剣士アスカ・グリーンディの日記

sayure

文字の大きさ
上 下
96 / 113
第4章 貴方へ愛の言葉を

手記の中で

しおりを挟む
夜更け、鉄の戸が開く音に気づいたんだ。










囚人部屋のある方向から。









僕は剣を取り、自分の部屋の戸の鍵をゆっくりと開け、足音を抑えながら、その音のする方へ急いだ。






海風が窓から舞い込む音で、多少の物音はかき消される。







でも、僕の耳はごまかされない。







看守は椅子に腰かけ、昼間と違い、見回る時間帯は大幅に減る。







ウイプルのカザンデリックにある時計塔の時の鐘が、時を知らせ、その鐘の音を受けた他の街の時計塔が、それに呼応する様に鳴らし始めるけど。





夜中の第3刻が鳴らされる前後に、カインハッタ牢獄の看守は見回り始める。








囚人にも、看守の動きがわかりやすいだろう。









しかし。







他の囚人部屋の者達は、自身以外の囚人部屋の戸が夜更けに開く音に気づかないのか。















どの囚人部屋からも、声はしない。








これが日常に行われている事だからか?






囚人部屋の戸が開かれた、そこから人の足音が響く。










1人。









そう思ったけど、すぐに1人じゃない事に気がついた。









もう1人、いる。










看守が囚人部屋の鍵を開け、看守と囚人部屋の中にいた囚人が、2人で歩く音、だろうか。








足音を抑えて歩いている様だ。僕の耳は、ごまかせないはしない。









鍵を開けた囚人部屋の戸は、閉めていない様だ。連続して音を立て、周囲に気づかれるのを嫌ったのか。









何処へ向かう?










他の看守も、信用はできない。








僕1人で、不審な動きをする2人の足音の方へ向かった。









2人の足音は、途中から、急ぎ足にていく。








小柄な者と、大柄な者の足音。









足音を抑えていても、2人の足音の大きさに差がある。







螺旋階段を降りてはいない。このカインハッタ牢獄の内と外を繋ぐ経路を辿っていない。





それは、僕が他の経路を知らないだけか、それとも牢獄内の別の場所を目指している?








早く追いつけ、と。








足音を抑えながら、その2人の元へ向ったんだ。







それでも。









間に合わなかった。









鉄の戸を開け、閉める音。








2人とも、何処かの部屋へ入った。









そして、内側から鍵を閉める音がした。







もう1人は看守じゃないのなら、囚人だ。囚人が囚人部屋の鍵を持ってはならない。それは、このカインハッタ牢獄の破滅を意味する。







このカインハッタ牢獄の終わりだ。








牢獄内の通路は一本道じゃない、幾つか交差して、道が分かれている。足音の方向はわかっても、どの部屋に入ったのかまではわからない。







おおよその音がした方向の囚人部屋を格子状の小さな窓から覗いたけど、2人の姿は見えなかった。





僕はこの日、夜中に2人が、1つの囚人部屋から、別の部屋に入ったその場所を特定する事ができなかった。







ただ、最初に囚人部屋から出た時、その部屋の鍵を閉めてはいない。鉄の戸を閉め切る音もしてはいなかった。






僕は、せめて囚人部屋を出たその場所をと、囚人部屋の戸の違和感を確かめるために通路を歩いていったんだ。









ほら、鉄の戸が戸枠とわずかにずれている。









僕は、部屋番号を見て、思わず目を閉じた。









大人しくしてはくれないんだな。








何をしたいんだ、と。











僕は、鍵の開いている囚人部屋に入った。









その時、壁に文字が書かれている事に気づいたんだ。何か鋭利なナイフが何かで引っ掻いて文字を書いている。







足枷をした状態で、食事の時にナイフの使用を許されている者達もいる。それ自体は、不思議な事じゃない。







この文字は、何処かで見た事があるけど、恐らく古代文字、普通に生活していて書けるものじゃない。僕は、幼い頃にお母様から貰っていた本の中で、目にした事がある。





囚人部屋は、質素だけど、壁に寄せた木造の机と椅子がある。銀の皿が何枚か重ねてあって、その下に手記があった。







草木がどうとか、空がどうとか、あまり重要ではない事が書かれていた。







短い文章だけど。









お母様の事も書かれていた。











滅びの兆しを示す赤子とは、僕の事だろうか。








ベリオストロフ・グリーディ。









この壁に文字を書いたのは、貴方じゃない。手記と壁の筆跡が違い過ぎる。










しかし、この手記の中で、明らかな事が1つ。










かつてウイプルの騎士だったと言っていたけど。









ヘイル・サイン騎士隊は、活動内容を変え、今も動いている。









そして、信じられない事だけど。









このカインハッタ牢獄内に囚人としている貴方が。















その活動の中心にいる。







ジスマリアの21日
     カインハッタ牢獄内にて
___________
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...