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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その10

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あ、母さん。



…またか。



話しづらいタイミングで帰って来ちゃったな。



リビングで頬杖をついて、少し口元に笑みを浮かべて、空を眺めている。





また、思い浮かべているんだろ?





優しいんだね。







母さんは。




























あ…。いつの間にか寝てたな。何か、夢を見てた様な気がしたけど。





シュティールはベッドで寝てるな。ああ、こいつ、顔にパックしてる。やっぱり、顔にこだわりがあるんだな。そうでなきゃ、顔の事言ったら、気絶するほど殴ってこないよな、普通。





床が緩く光ってるから、部屋にある物の配置がわかる。この明るさくらいだったら、そのまま寝ても眩しくないだろうな。



テレビがあったら観てみようかなとか思ったけど、なさそうだな。冷蔵庫みたいなものもない。シャワー室みたいな場所があるけど、何かよくわからないボタンがいくつかついてるけど、それぞれ何のボタンがわからないな。汗かいてたから、本当は浴びたいんだけどな。朝、シュティールにでも聞くか。







ん?









…?









何か言った?







気のせいか。








何か低い声で誰かしゃべった様な気がしたんだけど、気のせいか。







シュティールが、宿の探索でもしたらどうかとか言ってたな。何か目が覚めてしまったから、少し宿の中を見て回るかな。





一応、何かあったら困るから、この大剣は持っていった方がいいのかな。






いや、物騒だろ。持っていかない方がいいな。








ん?









何か、やっぱり…誰かしゃべった?








いや、音か?









気のせいかも知れないな。あまり警戒し過ぎると、疲れるからな。リラックスしないと。








すーっ。









はーっ。










すーっ。











はーっ。










俺達の部屋のある2階の通路は、床が黒っぽい茶色の木でできていて、歩くとギシギシと音を立てる。何か日本にある古い旅館に来たみたいな気にさせるな。壁に木の時計がかかってる。何か変な記号が書かれてるな。時計の針も3本の針がある。でも、動いていない。ただの飾りだろうな。







ギシ…、ギシ…、ギシ…。







歩くたびに軋む床。





廊下は薄暗いから、目を凝らさないと、廊下の先があまりよくわからないな。雰囲気作りをしたくて薄暗くしてんのかな。






ん?









誰だ…。










気味悪いから、大剣を持ってきているんだけど、正解だったか?いや、下手に誰かを斬りそうな気がするから、置いてきた方が良かったのかもな。いいや、2階の反対側の端まで行ったら、部屋に戻ろう。






ギシ…、ギシ…、ギシ…。







宿の通路の窓から外の街を見ると、結構暗い。今何時かわからないけど、街に明かりっていう明かりがあまりないんだな。







え?










何を…言ってるんだ?










誰かとしゃべってるというよりも、独り言に近いな。







何処かの部屋で、誰かがしゃべってるんだろう。でも、何か印象が良くない様な声の感じだけどな。何か、怨念がこもってるって言うか。








まぁ、気にする必要はないよな。誰かとケンカして機嫌が悪いんだろう。







ギシ…、ギシ…、ギシ…。






左に曲がって行けば、上と下に行く階段がある。手すりがいかにも古き日本て手すりしてんな。黒がかった茶色の木の手すり、木目がはっきり見えてるな。ちょっとデコボコしてる感じが、木でできてるって感じが伝わる。何か、懐かしいな。






…ん?











この下の方からだな。











下の階が薄暗い。ロビーも電気落としてるんだろう。今、夜中なのかな。時間がわからない。








夜中なら、部屋から出て歩き回ったら、周りに迷惑だろうな。もう部屋に戻ろうか。











「…えぬやずを…」










何だ?








何て言ったんだ?











ギシ………













ギシ………










何かが、この階段をゆっくり上っている?何だ、気持ち悪いくらいゆっくり上がってくるぞ。まるで、生きている人じゃないみたいだ。単調なリズムで、意思すらも感じない。











「…ぬおかば…」











何を言っているんだ?










