剣士アスカ・グリーンディの日記

sayure

文字の大きさ
上 下
93 / 113
第4章 貴方へ愛の言葉を

アタフ

しおりを挟む
看守長ゲーベルドンは、消えた囚人バルケーの捜索を看守数名に指示した。



囚人部屋の壁や床を調べ、




そして、カインハッタ牢獄内の通路も脱出経路が隠されていないか、確認していた。



僕と一緒にこのアメリディロ島に来た護衛のウイプル兵1人だけを、まだこの島に残していたけど。


港町ゲヤローフからの迎えの船が今日、アメリディロ島にやって来る。


このカインハッタ牢獄の現状を、国王に報告してもらうためだ。






看守達に、看守や外の番兵以外で、僕の様な者がここに配備された事はあるのかと訊いてみた。



全くいないわけではないけど、随分前の事で、覚えてはいない、と。





季節感がない島がそうさせるのか。





そういえば、ウイプルには、季節感があっただろうか。超高度の山岳に囲まれている事もあってか、冷気などあまり入ってこない様に感じる。



極端に暑いと感じる事もあまりないな。





遥か北の大陸には、白い雪が降っているのに。






でも、時が過ぎ、咲く花は変わる。季節感は、あるんだろう。











囚人部屋001の囚人は、今日は陽気な表情を浮かべている。







何を楽しそうに笑っているんだと思ったけど、すぐに僕にとって、それは望ましい光景だと気がついた。







二重人格者の男だ。








私を見つめて、笑っていた。









アタフだ。






彼は、僕に何かを語ろうとしていた。





陽気で口の軽いアタフ。





その二重人格は、生まれつきのものか?







それとも、何かの強い精神的圧迫で生まれたものか?








例えば、このカインハッタ牢獄で。










それは、ただの憶測に過ぎないか。











僕は鉄の戸にある小さな格子状の窓から、彼を手招きして呼んでみた。






少し声をらして笑い、僕に近づいてきたアタフが、最初に伝えてきた言葉。






その言葉。








事は重大だ。








僕はアタフに静かにする様にと、また聞かせてほしいと、伝えたんだ。






バルケーの姿が見えないと気づいたのなら、看守や外の番兵でもいい、カインハッタ牢獄だけじゃなく、アメリディロ島全体に捜索を出すべきなのに。





それを指示している様子がない。







カインハッタ牢獄で、僕の目につく範囲だけの捜索。








それも、危機感というものも伝わらない単純な作業の様に見える。








違和感はあった。








今日、ウイプルに戻っていくウイプル兵1人に、僕からのお願いを国王に伝えてほしいと、言った。









何が目的なんだ。









アタフの言った言葉は、一言。










別の者にすり替わってる、と。









ジスマリアの18日
     カインハッタ牢獄内にて
___________





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

処理中です...