剣士アスカ・グリーンディの日記

sayure

文字の大きさ
上 下
107 / 113
第4章 貴方へ愛の言葉を

洞察

しおりを挟む
偽者のゲーベルドンは、不敵な笑みを浮かべたまま、その後は僕を看守長の部屋まで案内し、戸を開け、椅子に腰掛ける様、勧めてきた。



ゲーベルドンは終始、口元に笑みを浮かべていた。それがその時、すぐには何を意味するのかわからなかったけど。




僕に薄い果実酒を木のコップに入れ、出してきた。




彼自身もコップにその果実酒を入れ、祝うかの様にコップを僕に向けて少し持ち上げ、飲み干した。






僕も、それを見て、その果実酒を飲み干した。






この果実酒に毒を盛っていたとしても、僕には効かない。僕にはお母様と同じ様に、毒の耐性が強い。





偽者のゲーベルドンは、このカインハッタ牢獄では不思議な事が度々起こるが、その事で気を取り乱す事がない様にしてほしい、そう僕に伝えた。





その言葉を訊いて、僕をその場ですぐに殺そうなどという事はないんだとわかった。




でも、何故、僕がミノタウロスによる迷宮化で、あの鍵のかかった部屋にいると、すぐに気づいた?




偶然とは思えない。




それに、あの時は、彼は驚きひとつ見せなかった。僕の場所まで来るのに少しの時間はあっただろう、だから、平静を装う時間はあった。だからだろうか。






僕がこのカインハッタ牢獄内の事を探ろうとしていた事は、気づかれていたのかも知れない。





僕が迷宮化したカインハッタ牢獄に迷い込んだと知り、ミノタウロスか本物のゲーベルドンが僕を倒してくれると思ったのか?





僕の目を覗き込む様な仕草を、この偽者のゲーベルドンはしてきた時、気づいたんだ。






そういう見られ方をされる事は今までもあったから、もう慣れている。ウイプル人とは違う瞳の色、緑色だ。







僕の瞳の色が、生粋のウイプル人の茶色の瞳とは違う。よそ者が来たと、思われたか。もしかしたら、竜の目に近いとまでも、感じたか。特別興奮状態にない場合、この目は色以外、ウイプル人と何ら変わりはないはず。







僕の正体を知ったか?






どうかな。







僕の名自体は、僕らが来た時に、彼が知る事はない。ウイプル国王は、僕をカインハッタ牢獄に送る時に、僕の手によってカインハッタ牢獄に送った囚人がいた場合、混乱を招くため、それを避けるためにファーストネームだけを残し、名を変えている。




看守長の部屋にいた時に、問答無用で戦う事になるわけじゃないのなら、僕はその場で事の全てを解決をするべきじゃないと思った。



この偽者のゲーベルドンの正体をその場で暴いて、そして戦う事になっても、正直、今は都合が悪い。




まだあらゆる情報が少ない中で、これ以上、事が大きく動くのはまずい。





偽物にせよ、ここの看守や囚人の知る看守長がこのゲーベルドンなら、今はその姿を見せてもらっていた方がいい。




看守長の肩書きはもう少し、持ってもらう。




ベリオストロフ・グリーンディとそれに従うヘイル・サイン騎士隊の動きも知るべきだ…





このカインハッタ牢獄に何があるのか。






夜になると、この島にかなり接近する海賊船が見える時がある。







囚人が選ばれ、海賊船に乗り込む。恐らく、そうだろう。ただ、ベリオストロフ・グリーンディは、その手助けをしていたとしても、ただ海賊に囚人を渡しているだけとは思えない。




何か目的がある。






何かある。






何を考えている?






魔物と化したゲーベルドンは死んだ。だから、海賊に囚人を渡す行為は、しばらくはなくなるに違いない。







しかし、紫の海賊が、この事に気づくのは時間の問題だ。ただ、すぐには行動に移さないはず。このカインハッタ牢獄の様子を窺って、数日、または数週間後、何か行動を起こす事があるかも知れない。その前に、僕は気づかなければならない事がある。













僕はあの後、看守長部屋で彼と特に何を話す事もなく、自分の部屋まで戻ってきた。



今日は体を休めて、そしてまた明日以降、情報を集めよう。




時間は、あまり残されていない。








ジスマリアの24日
      カインハッタ牢獄内にて
_______________________________

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

処理中です...