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第二章 熱き炎よギルロに届け、切なる思い

その1

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「むむッ!まだ…ギルロ様の、お体とたむぉあしいぃが、手に入っていない様だな、勇者よ…!」



「あ、あれ?薄暗い場所だな。おかしいな、俺…シュティールと一緒に…」



「シュークリームと共に?どうした、急に!何かの持病か!?シュークリームと心中したいくらい、その食べ物が好きか!?悲しいぞ、イクトちゃん。ギルロの体と魂と共に…を期待して待っていた私が惨めじゃないか?」



シュークリームと共にとか言ってねーよ!あ、この種のムカつき、お前、しもべだろ?おい!



「しもべというのは、名前ではないのだよ、残念な脳みそを従えている様だが、それを言うなら、僕と言え!ぼくじゃないぞ、しもべと呼んで、僕なのだよ…。前にも教えただろう」


またわけのわからない事言ってんな。



「あれま…。随分とボロボロの鎧じゃないの…。祭りの打楽器として打ちまくったのかな?そういう物じゃないんだけどね。悲しいぞ、シュークリームキチガイ君!」



「おいおい、一時は、勇者って呼んでたクセに、呼び名が随分とグレードダウンしてるじゃねぇか!?誰が、シュークリームキチガイ君だ?別にそこまでシュークリーム好きだなんて思ってねーよ!」


あ、丁度いいや、俺の手に炎がついて、それが体内に入ると、力を手に入れるこの体の事聞かないとな。



「俺の体の事を聞きたいんだけどさ…」



「危険な領域に踏み込んだ発言をしてきたねぇ、勇者様。鎧を返すから、股間を刺激するパンツ1枚で戦いたいとか言わないだろうねぇ。全住人から瞬殺されると思うから止めておいた方がいいよねぇ」



体の事について…聞き方が良くないのか?確かに、友達に、俺の体の事を聞きたいんだけどさ、などとは言わないな。



いや、状況と相手が違うだろう。俺は元々地球人なんだし、ここは地球じゃないだろう?フッ、自分の事、地球人とか言ってるのも、バカバカしいけどな。


「俺の手に炎がつくんだよ…そしてさ」



「イクトちゃーん…。あぶらぎってるんじゃないのかね?」



脂ぎってると、自然発火が起こって強くなるのかよ。何だ、そのバカシステムは。というか、さっきから、ちょいちょい"ちゃん"付けで呼ぶんじゃねぇよ。ムカつくな。



「炎がついて、弱くよりはマシだろう。良かったじゃないの、勇者様…」




なるほど。じゃあ、一件落着。




…になるわけないよな。





「ギルロの体と魂とか、見つかる気がしないんだよ。性格悪そうな奴も多いしさ。しかもやたら強い奴が多い」



「…じゃあ、これ答えてくれよ。俺の体はさ、ここの世界の体なんだろう?人間とは少し違うんだろう?ここの住人みたいに、体は強いんだよな…?」




しもべは、祭りの夜店でごくたまに見かける、筒に息吐いて、ピーって紙が伸びるおもちゃで、遊んでいる。すみませんね、つまらないお話ししちゃって!



「勇者よ、今知らない方が良い内容もあるのだ。今聞いてしまうと、後々、自分の首を絞める事になるぞ?聞かなければ良かったと。まぁ、どうしても聞きたければだねぇ、私のいる第4大陸まで、来て頂戴…ナモス」



ナモス?何かの暗号か?



「お前は、何モンなんだよ?」



危ねぇ、言い間違えるところだった。ナモスの呪いのせいだな。



「イクトちゃんと同じ、オレンジジュース好きなだけだねぇ?それだけだ…」



チッ!この野郎!

お前のせいで、嫌いなったんだよ!!






ダメだ、こいつはある意味、シュティールより厄介なのかも知れない。よくこっちの質問をかわすよな。信じられねー。それは、シュティールも同じか。謎の炎も、教えてくれないしよ。




周囲が少し明るくなってきたな?それと同時に、しもべの体が少し透けてきたか?




矢倉郁人やぐらいくと、もうそれほど時間がないので、もう一度言うぞ?ギルロ様の体と魂が分かれてしまったのは事実。ギルロ様は、私の…王様!アタイの!…いや、君の!」



「違う!俺のじゃない!…っていうか、いちいち話を脱線させるな!早く、続きを言えって…」




「ギルロ様は、君の中にも、いる…。ぁぁ、感じるよ…」





このヤロー、脱線しっぱなしじゃねぇか。





「…ギルロ様は、地聖王アーガーベル、この世界で立派な王様なのだ。この世界の地聖王唯一の生き残りだったのに、この様な結果になった。ギルロ様は、死んではいない。何で死んではいないのかは、この場では省くとしよう。イクト・チャーンが気をつけなければいけないのは、この世界の住人、そして神。特に、女神アンメイレンに君の存在は知られてはならない」



お…。、急にまともにしゃべり出した。イクト・チャーンという名前だけは訂正させてもらいたいが、女神アンメイレンに俺の存在を知られるな、だって?もう1人の俺は、女神アンメイレンによってこの世界に転生させられたんだろ?何で、会わない方がいいんだ?



「イクトちゃんの腰に小さな丸い鈴がついているんだが、これは私が強めの魔法をかけてあるから、君の腰からは離れていかない。その鈴は、君を1回だけ救う事もあろう。ただ、そのタイミングは、鈴が決める事、まぁ、あまり気にしなくていいぞ」




鈴?ああ…、でもこれ、鳴らないけどな。




「鎧は、新しくしておいたから、安心せよ。そして、その大剣は、時が来れば、君に合った形状に変わるから、それまでは…捨てるなよ?…重いからって…」






おお!いつの間に!?あれだけボコボコの鎧が!しかも、前より動きやすそうだな。見た目も格好良くなってるし。大剣は…、何度も捨てそうになったけど、わかったよ。





「…それと、ギルロ様の事を聞いて回ってくれているのであれば、高天魔四大将の事を聞いているかも知れないが…」





「ああ」






「力は絶大だが、頼ってはならないぞ?ギルロ様に対しての感情は、良くはない…。恐らく、最悪なはず。頼れば、きっと思惑とは違う方向に行く事だろう」







「え!?」







「ギルロ様の体と魂を探す事自体は、実は、君にとって、そこまで難しくはないはずなのだ」





そんなバカな。






「それでなければ、わざわざ別世界のイクトちゃーんには頼んだりはしたいのだよ。…あ、時間がなくなって…」






「しもべ!」







「私の事、誰にも喋っちゃあ、ダメだからねぇ?私と勇者様とのヒミツなんだからね?フハハハ…!」





そこは、フハハハじゃないだろう。








「私にもしもの事があったら、時空魔術士クロノスペルロードのギルガントを頼るがよい。ギルロ様の体と魂を見つけ出せれば、私の代わりに、その者が責任を持って、君を地球に帰す」




「あ…?お…!わ、わかった…」





え?もしもの事??





「ギルロ様の捜索に疑心暗鬼なのだろうから、1つ教えておくとしよう。ギルロ様は確かに、少しおかしくなっていた。だがしかし、このクェル・ダ・ベル大陸を救える者は、神でもなく、もちろん高天魔四大将でもない…」







「ギルロ様だけだ」









「矢倉郁人よ。私も命を懸けているのだよ。今一度言う、ギルロ様の体と魂を探し出してくれ」








「…第4大陸で、会える事を…楽しみにしているよ」
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