少し…、覗いてみる…かな。










うっ!?












泥にまみれた1m50cmくらいの身長の奴が、ゆっくりと上がって…。








何だ!?こいつ、半口開けて無表情だぞ。気味が悪い!早く、早くシュティールに伝えないと!







あ、目が黒い…。黒いんだけど、光ってる気がする。わからないけど、光が当たって反射して輝いて見えるのに近いんだけど、その反射の輝きを自分自身で作り出してる。そんな気がする。周りに、そこまでの反射した輝きを出せるほどの光はない。弱い光が最低限の視界を確保するためだけについているだけだ。







この世界の人からしたら、当たり前?それだったら、仕方がないのか。騒ぐ事ではないのか?






「げをかぬこそばえ…」








何語…だろうな。









色々な人種がいるだろうから、俺も適当にあいさつするべきかな。あいさつは、そんなに得意でもないけどさ。







「…イクトォォ…」









「!?」










俺の、名前を呼んだ?








俺に、用事がある?











そんな…。












ダン!










ダン!











ダン!












「うわぁぁ…!?」











階段を上がってくるペースが上がった!









「うわぁー…!」









あ、クソ!びっくりして、3階に向かう階段の方に来ちまった!やばい、シュティールを呼びに行かないと!









ダン!











道が塞がれる!ダメだ、駆けてもこの泥野郎を抜けてシュティールの元まで行けない!取り敢えず、3階に逃げないと…!








「イクト…ォォ…」











「うわぁぁ…」










その時、2階の何処かの部屋で泊まってた奴が現れて…くれた!よし!









「おい!お前、何刻なんこくだと思ってるんだ…よ。うん?」









犬と人間の体が合体した様な大柄の男が苛立ち気味で現れたんだけど、泥野郎を見て、何コレ?みたいな目で驚いて見てるぞ。この世界でも、当たり前の存在じゃないんだな。









シャキン!









「ぐうわぁぁ…っ!」






!?








な、何かで、半獣の人を斬った。薄暗くて、わからない。何にも出してない様にも見えたけど、何か金属が擦れる音がした!多分、刃物を何かから出す時に聞こえそうな音だった。半獣の人は何かに気づいたのか、少し避ける様なしぐさをしたおかげで、一見重傷には見えない。胸を抑えてはいるけど、動きで致命傷じゃない様に見える。よかった…。でも、この泥野郎、俺に殺意があるのか…!?







半獣の人、反撃する気なさそうなのに、中途半端な場所にとどまってる。ダメだって、また斬られるぞ!








泥野郎から離れろ!








「何なんだ、俺関係ないだろうが…」








泥野郎の矛先が俺じゃなくて、半獣の人に向いた。











半獣の人に関心が向いてる今なら、泥野郎から逃げる事も、できるよな…。









この世界の住人なんて、裏切る様な奴ばかりなんだ。この人を見捨てても、この世界の中の常識の範囲内、特に問題はないんじゃないのか。何なら、シュティールに声かけて、また戻ってきてもいいんだ。









悪いけど…。









今は、行かせてもらおう。










「…た、助け…」











助け…て?











この世界の住人達は、互いに信用しないんだろ?だから、この世界だって、5回も滅んだんじゃないのか。助けを求めるなんて、そんな事…本当はするべきじゃ…。











この街は、違うのか?










でも、ここの街の人じゃないから、この宿に泊まってるんだろう?そうじゃないのか。








グレンベールがこの街の絆を繋いだから、その噂が広まって…この街に来てたとしたら。










だったら、何だ?










グレンベールと会った事なんてないし、本当にいい奴かもわからない…。











でも…。











でも、それじゃあ、この世界の気分悪い奴らと。












同じ、だ。











…。








それでいい訳、ないよな?










もう1人の俺も、多分、そんな事はしなかったはず。










情けねぇ…。













「シャキ…」
















ガキィィン!











