剣士アスカ・グリーンディの日記

sayure

文字の大きさ
上 下
2 / 113
第1章 ドラゴンバスター

マッドク王国(for five days)

しおりを挟む
マッドク王国からの使者が、僕らの国へやって来た。

ウイプル兵の誰もが、険しい表情をしていた。

当然だ。

先の遠征で、かつてウイプル王国領だったセケメント地域の奪還作戦を行い、半ば成功している状況。

ただ、今のセケメント地域を領土としているのは、マッドクだ。

マッドク王国は、セケメント地域に対して、現地組織のアルタイ岩頭院に統治を任せ、その組織をマッドクが管理するという、間接的なやり方をしている。

マッドク国王の耳に入るのに、時間がかかっただろう。

リガード竜騎士団のハルガルド副騎士長が、僕の目を見て、そして逸らしていた。

不安だろうか。

そうだろうな。

残念だが、竜は死んだ。

この騎士団についた竜という名は、飾りに成り果てたのだから。


サビィエルの8日
                  ウイプル王城にて

___________________

幼馴染のミスルタが、この間一緒に食べた物は何か知っているかと、訊いてきた。

木の実。

いや、あれは僕が見つけて、1人で食べたのか。

渋くて、まずかったな。

一緒に食べたのは、パンか。

いや、パンじゃないな。
 
思い出そうとしたけど。

わからない。

コメコロだと、言った彼女。

ふっくら柔らかくて何かほんのり甘い、口の中で溶けてなくなる様な食べ物。

コメコロっていうのか。

そうか、と。

また、食べたいな。

サビィエルの9日
                  サイダルの集会場にて

___________________

マッドク王国からの使者が、またやって来た。

この間は3人、

今回は、10人。

その内、軽装兵が7人。

リガード竜騎士団の副騎士長と僕が、彼らの後から続いて、国王謁見の間へ入った。

謁見の間にいる国王の横には、リガード竜騎士団騎士長アーマンが備えている。

僕と副騎士長は、使者等の少し離れた後方で、控えた。

領土奪還へ動いたウイプルに対して、2度目の来訪。

先日にウイプル国王が使者に返した言葉に対しての、マッドク国王の何らかの回答を持ってきているのは、疑いようもなかった。

マッドク国王回答は、意外なものだった。

ウイプルへのセケメント地域の領土を返還、その条件として、このアルガレット地域全て放棄せよ、というものだった。

ウイプル民族発祥のこの地を、明け渡す訳がない。

これは、ウイプルにとって、屈辱的な発言だった。

馬鹿な事を。

マッドク王国は、小国のくせにと、見くびってきたのだ。

本当は、セケメント地域も、重要じゃないだろうに。

態度が、気に入らないんだろう。

マイクリーハ国王は、僕の名前を呼んだ。

こんな事。

卑怯だと思うだろう。

恨むなら、マッドクの国王を恨め。

僕は、使者等に背後から近づいた。

そして、腰にある長剣をさやから引き抜く。

使者等の軽装兵に、剣を構える暇は与えなかった。

1人は背後から斬りつけ、2人目は、振り返ったところを、胸に突き刺した。3人目は、正面から十字斬りにした。

マッドクへの返答が、これだ。

国王は、僕の事を、伝えた。

そうだ。

そうだよ。

僕だよ。

サビィエルの10日
                  王城見張り台にて

___________________

残りの使者は、逃げる様にマッドクへ帰っていった。

これでまた、戦が始まる。

これで、いいのだろう。

少なくとも、僕にとって。

外の訓練場でウイプル兵が、僕に期待していると言った。

そして、付け加えて僕の事を、、、そう呼んだ。

そう。

悪気はないだろうな。

だけど、苛立ちを抑えられず、僕はその兵を殴り飛ばした。

同じ騎士達に止められたが。

そうだよ。

僕が、やったんだ。

竜は、

僕が殺した。

サビィエルの11日
                  王城見張り台にて

___________________

今日は、満月だ。

いつもより、月の明かりが多く、部屋に入り込んでいる。

僕が幼い頃、明かりが多く入ったおかげか、満月の時は、少し長めに話をしてくれた。

お母様。

日記は、書き続けているよ。

毎日ではないかも知れないけど。

そう言えば。

お父様に、生まれてから一度も会った事がないけれど。

あまり、話してはくれなかったね。

僕が幼かったから、気を使ったのかな。

今は、どうだろう。

今なら、話してくれたかな。

ねぇ、お母様。

やっぱり、

一人じゃ淋しいよ。

サビィエルの12日
                  自分の部屋にて

___________________
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...