77 / 113
第3章 竜の涙
シュペリの花
しおりを挟む
紫雷刀身竜は、永遠の眠りについた、そうザシンから伝えられた。
特別、その死因を語る事もなかったけど。
老衰なのかと思った。
初代ウイプル国王が、天の空で待っている。
いつかの戦いをやろう、と。
竜の国、ウイプル。
この国に、もう、竜はいない。
竜がウイプルの空を舞う、当たり前の光景が、今はまるで夢の様に。
昔ほど、他国はウイプルを脅威とは見ないのかも知れない。
だけど、ウイプルは死んではいない。
これから。
ウイプルは生まれ変わる。
そうならなければ、
きっと、
ウイプルに明日はない。
僕はマージラス砦で、ベルベッタの敵討ち、ダラメイズと一騎打ちとなった。
砦の矢狭間、その他から僕を狙う矢を警戒しながら、僕はダラメイズとの距離を縮めていったんだ。
マージラス砦の、大勢のいるアスデン王国兵の耳に入る様に言われた言葉、恥をかいたと認識できたのに、その行為自体を恥とは思ってはいないのだろう。
ダラメイズ。
彼の守りたいもの、それは何か。
アスデン王国の民。
それとも、自分の身。
違う。
僕との一騎討ちは、危険が高い事は知っているはず。
保身としてくだらない策を練ってきたとしても、その身が一番じゃないだろう。
ダラメイズの守りたいもの。
それは、自分の心に咲かせた虚栄心。
誰からも愛される男だと、言いたいのか?
その愛を自分に捧げない女は、代わりに命を差し出せと?
だから。
お前は、ベルベッタの命を奪った。
だから。
今度は僕が、ダラメイズ自身の命を差し出せと。
言っているんだ。
僕とダラメイズとの距離が30フィートを切った時、砦の矢狭間から矢が放たれた。
昇り始めた日の光が目に入り、矢の軌道の判断が難しく、
それでも僕は、鞘から竜剣を抜き、その矢を弾き飛ばした。
ダラメイズはその機会を逃さず、一気に駆け寄り、僕の首元への刺突を狙ってきた。
この時に、僕の体は予想以上に傷が深いと思ったんだ。
体が思った方向とは違う方向へ流れた。
ダラメイズの剣の切っ先は、僕の首をかすめて。
次の瞬間、僕の体は再び言う事を聞く様になり、態勢の整わないダラメイズの鎧の胸部と腹部の板金の隙間を狙ったんだ。
ダラメイズの体に竜剣ジオグリシェルの切っ先が突き刺さり、そのまま体を貫いた。
下から上に貫いた刺突は、心臓を捉え、お前は助からない。
お前は幸せだ。
敵と向かい合って、戦って死ねた。
ダラメイズは膝をつき、血を吐いて前のめりに倒れ、
もがき苦しみ、
動きが鈍くなり、
そのまま死んでいった。
僕は、胸元に入れていた物を取り出して、ほんの一瞬だけど、ベルベッタと共に過ごした日々を思い出していた。
人は言葉で真実を隠すけど、ベルベッタ、お前は言葉が喋れないから、感情で話をしたね。
僕に、怒ったり、悲しんだり、
そして、笑ったり、楽しんだり、
優しくしたりして。
言葉より、お前という竜がよくわかったよ。
最高の親友だ。
ベルベッタ。
今まで、ありがとう。
ベルベッタ。
これからも、僕の心にお前は存在し続けるんだ。
お前が安心して、また住みたくなる様な国に、
していくから。
ベルベッタ。
もう安心して。
しばらく、僕の心の中で、おやすみ。
僕の手の中にある、白い花びらのシュペリの花。
僕は、それをダラメイズの死体の上に投げた。
お前が殺した、
ベルベッタからの、贈り物だよ、と。
___________
特別、その死因を語る事もなかったけど。
老衰なのかと思った。
初代ウイプル国王が、天の空で待っている。
いつかの戦いをやろう、と。
竜の国、ウイプル。
この国に、もう、竜はいない。
竜がウイプルの空を舞う、当たり前の光景が、今はまるで夢の様に。
昔ほど、他国はウイプルを脅威とは見ないのかも知れない。
だけど、ウイプルは死んではいない。
これから。
ウイプルは生まれ変わる。
そうならなければ、
きっと、
ウイプルに明日はない。
僕はマージラス砦で、ベルベッタの敵討ち、ダラメイズと一騎打ちとなった。
砦の矢狭間、その他から僕を狙う矢を警戒しながら、僕はダラメイズとの距離を縮めていったんだ。
マージラス砦の、大勢のいるアスデン王国兵の耳に入る様に言われた言葉、恥をかいたと認識できたのに、その行為自体を恥とは思ってはいないのだろう。
ダラメイズ。
彼の守りたいもの、それは何か。
アスデン王国の民。
それとも、自分の身。
違う。
僕との一騎討ちは、危険が高い事は知っているはず。
保身としてくだらない策を練ってきたとしても、その身が一番じゃないだろう。
ダラメイズの守りたいもの。
それは、自分の心に咲かせた虚栄心。
誰からも愛される男だと、言いたいのか?
その愛を自分に捧げない女は、代わりに命を差し出せと?
だから。
お前は、ベルベッタの命を奪った。
だから。
今度は僕が、ダラメイズ自身の命を差し出せと。
言っているんだ。
僕とダラメイズとの距離が30フィートを切った時、砦の矢狭間から矢が放たれた。
昇り始めた日の光が目に入り、矢の軌道の判断が難しく、
それでも僕は、鞘から竜剣を抜き、その矢を弾き飛ばした。
ダラメイズはその機会を逃さず、一気に駆け寄り、僕の首元への刺突を狙ってきた。
この時に、僕の体は予想以上に傷が深いと思ったんだ。
体が思った方向とは違う方向へ流れた。
ダラメイズの剣の切っ先は、僕の首をかすめて。
次の瞬間、僕の体は再び言う事を聞く様になり、態勢の整わないダラメイズの鎧の胸部と腹部の板金の隙間を狙ったんだ。
ダラメイズの体に竜剣ジオグリシェルの切っ先が突き刺さり、そのまま体を貫いた。
下から上に貫いた刺突は、心臓を捉え、お前は助からない。
お前は幸せだ。
敵と向かい合って、戦って死ねた。
ダラメイズは膝をつき、血を吐いて前のめりに倒れ、
もがき苦しみ、
動きが鈍くなり、
そのまま死んでいった。
僕は、胸元に入れていた物を取り出して、ほんの一瞬だけど、ベルベッタと共に過ごした日々を思い出していた。
人は言葉で真実を隠すけど、ベルベッタ、お前は言葉が喋れないから、感情で話をしたね。
僕に、怒ったり、悲しんだり、
そして、笑ったり、楽しんだり、
優しくしたりして。
言葉より、お前という竜がよくわかったよ。
最高の親友だ。
ベルベッタ。
今まで、ありがとう。
ベルベッタ。
これからも、僕の心にお前は存在し続けるんだ。
お前が安心して、また住みたくなる様な国に、
していくから。
ベルベッタ。
もう安心して。
しばらく、僕の心の中で、おやすみ。
僕の手の中にある、白い花びらのシュペリの花。
僕は、それをダラメイズの死体の上に投げた。
お前が殺した、
ベルベッタからの、贈り物だよ、と。
___________
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる