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第3章 竜の涙
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もう、会えなくなるけどさ。元気でな。
何処に行くの?
遠い所だよ。
きっとまた、会えるよ。
そうかな?
そうさ。そう願えば。
じゃあ、またなアスカ。
そうだね、また。
…を大切にしろよ。
うん。
…頼んだぞ。
わかったよ。
僕が7才くらいだったかな。そして、君は13才くらい。
そして何年後か君をウイプルで見かけた時は、近寄り難い存在になっていた。
君も、僕を覚えていないという様な感じで、目を合わせようとしなかった。
僕の印象は、空いた数年で君の中でかき消されてしまっていたのだと。
そう思って、僕の心の中にも、君の存在が薄くなり、そして消えていった。
その君が今、目の前でディオガルーダと名乗り、僕と対峙している。
ディオガルーダの殺気は増幅され、そしてそれは決して消える事のないものの様に思えた。
一度失った期待は、決して蘇えらない。
僕は。
ディオガルーダの期待に応えられなかったのかも知れない。
それでも。
ここで死ぬ訳にはいかない。
そう思って。
体内に流れる竜の血を、烈火の如く。
意識の奥底に眠る、無数の鎖で繋がれた僕を解放する様に。
戦いの時に、時々、暴走するあの心境とは異なり、より冷静に1つずつその鎖を解き放つ。
それを、遥か古の聖鋼竜の鱗から生み出された7つの竜剣の内の1本、ジオグリシェルが、呼応すれば、
剣は左右に、竜が翼を開く様に振り、
刃先が虹色の輝きを見せたなら、次の一振りで敵は死滅する。
『竜形異技天地壊滅斬』
ディオガルーダが何かを狙っていると思ったのは、間違いじゃなかった。
お母様の書室で、事前に開きやすそうに書物を机の上に置き、僕に書物を開かせ、この剣技の事を知らせた。
僕がこの剣技を放とうとしている事に気づき、ディオガルーダは眼光の鋭さを増し、決着をつける時だ、と言った。
ディオガルーダも、
この僕が放とうとしている同じ大技を。
ディオガルーダは、迷いがない。
さすがだ、ダイダロスの名の入った竜族、天黄覇王竜の血を持つ者。
それでも、僕は。
ウイプルで讃えられた偉大なる竜、貴覇竜ラリュナピュートの。
破壊巨神魚竜の竜族。
そして。
ウイプルのリガード竜騎士団遊撃隊長、アスカ・グリーンディでもある。
負ける訳にはいかない。
このウイプルを破壊させない様、威力は遠くの空へ突き抜ける様に。
僕も、躊躇いはしない。
このウイプルはまだ、邪教国から狙われている。
僕はまだ、やる事がある。
やれる事が、あるんだ。
死ねない。
僕も、ディオガルーダも、この強大な威力を持つ剣技の一撃で、決着をつけようとしていた。
その剣技を放つ準備は整っている。
ディオガルーダは剣を構え、身を低くし、地面を蹴る。
殺気を振り撒き、空気を切り裂く様に鋭い動きで急接近してきた。
僕も、ディオガルーダの動きを冷静に見極めたつもりだ。
ディオガルーダは僕との距離を詰め、
『竜形異技天地壊滅斬』を放とうと、構えを取って。
僕も同じ剣技で迎え撃とうと、構えを取った。
その時、悲痛な叫びが辺りに響き、それと同時に、体が縦に激しく揺れる大地震が起きた。
それでも。
互いに怯む事なく、
『竜形異技天地壊滅斬』を放ったんだ。
そして、意識が遠のいて。
全てが、白砂に還る様に。
視界が白で埋め尽くされた。
どのくらい、時間が過ぎたのだろう。
果てしなく時間が過ぎている様にも感じた。
僕が目を覚ました時には、洞窟の天井と壁が崩壊して、幾つもの瓦礫の山ができていた。
全身の骨が粉々になった様に思えた。
起き上がる事ができない。
自分の体を確認する事もできないけど、ただディオガルーダがこの周辺にはいない事に気づいた。
ディオガルーダも、あの剣技の想像を絶する破壊力で、決して浅くはない傷を負っているはず。
死んでしまっていても、おかしくはない。
突然、大地震が起こった時。
あの悲痛な叫びは、間違いない。
お母様だった。
この戦いを、望んでいなかったんでしょう。
それでも、僕はもう一度、心を取り戻せた様な気がしたんだ。
このままじゃ、終われない。
しばらくして、激痛と共にではあったけど、何とか起き上がる事ができて。
血を吐いて、一度は膝をついたけど。
また立ち上がって。
折れていない竜剣ジオグリシェルを拾い上げた。
よく、あの強力な大技に、耐えてくれた。
僕に、剣を鞘に納めるほどの力も残っていなかったけど、ディオガルーダの姿もないのに、僕だけがこの場に倒れたままでいる事はできない。
剣の切っ先を地面にひきずりながらも、何とか歩いて。
歩いて。
そして、行かなければいけない場所がある。
僕はウイプルのために、ベルベッタのされた事に対して、目を瞑って、邪教国を警戒し、同盟を強固にして、戦っていこう。
そして、そうしてウイプルを、これからも守っていこうって。
思えるのか?
金呼鈴福竜は、このウイプルにとって、繁栄をもたらせる存在として長い間、この地に留まってくれていた。
ベルベッタの母シーラスの最期、ウイプルを守るために戦って、死んで。
そして、その子ベルベッタも、ウイプルを守るために戦ってくれて。
でも、最期は。
ウイプルのために、金呼鈴福竜は。
このウイプルに長い間、民の繁栄に力を貸した貴女達は、このウイプルの竜だと思っているよ。
このウイプルの、住人と同じだよ。
そして、ベルベッタは僕の家族と言ってもいいくらい、大切な友達なんだ。
僕が幼い頃から一緒にいて、僕ら、いつも仲が良かったんだ。
ベルベッタを、よくも侮辱して、
殺した。
この命の灯火が消えるまで、残された力全てを費やして。
僕は、ウイプルのために戦うよ。
ベルベッタ。
君の敵は、僕が討つ。
シュリエルの25日
竜の祭壇にて
_________
何処に行くの?
遠い所だよ。
きっとまた、会えるよ。
そうかな?
そうさ。そう願えば。
じゃあ、またなアスカ。
そうだね、また。
…を大切にしろよ。
うん。
…頼んだぞ。
わかったよ。
僕が7才くらいだったかな。そして、君は13才くらい。
そして何年後か君をウイプルで見かけた時は、近寄り難い存在になっていた。
君も、僕を覚えていないという様な感じで、目を合わせようとしなかった。
僕の印象は、空いた数年で君の中でかき消されてしまっていたのだと。
そう思って、僕の心の中にも、君の存在が薄くなり、そして消えていった。
その君が今、目の前でディオガルーダと名乗り、僕と対峙している。
ディオガルーダの殺気は増幅され、そしてそれは決して消える事のないものの様に思えた。
一度失った期待は、決して蘇えらない。
僕は。
ディオガルーダの期待に応えられなかったのかも知れない。
それでも。
ここで死ぬ訳にはいかない。
そう思って。
体内に流れる竜の血を、烈火の如く。
意識の奥底に眠る、無数の鎖で繋がれた僕を解放する様に。
戦いの時に、時々、暴走するあの心境とは異なり、より冷静に1つずつその鎖を解き放つ。
それを、遥か古の聖鋼竜の鱗から生み出された7つの竜剣の内の1本、ジオグリシェルが、呼応すれば、
剣は左右に、竜が翼を開く様に振り、
刃先が虹色の輝きを見せたなら、次の一振りで敵は死滅する。
『竜形異技天地壊滅斬』
ディオガルーダが何かを狙っていると思ったのは、間違いじゃなかった。
お母様の書室で、事前に開きやすそうに書物を机の上に置き、僕に書物を開かせ、この剣技の事を知らせた。
僕がこの剣技を放とうとしている事に気づき、ディオガルーダは眼光の鋭さを増し、決着をつける時だ、と言った。
ディオガルーダも、
この僕が放とうとしている同じ大技を。
ディオガルーダは、迷いがない。
さすがだ、ダイダロスの名の入った竜族、天黄覇王竜の血を持つ者。
それでも、僕は。
ウイプルで讃えられた偉大なる竜、貴覇竜ラリュナピュートの。
破壊巨神魚竜の竜族。
そして。
ウイプルのリガード竜騎士団遊撃隊長、アスカ・グリーンディでもある。
負ける訳にはいかない。
このウイプルを破壊させない様、威力は遠くの空へ突き抜ける様に。
僕も、躊躇いはしない。
このウイプルはまだ、邪教国から狙われている。
僕はまだ、やる事がある。
やれる事が、あるんだ。
