剣士アスカ・グリーンディの日記

sayure

文字の大きさ
上 下
103 / 113
第4章 貴方へ愛の言葉を

貴方の見る未来

しおりを挟む
 イルファー様は、ルビィドに対して厳しい言葉をかけていた。
 彼が、言い訳を作って、家に戻ろうとしない。その事実を指摘したのだ。
 図星を見抜かれたからか、ルヴィドは目を丸くしている。自分の弱さを認めるということは、厳しいことだ。その苦しみを、今弟は噛みしめているのだろう。

「……イルファー様の言う通りです。僕は自分の弱さに甘えていたのですね」
「ああ、その通りだ」

 少しの沈黙の後、ルヴィドはゆっくりとその顔を上げた。
 その面持ちは、今までの自信がなさそうな表情ではない。何かを決意したような表情に、変わっていたのである。

「いい顔をするようになった……というよりも、今までのお前の顔がつまらないものだったというべきか」
「そうかもしれません」
「それで、お前は今自分が何をするべきかわかっているのだろうな?」
「ええ、わかっています。この家……フォルフィス家の人間に戻ります」

 ルヴィドの口にした言葉に、私は驚いた。
 話の流れからすれば、それはとても自然なことである。だが、それでもとても衝撃を受けてしまうのだ。
 家出した弟が戻って来る。その事実は、喜ばしいことだ。長年の思いが込み上げてきて、私の心を揺さぶっているのだろう。

「今までお世話になりました……」
「違う」
「え?」

 頭を下げた弟の言葉を、イルファー様は否定した。
 そこで、否定したことには私も少し驚いている。
 まさか、ここまできて弟がフォルフィス家に戻ることを許さないというのだろうか。いや、流石にそれはないはずである。
 それなら、お世話になったのはこちらとでもいうのだろうか。しかし、それはイルファー様には似合わない台詞である。

「私とお前に、関りなど一切存在しなかった。お前は家出をして、他国にいて、そこで慎ましやかに生活していたのだ」
「それは……」
「私に私兵は存在しない。それを理解しろ」
「……はい」

 イルファー様が言いたかったことは、私が予想したようなことではなかった。
 彼が私兵を持っていることは、誰にも知られてはいけないことである。彼は、それをルヴィドに今から示したのだ。

「……」

 ルヴィドは、少し悲しそうにしながら後退していった。
 彼にとっては、家出してからずっと仕えていた主との別れなのだ。それは、かなり辛いことだろう。
 しかも、今後二人は元の関係として出会うことはない。弟の心中を考えれば、とても悲しいはずである。

「……」

 一方のイルファー様は、特に表情を変えていなかった。
 もしかしたら、この別れは彼にとってはありふれた別れでしかないのかもしれない。今までも、こういう別れを彼は経験してきたのではないだろうか。その雰囲気が、そう物語っているようなのだ。

「さて……もう一仕事といくか」
「え?」

 そこで、イルファー様は立ち上がった。
 どうやら、まだやるべきことがあるようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...