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第4章 貴方へ愛の言葉を
歌声
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ゲーベルドンの体から浮かばせた青い炎は、彼の表情を見ても、弱気なものに見えた。
でも。
僕をかわして逃げられないと思ったのか、その選択肢をあえて消したのか、わからないけれど。
強引に伸ばしたゲーベルドンの手は、その周辺の空間を歪ませたのか、僕の目の前の感覚が下にずれていった様に思えたんだ。
だから。
とても簡単にその手をはね除けられると思った僕だけど、
ゲーベルドンの青い炎の手は、僕の首に届いた。
そのゲーベルドンの手に力なんて、必要はなかった。
僕の視点が上に、横に、下にぶれて、体の感覚が麻痺していってる様だった。
目眩がする。
僕の体じゃないみたいだった。
そして、その感覚はより強まった。
まるで、魂が、僕の体から離れようとしてるかの様に。
その時、あまりはっきりと見る事はできなかったけれど、ゲーベルドンは臆した表情から、勝ち誇った表情に変わっていた。
力が、入らない。
僕が反撃するつもりで伸ばした手は、ゲーベルドンに届かない。
何処に手を伸ばしてるのかさえ、わからなかった。
僕は、ウイプルの兵だ。
死ぬ時は、戦場なのかと、思いもしたけど。
そうだ。
年を重ねて、ベッドの上で、眠る様に、死ねはしない。
そんな事は、わかっている。
でも。
ゲーベルドンが自ら犯した過ちで、失った体を取り戻すためのものとして、僕は生贄にされる、
それはとても、堪え難い屈辱だ。
必死に伸ばした僕の手は、ゲーベルドンの顔さえ、触れない。
荒波にもまれる小舟の様に、何の安定もなくして、ただされるがまま。
そんな時に。
遠い記憶が、次々と脳裏に浮かんできたんだ。
僕が幼い頃、風で飛ばされた小さなものが家の戸を打った時、お母様は、何かに呼ばれた様に、向かっていった。
戸を開け、外を見回して、少し落胆していた。
僕はその時、感覚では気づいていたのかも知れないけど。
お母様は、ベリオストロフ・グリーンディの帰りを期待した。
そういった行動も、いつの間にか、なくなっていったけど。
ああ、地面から角が2本生えた様な、反った木が生えた場所があった。
のぼって、その木の頂上を見ようとしたら、足を滑らせた。
何やってるんだよ、って。
手を伸ばしたシルファリアスは、優しく笑っていた。
あの笑顔は、僕の心を優しく包んでくれた。
あの時はすでに、僕を弟として、見つめていたのかも知れない。
シルファリアス。
負けないで。
天黄覇王竜のゾーファルに。
竜がこの世界の覇権を奪還すれば、きっと、人間が滅びる。
僕は、竜と人間の間にいる。その感覚はなくさない様に、大切にしていくよ。
でも、シルファリアスがゾーファルを抑えられない時、竜が世界の覇権を奪還しようと攻勢に出た時は、僕は、人間側に立って、戦わなくてはいけない。
僕の代わりに、その役割を果たせそうな者など、いない。
僕の首を絞めるゲーベルドンに、そのまま僕を殺せる力はない。
僕の気管を潰すには、もう少し力が必要いるはずだ。
ゲーベルドンの青い炎は、すぐに僕の魂を抜き取るなどして、殺す事ができないでいた。
だから、勝機はあるはずだと、思えた。
僕は感覚の鈍った手を何とか、心音を頼りに、胸に当てた。
そして、少し苦しさを覚える首の方へ、ゆっくりと、方向を違えない様に、胸に当てた手を這わせたんだ。
ゲーベルドンの体の何処でもいい、掴んで、そこから反撃に出ようと思ったんだ。
その事に気づき、焦るゲーベルドンは、青い炎の勢いを上げた様に思えた。
何処が、上なんだ、と。
苦しさを覚える首は、この今ある手を上に向かわせればいい?
それとも、下なのか?
僕の体から、魂が剥がされようとする力が強まったからなのか、方向がまるでわからなくなった。
そう思った。
その時、遠い、遠い、記憶がまた甦る。
とても曖昧だけど。
僕が幼い頃、月明かりに照らされた薄暗いベッドの上で横になっていて、その横にある椅子に座って、誰かが歌を歌っている。
お母様は。
よく本を読んでくれたり、話をしてくれたな。
月の話とかも、おもしろかった。
空に浮かぶ月で、毎晩、たくさんの明かりを灯して、違うパレードで賑わっている。今日は何のパレードをしているんだろう、と。
楽器を鳴らして、歌い、踊り、楽しんでいる。
ベッドの上で横になっている僕は、満足そうに微笑んでいる。
この時は、本を読んでもらったりしているわけじゃなかった。
聴こえてくる歌は。
聴き覚えがあった。
それは、そう昔の事じゃない。
その歌は、幼い僕を安心させ、眠らせていく。
その歌は。
カインハッタ牢獄で、聴こえてきた歌だ。
ここに来て、数日後の夜に、聴こえてきた。
そうだ。
同じ、歌声だ。
そして、この時に気づいたんだ。
貴方は、僕を殺そうとしていたはずだ。
まだその時には、僕の竜の瞳を、見た事がなかったのか。
このベッドで、僕に歌を歌ったのは、いつの時だ。
僕を少しでも、我が子だと、愛しく思った事はあったのか?
