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「宗孝様、お食事の準備が整いました」
黒のタキシードを着て鉄棒をピンと縦に立たせた様な姿勢の、執事である50才前後の男が抑揚のない声で言う。
窓から海の見える書斎で、机の上に新聞を開き、椅子に腰掛けて前のめりになりながら読んでいた70歳過ぎの男、西園寺宗孝は、それを聞くと眼鏡を外し、ふうっと息を吐いて椅子に寄り掛かかる。
「将門、儂は後どの位生きられる?」
突然の西園寺宗孝の言葉に、将門は少し間を置き、冷静に言う。
「まだ、先がお有りかと」
それを聞いた西園寺宗孝は、口髭の下に歯を大きく見せ、豪快に笑った。
「お前の不器用さ、中々のものだぞ。子供に言う様な言葉を聞いて、儂の喜ぶ顔が浮かんだか?」
将門は少し戸惑い、はぁ、と声を漏らす。
「狭心症を患う儂が、いつ心臓が止まり、人生に幕を下ろすか分からん」
西園寺宗孝は、天井の隅にある黒カビに目をやり、それをじっと見つめる。
「宗孝様?」
「儂の人生、幕が下りる前に…心に巣食うカビを一掃しなくてはな…」
「カビ…ですか」
西園寺宗孝の表情が徐々に険しくなり、その顔に憎悪が浮かび上がる。
しかし、それはすぐに消え失せ、西園寺宗孝は新聞を畳み、机の上に置いた。
「さあ、食事の時間だ」
ボンボン時計の12時を知らせる音が、屋敷内に鳴り響く。
「宗孝様、このお屋敷にお招きする方々への招待状のご用意ができました」
執事・将門は少し何か言いたげな表情を浮かべ、それを瞬きで制した。
「ご苦労。食事の後で確認する。儂が生きているうちに、彼らを是非この屋敷に招きたいと思っていたのだ」
西園寺宗孝は目を細め、口角を上げ、ニヤリと笑う。
「少し、悪戯の虫が動いただけの話だ、将門…頼んだイラストは、招待状にしっかりと描かれているよな?」
「…はい。宛先と指定したイラストはそれぞれご注文通りでございます」
執事・将門の返答に満足し、西園寺宗孝は大きくウン、と頷いた。
「…それが実に重要なのだ。悪戯の虫とは言ったものでもな」
西園寺宗孝の表情は再び険しくなり、喉の奥から低く震え出る声は、恨みとも感じさせる。
「…冬美…もうすぐ………もうすぐだ」
黒のタキシードを着て鉄棒をピンと縦に立たせた様な姿勢の、執事である50才前後の男が抑揚のない声で言う。
窓から海の見える書斎で、机の上に新聞を開き、椅子に腰掛けて前のめりになりながら読んでいた70歳過ぎの男、西園寺宗孝は、それを聞くと眼鏡を外し、ふうっと息を吐いて椅子に寄り掛かかる。
「将門、儂は後どの位生きられる?」
突然の西園寺宗孝の言葉に、将門は少し間を置き、冷静に言う。
「まだ、先がお有りかと」
それを聞いた西園寺宗孝は、口髭の下に歯を大きく見せ、豪快に笑った。
「お前の不器用さ、中々のものだぞ。子供に言う様な言葉を聞いて、儂の喜ぶ顔が浮かんだか?」
将門は少し戸惑い、はぁ、と声を漏らす。
「狭心症を患う儂が、いつ心臓が止まり、人生に幕を下ろすか分からん」
西園寺宗孝は、天井の隅にある黒カビに目をやり、それをじっと見つめる。
「宗孝様?」
「儂の人生、幕が下りる前に…心に巣食うカビを一掃しなくてはな…」
「カビ…ですか」
西園寺宗孝の表情が徐々に険しくなり、その顔に憎悪が浮かび上がる。
しかし、それはすぐに消え失せ、西園寺宗孝は新聞を畳み、机の上に置いた。
「さあ、食事の時間だ」
ボンボン時計の12時を知らせる音が、屋敷内に鳴り響く。
「宗孝様、このお屋敷にお招きする方々への招待状のご用意ができました」
執事・将門は少し何か言いたげな表情を浮かべ、それを瞬きで制した。
「ご苦労。食事の後で確認する。儂が生きているうちに、彼らを是非この屋敷に招きたいと思っていたのだ」
西園寺宗孝は目を細め、口角を上げ、ニヤリと笑う。
「少し、悪戯の虫が動いただけの話だ、将門…頼んだイラストは、招待状にしっかりと描かれているよな?」
「…はい。宛先と指定したイラストはそれぞれご注文通りでございます」
執事・将門の返答に満足し、西園寺宗孝は大きくウン、と頷いた。
「…それが実に重要なのだ。悪戯の虫とは言ったものでもな」
西園寺宗孝の表情は再び険しくなり、喉の奥から低く震え出る声は、恨みとも感じさせる。
「…冬美…もうすぐ………もうすぐだ」
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