「早く、逃げろ…!」










泥野郎、泥の中は機械か何かか?やけに固いぞ!?








大剣を頭上から振り下ろして食らわせたのに、少しバランスを崩しただけか?何でこんな奴に狙われなきゃなんねんだよ!?








また俺の方に関心が向いたな。元々、俺の名を呼んでただろ。俺に用があるはずだ。そのノロマな足取りで追ってこいよ、泥野郎!








ダン!










ダン!











この泥野郎、足音が重いな。また別の部屋の奴がここに集まってきたら、厄介だぞ。








3階に上っても、後がなくなりそうな気がする。










クソ!











こいつが機械だったら、そもそも心臓なんてないだろ。次元斬をまたうまく出せたとしても、倒せる保証がない。







全く効果がないかも知れない。








どう…する?









「ぬそかばふぬえば…」











俺を…?










俺を責めてるのか?









泥野郎…。










それとも、俺を、けなしてる?











俺が異世界から来た人間だって気づいて、殺しにきた?










「ぬしぬおれいあぐ…」











言葉がわからないから、勝手に想像しちまうよ。










なぁ…。








俺、本当に日本に帰れると思うか…?










生きてるから、少しずつ前に進んでいるのかも知れないけどさ。










俺…。










ガキィィン!











中々、固い野郎だ。











何か、ヒラヒラ先ほどから落ちてるから気になってだけど。









枯れ葉っぽいな。










土の中に住んでんのか。









もし、こいつの一撃でこの世界での俺の一生を…。









終わりにさせられたら。










俺はまた、日本人として生まれ変わる事もあるのかな…。










そうなると、もう、母さんには会えないけどさ。









友達にも、会えないか。









ガキィィン!キィンッ!













見えない刃を出したな!?










大剣と泥野郎の刃物がぶつかり合った。









泥野郎との距離感がうまく計れない。下手に近づき過ぎたら、俺が斬られる。











俺は斬られるのを、嫌がっている?当然、そうだよな。死ぬのなんて、恐すぎる。








恐い…。









でも、この先、俺はまた誰かを殺すんじゃないのか?相手が悪の根源の様な奴だったら、死んでも当然なのかも知れない。けどさ…。






ガキィィッ…











クソッ!相手の見えない刃物を警戒し過ぎて、距離を取り過ぎた。当たりが浅い。










「…ぬおふしらばぁぁぁ…」











全てがさ、いっそのこと、この世界の全てが、悪の心で染まれば、俺は強くなるだけなんだ。後は、倒しまくればいい。何を気にする事もなく…。










「ぬおかぶしとらむ…」











すげー、悪い考えだ。はは…。自分でも情けなくなるわ、ホント。











あいつは、大陸を浮遊させて住む人々を救おうとしたソライン族を、殺し続けた。あの街にきた人を殺し続けた。大陸が崩壊しない様に、ゲルロブライザー装置のエネルギーとした。この世界を救うためだとしても。元々は何かの実からエネルギーが取れてたんだ、その実が取れなくても、人じゃない何かで代用がきいたかも知れないのに。








俺を殺そうとした時も、楽しそうだったよな。そんなお前なんか、死んで当然だよ。









でも、グレンベールの事、住人同士警戒して、足元をすくう事しか考えていない奴らとは違うとか、言ってたよな。人と人の絆を作るグレンベールを、すごいって、認めてたんだよ。










あいつは…。













うさ耳オヤジは、本当は…、そんな世の中を、求めてたんじゃないかって、思うとさ…。









ガキィィン!










固いな…。こいつッ!










ガキィィン!キィン!












「えねまずしぎける…イクトォォ…!」











うおおおおぉぉっ!












ガキィィン!












「本当は、うさ耳オヤジの事、殺しちゃいけない奴だったんじゃないかって…!」












「心の何処かで、ずっと…」

















「後悔してるんだよ…!」










うおお…ッ!!















ガキョ…リィン!!!
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