ベリオストロフ・グリーンディ。
貴方は、幼い頃、無力な僕を殺そうとしたんだ。
なぜ、愛情を感じる様なその歌声を、幼い僕に聴かせたんだ。
消してしまいたい。
思い出したくもない記憶だ。
僕の記憶の中に眠る、あの男が僕を殺そうとした記憶を、今すぐに見せて欲しい。
あるはずだ。
そう願った。
ベリオストロフ・グリーンディは、悪魔の様な男、許すべきじゃないんだ。
でも、お母様は、こんな奴を。
最後まで愛した。
僕に、父親の話など、したがらなかったのに。
奴が使っていた部屋に1人で入り、書きものをしていたりして、過ごしていたでしょう。家の中の特定の場所に目を向ける時の、表情は、誰かを想うものだった。
こんな歌声を、僕に思い出させる必要がない。
僕は、お母様に育てられた。
父親など、いないんだよ。
僕は、貴方がこのカインハッタ牢獄で何かをしようとしていると思っている。
貴方を、見逃しはしない。
だから、貴方とのわずかにあった思い出など、記憶の奥底で、眠ったままでいいんだ。
僕の感情が強くなったせいだろうか、この一瞬に、ゲーベルドンの青い炎の効果が弱まった様に思えた。
少し、感覚が自分に戻ってきたんだ。
もう、割り切ってきた気持ちだろう。
今さら、父親というものに対して、何を思う必要がある?
自分に言い聞かせようとしても。
もう1人の僕が、心の奥底の鎖を引きちぎる。
僕は、この時、気づいたんだ。
幼い頃から、心の中にある、周辺にたくさんの鋭い針で囲まれて入れない、欠けた場所を、ずっと見つめていた事を。
僕は、泣いていた。
でも。
僕をかわして逃げられないと思ったのか、その選択肢をあえて消したのか、わからないけれど。
強引に伸ばしたゲーベルドンの手は、その周辺の空間を歪ませたのか、僕の目の前の感覚が下にずれていった様に思えたんだ。
だから。
とても簡単にその手をはね除けられると思った僕だけど、
ゲーベルドンの青い炎の手は、僕の首に届いた。
そのゲーベルドンの手に力なんて、必要はなかった。
僕の視点が上に、横に、下にぶれて、体の感覚が麻痺していってる様だった。
目眩がする。
僕の体じゃないみたいだった。
そして、その感覚はより強まった。
まるで、魂が、僕の体から離れようとしてるかの様に。
その時、あまりはっきりと見る事はできなかったけれど、ゲーベルドンは臆した表情から、勝ち誇った表情に変わっていた。
力が、入らない。
僕が反撃するつもりで伸ばした手は、ゲーベルドンに届かない。
何処に手を伸ばしてるのかさえ、わからなかった。
僕は、ウイプルの兵だ。
死ぬ時は、戦場なのかと、思いもしたけど。
そうだ。
年を重ねて、ベッドの上で、眠る様に、死ねはしない。
そんな事は、わかっている。
でも。
ゲーベルドンが自ら犯した過ちで、失った体を取り戻すためのものとして、僕は生贄にされる、
それはとても、堪え難い屈辱だ。
必死に伸ばした僕の手は、ゲーベルドンの顔さえ、触れない。
荒波にもまれる小舟の様に、何の安定もなくして、ただされるがまま。
そんな時に。
遠い記憶が、次々と脳裏に浮かんできたんだ。
僕が幼い頃、風で飛ばされた小さなものが家の戸を打った時、お母様は、何かに呼ばれた様に、向かっていった。
戸を開け、外を見回して、少し落胆していた。
僕はその時、感覚では気づいていたのかも知れないけど。
お母様は、ベリオストロフ・グリーンディの帰りを期待した。
そういった行動も、いつの間にか、なくなっていったけど。
ああ、地面から角が2本生えた様な、反った木が生えた場所があった。
のぼって、その木の頂上を見ようとしたら、足を滑らせた。
何やってるんだよ、って。
手を伸ばしたシルファリアスは、優しく笑っていた。
あの笑顔は、僕の心を優しく包んでくれた。
あの時はすでに、僕を弟として、見つめていたのかも知れない。
シルファリアス。
負けないで。
天黄覇王竜のゾーファルに。
竜がこの世界の覇権を奪還すれば、きっと、人間が滅びる。
僕は、竜と人間の間にいる。その感覚はなくさない様に、大切にしていくよ。
