人形と少年騎士と

sayure

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悪魔王の章

piece9 メルトリー王国~僕と師匠~

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地面にまかれた血は、僕の死を伝えている。

あっけないな。

受けた一撃は、致命傷だった。

でも、なぜだか、落ち着いているんだ。

きっと、これで…

ああ。

よかった。

お人形には、かかっていない。

少しばかり、手を伸ばせば届くのかな。

この手は力が入らないから、君から来てくれないか。

無理…か。

きれいな金髪が乱れているよ。

まるで、やんちゃ坊主だ。

もう、抱く事はできない、のかな。

段々と、深い傷が体全体をはう様に広がっていく。

せめて最後に、君を見つめてい…よ、う。

「…?」

離れた場所で、地面から空へ、何かが伸びた。

…そうか。

さすが、師匠。

無事だった。

呪文の詠唱を始めている。マドゥーサは、まだ生きているのだろうから。

とどめを…

僕の周りに円を描く様に、涼しい風が吹いている。

僕を撫でてくれる様に、風が僕を触った。

「マイハーク…」

どうして。

僕の手の感覚が、少しづつよみがえる。激しい胸の痛みが消えていくのは…

マイハークが、僕に治癒魔法をかけているからだ。

「マイハーク…!」

僕の事は、もう…いいんだ。

これは…

マイハーク…

そう。

これは、きっと。

僕への罰…なのだから。

僕を、助けるのは。

「!?」

僕は、目を空に向けた。

マドゥーサが、バランスを保てないでいるけど、まだ生きている。

そして、攻撃をしようとしているのだろう、マドゥーサに少しづつ魔力が集中していく。

マイハークは、片膝を地面について、大きく息を吐いた。

マイハーク。

ごめんなさい…

あの魔法を、使えというんだね。

僕は、正気ではいられなく、なるかも知れないけど。

師匠…

僕は、やるのか。

師匠と、このお人形がいるから。

やれる…けど。

そうだね。

そうなんだね。

死ぬよりも、ひどい苦しみがはい上がってくるけど。

その後は、覚えていない…

そうだね。

マイハークだけは、死なせてはいけない…

集中して…

集中…

魔力をもっと増やして。

竜の吐く炎より。

とてつもない強力な炎…

僕には、一度限りの、魔法だ。

これは…

大魔道士級の一撃になる…

最上級火炎魔法。

「右手に持つは元素を司る封神の杖…」

…でもね。

「左手に持つは出づる国爆炎の宝玉…」

まだ、こんな事を…してるなんて…

「鳳天精霊鳥アリカリプスが命じる…」

…あの子に、あんな思いを、させた。

「穢れなき灼熱の炎、我の敵に襲いかかれ、消滅させよ!」

あの人達に、あんな死に方をさせた…僕が。

「グレバーン・エスカリダー!!!」

僕の体から、吹き出す様に、竜の首の様な太い炎の柱がうねりを上げ、勢いよく空に舞い上がる。

マドゥーサに近づくと、炎の柱が3つに別れ、細かい破裂音を繰り返しながら、マドゥーサを襲い、貫いた。

轟々と音を立て、マドゥーサは本体から吹き出した炎に飲み込まれて焼かれ、

灰となって散っていった。
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