74 / 113
第3章 竜の涙
再生
しおりを挟む
もう、会えなくなるけどさ。元気でな。
何処に行くの?
遠い所だよ。
きっとまた、会えるよ。
そうかな?
そうさ。そう願えば。
じゃあ、またなアスカ。
そうだね、また。
…を大切にしろよ。
うん。
…頼んだぞ。
わかったよ。
僕が7才くらいだったかな。そして、君は13才くらい。
そして何年後か君をウイプルで見かけた時は、近寄り難い存在になっていた。
君も、僕を覚えていないという様な感じで、目を合わせようとしなかった。
僕の印象は、空いた数年で君の中でかき消されてしまっていたのだと。
そう思って、僕の心の中にも、君の存在が薄くなり、そして消えていった。
その君が今、目の前でディオガルーダと名乗り、僕と対峙している。
ディオガルーダの殺気は増幅され、そしてそれは決して消える事のないものの様に思えた。
一度失った期待は、決して蘇えらない。
僕は。
ディオガルーダの期待に応えられなかったのかも知れない。
それでも。
ここで死ぬ訳にはいかない。
そう思って。
体内に流れる竜の血を、烈火の如く。
意識の奥底に眠る、無数の鎖で繋がれた僕を解放する様に。
戦いの時に、時々、暴走するあの心境とは異なり、より冷静に1つずつその鎖を解き放つ。
それを、遥か古の聖鋼竜の鱗から生み出された7つの竜剣の内の1本、ジオグリシェルが、呼応すれば、
剣は左右に、竜が翼を開く様に振り、
刃先が虹色の輝きを見せたなら、次の一振りで敵は死滅する。
『竜形異技天地壊滅斬』
ディオガルーダが何かを狙っていると思ったのは、間違いじゃなかった。
お母様の書室で、事前に開きやすそうに書物を机の上に置き、僕に書物を開かせ、この剣技の事を知らせた。
僕がこの剣技を放とうとしている事に気づき、ディオガルーダは眼光の鋭さを増し、決着をつける時だ、と言った。
ディオガルーダも、
この僕が放とうとしている同じ大技を。
ディオガルーダは、迷いがない。
さすがだ、ダイダロスの名の入った竜族、天黄覇王竜の血を持つ者。
それでも、僕は。
ウイプルで讃えられた偉大なる竜、貴覇竜ラリュナピュートの。
破壊巨神魚竜の竜族。
そして。
ウイプルのリガード竜騎士団遊撃隊長、アスカ・グリーンディでもある。
負ける訳にはいかない。
このウイプルを破壊させない様、威力は遠くの空へ突き抜ける様に。
僕も、躊躇いはしない。
このウイプルはまだ、邪教国から狙われている。
僕はまだ、やる事がある。
やれる事が、あるんだ。
死ねない。
僕も、ディオガルーダも、この強大な威力を持つ剣技の一撃で、決着をつけようとしていた。
その剣技を放つ準備は整っている。
ディオガルーダは剣を構え、身を低くし、地面を蹴る。
殺気を振り撒き、空気を切り裂く様に鋭い動きで急接近してきた。
僕も、ディオガルーダの動きを冷静に見極めたつもりだ。
ディオガルーダは僕との距離を詰め、
『竜形異技天地壊滅斬』を放とうと、構えを取って。
僕も同じ剣技で迎え撃とうと、構えを取った。
その時、悲痛な叫びが辺りに響き、それと同時に、体が縦に激しく揺れる大地震が起きた。
それでも。
互いに怯む事なく、
『竜形異技天地壊滅斬』を放ったんだ。
そして、意識が遠のいて。
全てが、白砂に還る様に。
視界が白で埋め尽くされた。
どのくらい、時間が過ぎたのだろう。
果てしなく時間が過ぎている様にも感じた。
僕が目を覚ました時には、洞窟の天井と壁が崩壊して、幾つもの瓦礫の山ができていた。
全身の骨が粉々になった様に思えた。
起き上がる事ができない。
自分の体を確認する事もできないけど、ただディオガルーダがこの周辺にはいない事に気づいた。
ディオガルーダも、あの剣技の想像を絶する破壊力で、決して浅くはない傷を負っているはず。
死んでしまっていても、おかしくはない。
突然、大地震が起こった時。
あの悲痛な叫びは、間違いない。
お母様だった。
この戦いを、望んでいなかったんでしょう。
それでも、僕はもう一度、心を取り戻せた様な気がしたんだ。
このままじゃ、終われない。
しばらくして、激痛と共にではあったけど、何とか起き上がる事ができて。
血を吐いて、一度は膝をついたけど。
また立ち上がって。
折れていない竜剣ジオグリシェルを拾い上げた。
よく、あの強力な大技に、耐えてくれた。
僕に、剣を鞘に納めるほどの力も残っていなかったけど、ディオガルーダの姿もないのに、僕だけがこの場に倒れたままでいる事はできない。
剣の切っ先を地面にひきずりながらも、何とか歩いて。
歩いて。
そして、行かなければいけない場所がある。
僕はウイプルのために、ベルベッタのされた事に対して、目を瞑って、邪教国を警戒し、同盟を強固にして、戦っていこう。
そして、そうしてウイプルを、これからも守っていこうって。
思えるのか?
