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第一章 オレン死(ジ)ジュースから転生

その16

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お話しライオンは、獲物を俺からシュティールに変更し、ヨダレを垂らしながら、ゆっくりとシュティールの方へ向かっていく。

お話しライオンの長い尻尾の先には、鋭い黄金色の目をした黒蛇の頭があり、俺に対して背後を見せたお話しライオンの隙を補うかの様に、こっちを警戒している。やっぱりこのライオン、非常にヤバい生き物だ。

「お前は、何という餌だ?お前には、力があるな…。感じるぞ、奥深くに閉じ込めた、力を」

お話しライオンは、シュティールに向かって、そう言った。やっぱり、みんなに対して、餌って言うんだな。

シュティールは、両手を広げて肩をすくめ、お手上げポーズをする。

「僕は毒さ。餌じゃあない。止めておいた方がいい」

シュティールはそう言って、踵を返して、お話しライオンに背を向けて、歩き始めた。何て余裕なんだ、シュティール!恐ろしいほどだぞ…。

「儂に食べられる事は、軽蔑される事ではない。むしろ、光栄に思うべきだ。この世界に存ずる100億獣の頂点を極めるこの儂にな。なぁ、餌よ。もっと心を開き、儂に申し出てみるが良い。どの様にして、食べられたいのかを」

お話しライオンは咆哮し、傲慢そうな眼差しでそう言った。さすがだ、こいつも余裕を具現化した様な奴で、中々真似できない。シュティールといい勝負だ。

シュティールは再び踵を返し、話し始める。

「じゃあ、お願いする事にするよ。まず、貴方の鋭い牙で、体を数十回も、執拗に突き刺して欲しいんだ」

「ほう!それで…?」

「そして、辛うじて繋がっている腕足の四肢を引き裂き、焦げつきが見えるまで、火で焼いて欲しいんだ」

「香ばしさが儂の心を掴みそうだ。そして、食べやすく裂いておいたために、一瞬で食事を終えそうだな。ただ、何度も噛み締め、味わうのも悪くはない。噛めば噛むほどに、香ばしさが口一杯に膨らみ、味わい深くなる。生肉での食事が多い儂にとって、悪くない調理かも知れんぞ。胸が踊るな、餌よ」

耳を塞ぎたくなる会話をしている2人。お話しライオンは声大きいし、シュティールは少し声が甲高いから、俺の所にまで声が届く。身の毛がよだつ内容だ。

「ただ、その調理法は、僕には合わない。そう思うんだ。僕はデザート。肉肉しくない僕は、デザートでしかない。メインディッシュは…」

シュティール!悪魔!

「あいつ」

やっぱりこうなると思った!平然と、俺の方を指差すシュティール。俺はすでに、逃げ始めている。この世界の果てまで、逃げてやるぜ!

しかし…!

お話しライオンは、動かない。俺の方へ目をやる事はしなかった。尻尾の蛇が俺を見ているからなのか?

「餌よ。お前の食べられ方は決定したのだ。お前はデザートではない。お前が、先だ」

お話しライオンは、シュティールに襲いかかる様だ。じゃあ、俺はこのまま立ち去ろう。時間を稼いでくれ、シュティール!

地を蹴り、土を巻き上げながら、疾走するお話しライオン。かなり速い!風さえも味方につけるかの様に、駆ければ駆けるほど、勢いを増す速さだ。一度追われれば、逃げ延びるのは不可能じゃないのか!?

ただ、地球を氷河期にしただの言っているシュティールには、歯が立たないだろう。一瞬にして、氷漬けにされるだけだ。

口を大きく開け、飛びかかるお話しライオン。そしてシュティールは不敵な笑みを浮かべ、構える。



そーそー。



カプってね。



えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!?



何??



普通に噛まれたぞ!!



「シュティール!!」




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