でも、シルファリアスがゾーファルを抑えられない時、竜が世界の覇権を奪還しようと攻勢に出た時は、僕は、人間側に立って、戦わなくてはいけない。
僕の代わりに、その役割を果たせそうな者など、いない。
僕の首を絞めるゲーベルドンに、そのまま僕を殺せる力はない。
僕の気管を潰すには、もう少し力が必要いるはずだ。
ゲーベルドンの青い炎は、すぐに僕の魂を抜き取るなどして、殺す事ができないでいた。
だから、勝機はあるはずだと、思えた。
僕は感覚の鈍った手を何とか、心音を頼りに、胸に当てた。
そして、少し苦しさを覚える首の方へ、ゆっくりと、方向を違えない様に、胸に当てた手を這わせたんだ。
ゲーベルドンの体の何処でもいい、掴んで、そこから反撃に出ようと思ったんだ。
その事に気づき、焦るゲーベルドンは、青い炎の勢いを上げた様に思えた。
何処が、上なんだ、と。
苦しさを覚える首は、この今ある手を上に向かわせればいい?
それとも、下なのか?
僕の体から、魂が剥がされようとする力が強まったからなのか、方向がまるでわからなくなった。
そう思った。
その時、遠い、遠い、記憶がまた甦る。
とても曖昧だけど。
僕が幼い頃、月明かりに照らされた薄暗いベッドの上で横になっていて、その横にある椅子に座って、誰かが歌を歌っている。
お母様は。
よく本を読んでくれたり、話をしてくれたな。
月の話とかも、おもしろかった。
空に浮かぶ月で、毎晩、たくさんの明かりを灯して、違うパレードで賑わっている。今日は何のパレードをしているんだろう、と。
楽器を鳴らして、歌い、踊り、楽しんでいる。
ベッドの上で横になっている僕は、満足そうに微笑んでいる。
この時は、本を読んでもらったりしているわけじゃなかった。
聴こえてくる歌は。
聴き覚えがあった。
それは、そう昔の事じゃない。
その歌は、幼い僕を安心させ、眠らせていく。
その歌は。
カインハッタ牢獄で、聴こえてきた歌だ。
ここに来て、数日後の夜に、聴こえてきた。
そうだ。
同じ、歌声だ。
そして、この時に気づいたんだ。
貴方は、僕を殺そうとしていたはずだ。
まだその時には、僕の竜の瞳を、見た事がなかったのか。
このベッドで、僕に歌を歌ったのは、いつの時だ。
僕を少しでも、我が子だと、愛しく思った事はあったのか?
ベリオストロフ・グリーンディ。
貴方は、幼い頃、無力な僕を殺そうとしたんだ。
なぜ、愛情を感じる様なその歌声を、幼い僕に聴かせたんだ。
消してしまいたい。
思い出したくもない記憶だ。
僕の記憶の中に眠る、あの男が僕を殺そうとした記憶を、今すぐに見せて欲しい。
あるはずだ。
そう願った。
ベリオストロフ・グリーンディは、悪魔の様な男、許すべきじゃないんだ。
でも、お母様は、こんな奴を。
最後まで愛した。
僕に、父親の話など、したがらなかったのに。
奴が使っていた部屋に1人で入り、書きものをしていたりして、過ごしていたでしょう。家の中の特定の場所に目を向ける時の、表情は、誰かを想うものだった。
こんな歌声を、僕に思い出させる必要がない。
僕は、お母様に育てられた。
父親など、いないんだよ。
僕は、貴方がこのカインハッタ牢獄で何かをしようとしていると思っている。
貴方を、見逃しはしない。
だから、貴方とのわずかにあった思い出など、記憶の奥底で、眠ったままでいいんだ。
僕の感情が強くなったせいだろうか、この一瞬に、ゲーベルドンの青い炎の効果が弱まった様に思えた。
少し、感覚が自分に戻ってきたんだ。
もう、割り切ってきた気持ちだろう。
今さら、父親というものに対して、何を思う必要がある?
自分に言い聞かせようとしても。
もう1人の僕が、心の奥底の鎖を引きちぎる。
僕は、この時、気づいたんだ。
幼い頃から、心の中にある、周辺にたくさんの鋭い針で囲まれて入れない、欠けた場所を、ずっと見つめていた事を。
僕は、泣いていた。
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