金呼鈴福竜は、このウイプルにとって、繁栄をもたらせる存在として長い間、この地に留まってくれていた。
ベルベッタの母シーラスの最期、ウイプルを守るために戦って、死んで。
そして、その子ベルベッタも、ウイプルを守るために戦ってくれて。
でも、最期は。
ウイプルのために、金呼鈴福竜は。
このウイプルに長い間、民の繁栄に力を貸した貴女達は、このウイプルの竜だと思っているよ。
このウイプルの、住人と同じだよ。
そして、ベルベッタは僕の家族と言ってもいいくらい、大切な友達なんだ。
僕が幼い頃から一緒にいて、僕ら、いつも仲が良かったんだ。
ベルベッタを、よくも侮辱して、
殺した。
この命の灯火が消えるまで、残された力全てを費やして。
僕は、ウイプルのために戦うよ。
ベルベッタ。
君の敵は、僕が討つ。
シュリエルの25日
竜の祭壇にて
_________
何処に行くの?
遠い所だよ。
きっとまた、会えるよ。
そうかな?
そうさ。そう願えば。
じゃあ、またなアスカ。
そうだね、また。
…を大切にしろよ。
うん。
…頼んだぞ。
わかったよ。
僕が7才くらいだったかな。そして、君は13才くらい。
そして何年後か君をウイプルで見かけた時は、近寄り難い存在になっていた。
君も、僕を覚えていないという様な感じで、目を合わせようとしなかった。
僕の印象は、空いた数年で君の中でかき消されてしまっていたのだと。
そう思って、僕の心の中にも、君の存在が薄くなり、そして消えていった。
その君が今、目の前でディオガルーダと名乗り、僕と対峙している。
ディオガルーダの殺気は増幅され、そしてそれは決して消える事のないものの様に思えた。
一度失った期待は、決して蘇えらない。
僕は。
ディオガルーダの期待に応えられなかったのかも知れない。
それでも。
ここで死ぬ訳にはいかない。
そう思って。
体内に流れる竜の血を、烈火の如く。
意識の奥底に眠る、無数の鎖で繋がれた僕を解放する様に。
戦いの時に、時々、暴走するあの心境とは異なり、より冷静に1つずつその鎖を解き放つ。
それを、遥か古の聖鋼竜の鱗から生み出された7つの竜剣の内の1本、ジオグリシェルが、呼応すれば、
剣は左右に、竜が翼を開く様に振り、
刃先が虹色の輝きを見せたなら、次の一振りで敵は死滅する。
『竜形異技天地壊滅斬』
ディオガルーダが何かを狙っていると思ったのは、間違いじゃなかった。
お母様の書室で、事前に開きやすそうに書物を机の上に置き、僕に書物を開かせ、この剣技の事を知らせた。
僕がこの剣技を放とうとしている事に気づき、ディオガルーダは眼光の鋭さを増し、決着をつける時だ、と言った。
ディオガルーダも、
この僕が放とうとしている同じ大技を。
ディオガルーダは、迷いがない。
さすがだ、ダイダロスの名の入った竜族、天黄覇王竜の血を持つ者。
それでも、僕は。
ウイプルで讃えられた偉大なる竜、貴覇竜ラリュナピュートの。
破壊巨神魚竜の竜族。
そして。
ウイプルのリガード竜騎士団遊撃隊長、アスカ・グリーンディでもある。
負ける訳にはいかない。
このウイプルを破壊させない様、威力は遠くの空へ突き抜ける様に。
僕も、躊躇いはしない。
このウイプルはまだ、邪教国から狙われている。
僕はまだ、やる事がある。
やれる事が、あるんだ。
死ねない。
