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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その13

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ボーグン一族の住む街に行くため、俺とシュティールは北へ向かっている。



綺麗な芝生は何処へ行ったのか、乾いてゴツゴツした地面が続く。枯れ木がまばらに見られる。水に恵まれた街から少し北に行っただけなのに、何でここまで水が来ないのか不思議だ。



シュティールは、ニコニコしながら、たまに俺の顔を見て、大変だね、君も、その顔じゃあ、と言ってくる。何が?大変なのかな、シュティール君。お前こそ、人の癇に障る様な事を言ってばかりで大変だな、いっその事、死ねばいいのに、とつい言いたくなってしまう。




はぁ…。この大剣、いつか俺に合った形状に変わるとか言ってたよな。前よりも重くは感じなくなってきたけど、それでも、まだ重いは重いよな。





でも、身を守るのに必要だよな。あー、疲れる。





身を守ると言えば。




俺の手に現れる炎、その炎が腕に入り込むと、大きな力が手に入る。いや、力を貸してくれる人がいる、と言う方がいいのかな。その人は、すでに死んでいるんだ。これは、魔法?いや、召喚?






うーん。





この世界、何でも有り得そうな気がするから、魔法も召喚もあるだろうけど、謎の炎の力、俺の意思じゃないのは、間違いないんだよな。しもべが何かしたとしか思えないんだけどな。






しもべ、俺を殺してこの世界に転生させて、ギルロの体と魂を探せって…。






俺が、矢倉郁人やぐらいくとで、高校生だって事も覚えている。俺は、この世界に転生したという話だけど、こうもはっきりと前世の記憶が残るものなのかな。俺、本当に殺された?もしかして、死んでない?でも、顔は変わったよな。俺の顔じゃないのは、間違いないからな。






もう1つ、謎な事があるな。







もう1人の俺が先にこの世界に来ていて、そのもう1人の俺は、すでにこの世界で殺されていてるって事。






もう1人の俺、夢魔操エイジアっていうものを持ってる奴に殺されたんだろう?片眼鏡野郎も認めてた。拳術使いで、強かったんだろう?残念だ。




俺が地球に帰る方法は、ギルロの体と魂を見つけて、しもべに地球に戻してもらう、それか、もう1人の俺を殺した奴から夢魔操を奪って、そこに魔力をチャージして、夢魔操で願いを叶えて、地球に戻るか。




気の遠い話だな…。




何も考えたくないのは、どの方法も現実味がないから。今の俺は、流れに任せているだけ。正直言うと、そんな感じだ。危機的な状況になると、やっぱり、地球に戻りたい、また矢倉郁人として、高校生の続きをしたい、そう思うんだ。時間ばかりが過ぎて、そのうち、この世界が自分の世界って思い込んだら…。





死にたくなるのかな?






ほらほら、横でシュティール君が、猫みたいにじーっと俺の顔を観察してるよ。俺が素早く顔を動かしてみたら、それに合わせて機敏に視線を合わせてくる。ネズミじゃねぇんだぞ。
何?もしかして今、俺を捕らえようとしてる??





「全てにおいてやる気のなさそうな表情を見せていたけど、もしかして、もう地球に戻る事を諦めてしまったのかい?」







こいつの、ピンポイントで当ててくる感じは、何なんだよ。心読んでるの?だったら、止めろ、気味が悪い。







「僕が言ってる事が当たったから、不満そうにしているね?」








「黙れ…!」






蚊の様にうっとおしい奴だな。だからと言って、パチンと叩いたら、スズメバチみたいに深く突き刺してくるだろうから、やらないけど。少しは気を使ってほしいな、俺みたいに。シュティールの事、まともな神経のないイカレ召喚獣って思ってはいても、口には出さないだろ?







「…僕の悪口、言ってるの??」









「な、何を言ってるんだ、シュティール君。俺は、お前に感謝しかしてないんだよ。今もさ、俺が地球に帰れる手助けをしてくれてるじゃないか」









「別に、君が地球に帰れなくても、僕は何も困る事がないんだから、どうでもいい事さ。ギルロの動向は、気になるけどね」






冷たい視線を俺に向けてるな。シュティールめ、俺を観察するな!観察しても、何の花も咲きはしないんだからな!








「あ、そう言えばさ、あそこに見える霧みたいなのは、何だろうな」







話を逸らそう。霧の壁みたいな場所に近寄ると、体が重たくなる理由も知りたかったところだしな。







「あの霧の先は、まだ陸が復活していないんだ。だから、近寄れない様に、大地の神アノテルシアがかけた魔法さ」







へえ。確か、この大陸は浮いてるんだよな。下に落ちない様にって事か。なるほど。よく考えてるじゃないか。






でも、この世界の住人を気にする神か。湧き水の宝玉を作った神と違って、いい神様もいるんだな。







「この世界の大陸は、まだ30%くらいしか、復活はしていないんだよ」







「そうなのか?そう言えばさ、いつ、この星って、壊れたんだ?」








「それは、企業秘密さ」







日本博士さん、真面目に聞いているんですが…。








「今残っている住人は、2つに分かれるんだ」









「男か、女か…」









「それを言うなら、君は女だろう?」










「男だよ!」










「2つのうちの1つは、この惑星の崩壊に耐えられた住人、他の住人に救ってもらった住人も含めて、ね」








さすが、召喚獣だな。









「もう1つは、惑星崩壊して、修復後に生まれた住人さ」







なるほど。








「弱い住人達は、惑星の崩壊に耐えられなくて、死んだんだ。たくさんね」








「…」







「何で、崩壊したんだ?」








「前にも言った事があると思うけれど、住人同士の力を行使した、ケンカさ。理由はくだらないものだったらしいけど、それで、子供も、老人も、死んだんだから、納得はいかないだろうね」







ケンカで巻き添えくらって死ぬなんて、確かに最悪だよな。老人は性悪なのも混じってるから、正直、天罰下ってるのもいるだろうけどな。俺を殺そうとしたババァとかな。という事は、あいつは生き延びたのか、しぶといババァだ。でも、子供は、かわいそうだな。







「互いに信用せず、用心していた方が、この世界では長生きをするんだよ。今となっては、と言った方がいいのかな」








生き延びるために、他人を警戒して、場合によっては殺す、か。酷い世界に来てしまったな。








「ギルロは、その世界を変えようとしていた1人だったんだよ。」










「!?」









「でも、愚かな行為に走り、そして、制裁を受けたんだろうね」








「その理由を、お前は知ってるのか?シュティール」








「知らないよ」








あ、そう。肝心なところは知らないんだね。まぁいいや、だから一緒について来てくれてるという事なんだろうしな。





「これから行くゲドグロロフという街にいるボーグン族は、少し気難しいかも知れないから、気をつけてね」








「…そうなの?」








「まぁね」








「まぁね?」








「そうなんだけどね」








「そうなんだけどね??」










「フフフ、フフフ」









「…俺で遊ぶんじゃねぇよ!」
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