって、やり込んでる割には、一緒にゲーセン行った時、他の人のプレイ、見てばかりいるじゃないか?」












「節約型だからな。小遣い、そんなもらってないんだよ」













「ははは、それは俺もだよ。中学生は1000円で十分なんだって、うちの親は言うんだから。別に、何か欲しいものがある訳じゃないから、いいんだけどね」












うちは、中学の時、学校の成績が良かったりしたら、何か1つ買ってくれたりするんだよな。母さんが。父さんは、ムダな物は買ってやるな、とか言ってたかな?いや、そんな事すら、言ってなかった様な気がする。








関心がないからな。











「なぁ…」













「また、釣りにでも行こうよ。今度は、うちの親を連れて行くから、その場でバーベキューもできるからさ」












「なぁ…、古池」









しゃべれる…。今の俺の気持ちで、しゃべれそうだ。












「え?何?」













「もし、俺がお前に、何かイヤな事を仕掛けたとか、誰かが言っても…」













「え?何?…矢倉君?」












「信じないでくれよな」











「何、イヤな事って??」














「俺、お前の事、いい奴だって、思ってるから…」










「あ、そうなの?気持ち悪いな、どうしたんだよ。まさか、いつものパン屋でラスク、俺持ちだとか、言うんじゃないだろうね?次は、君の番だぞ?」












「…もし、俺の事を殴っても、多分、俺は単純だから、表に出てる態度ほど、根に持ってないんだよ。だから…」














「本当?君、怒ると、すぐ、顔に出るからなー」











確かに、顔に出るとか言われるな。人間なんだから、仕方がないよな。出ないのは、死人と同じ。











「仲直りしにきてくれた時はさ、俺に声までかけてくれよ。俺は、何事もなかった様にさ、返事をする…、から」













「わかったよ、矢倉君。俺達の友情は、続くって」










へへっ。言ってみて、よかった。これは、夢なのかも知れない。でも、言えて、よかった。








俺、今の言葉、信じるからな。古池。高校に行ってからも、友達だぞ。




















もう1人の俺が、ボーグン族の街にい続けたから、前の記憶の中?にいるのかな。俺が、もう1人の存在を感じているのか。










ああ。












帰りてぇな…。













日本に。
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