剣士アスカ・グリーンディの日記

sayure

文字の大きさ
上 下
88 / 113
第4章 貴方へ愛の言葉を

海賊船と侵入者

しおりを挟む
まだ、夜明けまで時間がある。ただ寝つけなくて、外を眺めようと、カインハッタ牢獄施設内にある看守用個室の格子窓から、外に目を向けたんだ。







そこで見た光景は、僕の微かな眠気も吹き飛ばした。






とても大きな黒い船が、このアメリディロ島に影を落としていた。









月明かり頼りでも、船体が全て黒塗りされているとわかった。要所要所に無骨な造形、海賊船なのは間違いない。





この海賊船は、アメリディロ島沿岸に限りなく近づいていた。





外の見張りは、十分な人数を立たせているはず。





この海賊船に気づかないはずはない。





何処からも、海賊船のアメリディロ島急接近に対しての声は訊こえてはこない。看守達も、外の番兵も、何もまるで日常の出来事の様に。






静かだった。








この島の者達は何かを隠しているのか。







それを率直に看守長ゲーベルドンに訊くべきか、それともしばらく探るべきか。




そう思い悩んでいた時、この牢獄内に何か違和感を感じたんだ。






何かが現れた。








それは、あまり心地良い感覚のものではない。








その何かは、不思議な経路を辿って移動している。その動きは有り得ない。








不思議と、僕にその何かの動きがわかるんだ。












嫌な予感がする。






そう思い、





僕は、部屋隅に立て掛けていた竜剣ジオグリシェルを取り、部屋を出た。







それは、止まる事なく、この牢獄を移動している。






今進んでいる場所は、廊下だろうか、と。





ならば、看守の可能性もある、そう思おうとしても、そうは思えない。






足音がしないんだ。







そして。







壁や鉄格子の戸を何度かすり抜けている。







それは、ただ徘徊してるわけでもなく、何処か目的の場所へ進んでいる。






何かを喋っている?








それとも、これは幾重にも重なる音がそう訊こえさせるのか。






足音を抑えながら、それを感じる元へ急いだ。








僕がいる場所から近い、それの移動する速度はそこまで速くはない。













そして、それの背後を目にした。









すぐに通路を右に曲がっていったため、一瞬だったけど、それの体に揺らめくものは、まるで青い炎の様な。







大きな体格、肩幅を大きく取った様な服装、いや、鎧だったか。







わからない。








それの後を追って、右に曲がったんだ。







しばらく一本道が続く通路、その間に脇道はない。










それの姿はなかった。










壁をすり抜けたのだろうか。













恐らく、違う。










気配もなくなった。

   









消滅でもしたかの様に、完全に消えた。









あれは、何処に向かっていたんだろうか。











しばらく辺りを探し回ったけど、無駄に終わるに違いないと感じてはいた。







あれだけ島の沿岸に寄っていた海賊船の姿も、嘘の様になくなっている。







まるで、夢でも見ているかの様だ。





ジスマリアの12日
     カインハッタ牢獄にて
________
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

我儘女に転生したよ

B.Branch
ファンタジー
転生したら、貴族の第二夫人で息子ありでした。 性格は我儘で癇癪持ちのヒステリック女。 夫との関係は冷え切り、みんなに敬遠される存在です。 でも、息子は超可愛いです。 魔法も使えるみたいなので、息子と一緒に楽しく暮らします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...