死ねない。
僕も、ディオガルーダも、この強大な威力を持つ剣技の一撃で、決着をつけようとしていた。
その剣技を放つ準備は整っている。
ディオガルーダは剣を構え、身を低くし、地面を蹴る。
殺気を振り撒き、空気を切り裂く様に鋭い動きで急接近してきた。
僕も、ディオガルーダの動きを冷静に見極めたつもりだ。
ディオガルーダは僕との距離を詰め、
『竜形異技天地壊滅斬』を放とうと、構えを取って。
僕も同じ剣技で迎え撃とうと、構えを取った。
その時、悲痛な叫びが辺りに響き、それと同時に、体が縦に激しく揺れる大地震が起きた。
それでも。
互いに怯む事なく、
『竜形異技天地壊滅斬』を放ったんだ。
そして、意識が遠のいて。
全てが、白砂に還る様に。
視界が白で埋め尽くされた。
どのくらい、時間が過ぎたのだろう。
果てしなく時間が過ぎている様にも感じた。
僕が目を覚ました時には、洞窟の天井と壁が崩壊して、幾つもの瓦礫の山ができていた。
全身の骨が粉々になった様に思えた。
起き上がる事ができない。
自分の体を確認する事もできないけど、ただディオガルーダがこの周辺にはいない事に気づいた。
ディオガルーダも、あの剣技の想像を絶する破壊力で、決して浅くはない傷を負っているはず。
死んでしまっていても、おかしくはない。
突然、大地震が起こった時。
あの悲痛な叫びは、間違いない。
お母様だった。
この戦いを、望んでいなかったんでしょう。
それでも、僕はもう一度、心を取り戻せた様な気がしたんだ。
このままじゃ、終われない。
しばらくして、激痛と共にではあったけど、何とか起き上がる事ができて。
血を吐いて、一度は膝をついたけど。
また立ち上がって。
折れていない竜剣ジオグリシェルを拾い上げた。
よく、あの強力な大技に、耐えてくれた。
僕に、剣を鞘に納めるほどの力も残っていなかったけど、ディオガルーダの姿もないのに、僕だけがこの場に倒れたままでいる事はできない。
剣の切っ先を地面にひきずりながらも、何とか歩いて。
歩いて。
そして、行かなければいけない場所がある。
僕はウイプルのために、ベルベッタのされた事に対して、目を瞑って、邪教国を警戒し、同盟を強固にして、戦っていこう。
そして、そうしてウイプルを、これからも守っていこうって。
思えるのか?
金呼鈴福竜は、このウイプルにとって、繁栄をもたらせる存在として長い間、この地に留まってくれていた。
ベルベッタの母シーラスの最期、ウイプルを守るために戦って、死んで。
そして、その子ベルベッタも、ウイプルを守るために戦ってくれて。
でも、最期は。
ウイプルのために、金呼鈴福竜は。
このウイプルに長い間、民の繁栄に力を貸した貴女達は、このウイプルの竜だと思っているよ。
このウイプルの、住人と同じだよ。
そして、ベルベッタは僕の家族と言ってもいいくらい、大切な友達なんだ。
僕が幼い頃から一緒にいて、僕ら、いつも仲が良かったんだ。
ベルベッタを、よくも侮辱して、
殺した。
この命の灯火が消えるまで、残された力全てを費やして。
僕は、ウイプルのために戦うよ。
ベルベッタ。
君の敵は、僕が討つ。
シュリエルの25日
竜の祭壇にて
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