僕も、ディオガルーダも、この強大な威力を持つ剣技の一撃で、決着をつけようとしていた。
その剣技を放つ準備は整っている。
ディオガルーダは剣を構え、身を低くし、地面を蹴る。
殺気を振り撒き、空気を切り裂く様に鋭い動きで急接近してきた。
僕も、ディオガルーダの動きを冷静に見極めたつもりだ。
ディオガルーダは僕との距離を詰め、
『竜形異技天地壊滅斬』を放とうと、構えを取って。
僕も同じ剣技で迎え撃とうと、構えを取った。
その時、悲痛な叫びが辺りに響き、それと同時に、体が縦に激しく揺れる大地震が起きた。
それでも。
互いに怯む事なく、
『竜形異技天地壊滅斬』を放ったんだ。
そして、意識が遠のいて。
全てが、白砂に還る様に。
視界が白で埋め尽くされた。
どのくらい、時間が過ぎたのだろう。
果てしなく時間が過ぎている様にも感じた。
僕が目を覚ました時には、洞窟の天井と壁が崩壊して、幾つもの瓦礫の山ができていた。
全身の骨が粉々になった様に思えた。
起き上がる事ができない。
自分の体を確認する事もできないけど、ただディオガルーダがこの周辺にはいない事に気づいた。
ディオガルーダも、あの剣技の想像を絶する破壊力で、決して浅くはない傷を負っているはず。
死んでしまっていても、おかしくはない。
突然、大地震が起こった時。
あの悲痛な叫びは、間違いない。
お母様だった。
この戦いを、望んでいなかったんでしょう。
それでも、僕はもう一度、心を取り戻せた様な気がしたんだ。
このままじゃ、終われない。
しばらくして、激痛と共にではあったけど、何とか起き上がる事ができて。
血を吐いて、一度は膝をついたけど。
また立ち上がって。
折れていない竜剣ジオグリシェルを拾い上げた。
よく、あの強力な大技に、耐えてくれた。
僕に、剣を鞘に納めるほどの力も残っていなかったけど、ディオガルーダの姿もないのに、僕だけがこの場に倒れたままでいる事はできない。
剣の切っ先を地面にひきずりながらも、何とか歩いて。
歩いて。
そして、行かなければいけない場所がある。
僕はウイプルのために、ベルベッタのされた事に対して、目を瞑って、邪教国を警戒し、同盟を強固にして、戦っていこう。
そして、そうしてウイプルを、これからも守っていこうって。
思えるのか?
金呼鈴福竜は、このウイプルにとって、繁栄をもたらせる存在として長い間、この地に留まってくれていた。
ベルベッタの母シーラスの最期、ウイプルを守るために戦って、死んで。
そして、その子ベルベッタも、ウイプルを守るために戦ってくれて。
でも、最期は。
ウイプルのために、金呼鈴福竜は。
このウイプルに長い間、民の繁栄に力を貸した貴女達は、このウイプルの竜だと思っているよ。
このウイプルの、住人と同じだよ。
そして、ベルベッタは僕の家族と言ってもいいくらい、大切な友達なんだ。
僕が幼い頃から一緒にいて、僕ら、いつも仲が良かったんだ。
ベルベッタを、よくも侮辱して、
殺した。
この命の灯火が消えるまで、残された力全てを費やして。
僕は、ウイプルのために戦うよ。
ベルベッタ。
君の敵は、僕が討つ。
シュリエルの25日
竜の祭壇にて
_________
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる