剣士アスカ・グリーンディの日記

sayure

文字の大きさ
上 下
95 / 113
第4章 貴方へ愛の言葉を

囚人の存在

しおりを挟む
何人か、足りない。



特別、重い罪を犯したとは思えなかった者達だから、僕の意識から外れていたのかも知れない。



看守に釈放された者がいたかどうかを確認した。





看守達は、笑っていたな。







そんな者がいるわけがない。






釈放される事のない重い罪を犯した囚人、釈放されては困る王族、上流階級の貴族がいる囚人。




このカインハッタ牢獄にいる囚人は、故郷に戻る事はない。





それでも、家族や知人がこのカインハッタ牢獄に訪ねて、差し入れを贈る。






看守には、お金を。








このカインハッタ牢獄にとって、利益となる囚人。








なら、家族や知人の来ない囚人は?








生きても、死んでも。










誰にも興味を持たれない。








このアメリディロ島に、海賊船が近づいていた事があったな。







このカインハッタ牢獄は、ウイプル王国の管轄下にある。






本国から離れ、孤島だからと好き放題にしてはならないんだ。







お前達は。









見放された存在か。






この限られた狭い部屋の中で一生を過ごすくらいなら。







海賊にでもなった方がましだと思うか?








それを望んだとしても、海賊に知恵や力を与えるわけにはいかない。








お前達も、使い捨ての様に扱われ、死んでしまうだろう。








海賊が気にする、絆を持っていない。











海賊に囚人を渡している確実な証拠が必要だ。







そこまでして救う必要があるのか、と。









ウイプルの民もいる。










罪を犯した後でも、彼らはウイプルの民か?









ベリオストロフ・グリーンディは、どうなんだ。








彼は、僕を殺そうとした。











まだ幼い僕を。










僕も望まれていない。











望まれて、生まれなかった。










僕も、囚人と同じ様に、必要がない?











それでも。













僕は、お母様との約束を果たすんだ。










僕は、ブルーシーズの心の片隅にあった、願いにも似た想いに気づけず、剣の軌道を変える事ができなかった。









僕は、ブルーシーズを殺してしまった。










でも、その時にブルーシーズがかばったヴィルアズ王。







母国ウルヘイド王国を守護する竜であるブルーシーズの白灰千王竜ホローエヴァルドドラゴンを、邪教国の圧力に屈する形で殺してしまったのに、彼はその白灰千王竜によって、命を救われた。








君が死んだ時、彼は泣いていた。










ヴィルアズ王の死んだ心を、蘇らせた。











その後、ヴィルアズ王率いるウルヘイド王国軍は、邪教国に反旗を翻し、邪教国ガンジルと交戦、そして、見事に打ち勝ったんだ。









今の僕も、ヴィルアズ王と同じ。










まだ死ねない。










ブルーシーズを殺してしまった事で、僕は希望を失って。










死のうとした。













でも、ベルベッタが僕が死なない様に、身を投げ出して、守ってくれた。









その時。













ベルベッタは、僕に命を吸われてしまったのかな。










もっと。









もっと生きたかったはずなのに。













今でも、僕の心の中に。











ずっと、ベルベッタ、お前がいる。










この命は、お前に救われた。










そして。










シルファリアスとの、約束を。そうだ、あれは約束だ。











ベルベッタを殺され、全てに失望をしたまま、いい加減な状態でウイプルを守ろうとした。そんな僕を、シルファリアスは命を賭けて、道を示してくれた。











兄さん。
















僕の死んだ心は、蘇ったんだ。















お母様に代わり、僕がウイプルを守ってみせる。





人類を滅しかねない野望に満ちた竜、ゾーファルに、ウイプルをやらせはしない。




人間と竜との均衡を、崩し、大きく片側に偏れば、竜か、人間のどちらかが、滅びてしまう。









僕は、ウイプルの人間。











そして、ウイプルの竜。











僕にたくさんの者達が関わり、紡がれた糸を。









ベリオストロフ・グリーンディが僕の存在を否定しても。









ここで、途切れさせるわけにはいかない。










僕は。













僕は、人間と竜の王国、ウイプルと共に。









これからも生きていく。










だから。










カインハッタ牢獄を管轄するウイプルから、終わりの鐘が鳴らされるまで、お前達、囚人の身は。










僕が守ってみせるよ。






ジスマリアの20日
     カインハッタ牢獄内にて
___________


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...