剣士アスカ・グリーンディの日記

sayure

文字の大きさ
上 下
106 / 113
第4章 貴方へ愛の言葉を

真偽のゲーベルドン

しおりを挟む
僕を威嚇するかの様な目をし続けていたゲーベルドンは、竜剣ジオグリシェルに砕かれた彼の心臓部の紫の宝石に輝きが失われていくとともに、目の力も失っていった。













小さな唸り声を上げながら、最後の時を迎える。











お前が希望に見えた絶望の始まりは、終わりを迎える。













もう、何も思い残す事なく、あの世へ旅立て。















ゲーベルドンの荒々しい息は、やがて、子供が寝静まる穏やかな吐息へと変わり、そして。
















ゲーベルドンは、怪物の姿のまま、ゆっくりと目を閉じ、














死んでいった。






















ゲーベルドンとの戦いは、もう、これ以上はない。













ただ、














これで、囚人が生け贄として海賊に連れていかれる事がなくなるとは思えない。











偽者のゲーベルドンの正体をはっきりさせる必要がある、と。










偽者のゲーベルドンが、ゴルイルの魔女によって復活した紫の海賊なら、何をすれば、その紫の海賊がまた深い眠りに戻るのか。










ゴルイルの魔女の放った呪文というものを、無効にはできないのだろうか。














正直言って、魔法というものの存在に未だ疑いの目は持っている。













魔法というものに、理解が追いつかないけれど。















ミノタウロスの迷宮も、一種の魔法と言えば、魔法だ。その現実を、受け止めないといけない。













ベリオストロフ・グリーンディが、そのゴルイルの魔女の呪文と紫の海賊について、何か知っているのかも知れない。












かんたんに答えるはずがないけど、聞いてみる事にしようと思う。

















しばらくして、ミノタウロスの命が消えたとわかった。











このカインハッタ牢獄に仕掛けられた迷宮は解かれ、牢獄本来の姿を取り戻したと、感じた。













いつも通りの、カインハッタ牢獄に。















カツン、カツンと、看守が牢獄の回廊を歩く足音が響いている。















僕が迷宮を解かれた時にいた場所は、カインハッタ牢獄の何処の場所かの一室。












最初は、この場所が何処かわからなかったけど。











少し離れた場所で、鍵を開ける場所が聞こえた。












そして、僕の方へ向かって歩いてくる足音。












その足音は、壁の向こう側で立ち止まり、何かを外した小さな音が聞こえた。











この壁の向こう側に立つ者。











足音は1人だった。











僕のいた部屋は、天井から月明かりで微かに光が入る程度で、部屋に何があるのかはわかりづらかった。












壁が開かれ、光が入ってくる。その光の中に、1人の影が見えた。



















その時に、この目の前の者は、まさか僕がこの部屋にいるとは、思いもしないだろう。













そう思ったんだ。













壁を開いた者の手には、ランタンを持ち、月明かりとは比べものにならないほどの光を放っていた。










その者は僕を見るなり、口元を緩め、笑みを作った。










僕がこの部屋にいる事が予測できたかの様に。














この牢獄における、厳重な見回りに感謝します、騎士殿、と言ってきた。











その余裕のある笑みは、虚勢でも張っているのか、それとも、よほどの自信があるからなのか。










わからないけど。











僕を見くびると、きっと後悔する事になる。












久し振りに姿を見せた、















偽者の、ゲーベルドン。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...