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第3章 竜の涙
ウイプル王国と竜の始まり
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ダルレアス自治領のザシンに誘われ、僕はザシンのいるクフト城へ向かった。
途中、自治領にある街アルクラムに立ち寄り、見たことのない食べ物の、小さく赤い果実ペリアを買って、食べてみた。
甘酸っぱくて、とてもおいしい。
この自治領内で栽培しているのだろうか。
向こう側のウイプルでは、扱っていないな。
食べ終わると、ウイプルの街並みとは少し違和感があるこの街を眺めながら歩いた。その違和感は、遥か昔のウイプルの伝統を残した家造りのためだろうか。
街を眺めて歩いていると、前に感じた独特な威圧を感じる。
やはり、この男か。
竜族にも思える、この男の目つき。
この男の目は、僕よりも先に、しっかりと僕を捉えていた。何だ…。
威圧感は、この男の身につけている鎧が黒いという事もある。
何処の国の鎧だろうか。胸部に描かれた模様に見覚えがない。この辺りの国ではない様な気がする。
一番の威圧感は、やはりこの男の目。黄金色だが、少し緑色が混じっている。この威圧感は、幾多の戦いの中で磨かれたものか。
お前がそうかと訊かれ、僕はあの言葉を覚悟した。
この言葉は、真実だから、言われ続けるのだ。
そう、これからもずっと。
ドラゴンバスター。
____________________________
僕の目は、この男を敵とみなし、睨みつけているのだろうか。
僕は、しばらく言葉を吐かずにいた。
そうしたら、この黒い鎧の男は、先にディオガルーダと名乗った。
僕も、それに対し、ウイプル王国リガード竜騎士団のアスカ・グリーンディだ、と名乗り返した。
ディオガルーダと名乗った男は、まだ覚悟ができていない様だな、と呟いたんだ。
癇に触る奴だった。
このウイプルで、そういう言葉は、吐かない方がいい、とこのディオガルーダに伝えた。
なるべく、自治領内の街中では事を荒立てたくはない。
ディオガルーダは何も語らず、そのまま目を逸らし、すれ違い、去っていった。
その時、はっと気づいたんだ。
今は、他国の者であれば、腕に通行証の腕章をしなければならないはず。
彼は、それをしていない。
このダルレアス自治領の兵か?
そうとは思えない。
腰にあった剣の鞘、柄を見て、感じた。
より素早く剣を抜き差しできる事に、特化させた様な形状だ。
下級、中級兵があんな、優れた抜剣技術が要求される物を、持つ訳がない。
ディオガルーダという名が本名なら、いずれ何処の兵か、わかるはずだ。
しかし、あの腰にあった細長い鉄の筒は、何だ。
____________________________
クフト城に辿り着くと、ザシンは奥にある威厳山に繋がる洞窟を案内し、共に歩いた。
松明の火を壁に寄せると、壁画の竜の絵が暗闇から浮かび上がる。
金呼鈴福竜が大火災の時、ウイプルの民を街から救い出した時のもの。
愚王蛇が襲ってきた時に、貴覇竜ラリュナピュートが退治したもの。
一緒に描かれたこの竜は、
紫雷刀身竜というらしい。
このウイプルに、竜に祈る習慣がついた始まり。
遥か昔、この紫雷刀身竜が、ウイプル近くのハルオム湖で水浴びをしている時に、初代ウイプル王が、その畔で水を飲んでいたらしい。
人間を忌み嫌うこの竜は、彼を食らおうとしたらしいが、ウイプル王は大声で笑い、やめておけ、貴様が死ぬだけだと言い放ったという。
ウイプルが敵国に狙われている事を悟った竜は、人と人との醜い争いの果てに、朽ち果てる様を見てやろうと、そこでウイプル王を仕留めず、ウイプルと敵国との戦いが訪れるその日、威厳山から眺める事にした。
戦いが始まり、戦況は兵数の圧倒的に少ないウイプルが劣勢になる。しかし、ウイプル王は少しも気落ちするする事なく、勇ましく戦ったという。
配下の兵もまた、王の怯まぬ鉄の意志に推される様にして、勇ましく戦った。
敵国を撤退させたのを見た紫雷刀身竜は、おもしろくなく思い、自ら威厳山を飛び降り、ウイプル王を背後から襲おうとした。
それに気づいたウイプル王は、今が倒す機会と見たか、竜よ!と。兵に手出しをさせず、一対一で戦おうとした。
紫雷刀身竜は、愚かな人間だと、あざ笑った。火を吐き、ウイプル王を焼死させようとした瞬間、金呼鈴福竜が空を飛んでいるのが目に入り、それを止めてしまった。
この土地に繁栄が訪れる。
それは、人間にとっても、竜にとってもなのか?
わからないけど。
この日以来、威厳山を巣として、紫雷刀身竜は活動する。
ウイプル王も、国に竜がいるとは、強国に相応しいと、退治したり、追い払おうとはしなかったらしい。
その後、幾度となく敵国に攻め込まれたウイプルだけど、ウイプル王は怯まず、戦った。その度に、敵国を退けたんだ。
そのウイプル王も、病気には勝てなかった。
ウイプル王は弱り果て、死期も近い時、剣を持って威厳山に行き、紫雷刀身竜の前で、いつかの戦いの続きでもやろうか、と言ったという。
弱り果てたウイプル王に、紫雷刀身竜は牙を剥く事はしなかった。
そうでないのなら、話をしようじゃないか、とウイプル王は剣を捨て、笑い、話を始めたという。
世界を統べる王になる。
世の中に平和をもたらす事ができるのは、強者のみ。その計画に、お前も加わるか、竜よ、と。
そのウイプル王は虚勢を張っている訳でもなく、真の心で語っている、そう感じた紫雷刀身竜は、彼の余力では最後の戦いになるだろう次の戦いの日を待ち、
敵国が攻め入ったその日、紫雷刀身竜はウイプル王と共に、敵国と戦った。
紫雷刀身竜が、ウイプル王を、人間も、竜も関係なく、認めた瞬間だった。
ウイプル王が死んだ後も、紫雷刀身竜はこの地に残り、ウイプル王国の戦いに加わった。
初代ウイプル王の王子が、2代目ウイプル王となり、竜をウイプルの守り神として、丁重に扱ったため、紫雷刀身竜はもはや、ウイプルを、忌み嫌う人間としては見なさなくなっていた。
ザシンは、その話は代々引き継がれてきたと言ったが、その話が本当なら、
僕は、うれしい。
アリグルド23日
ヘールベータ地区の家にて
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途中、自治領にある街アルクラムに立ち寄り、見たことのない食べ物の、小さく赤い果実ペリアを買って、食べてみた。
甘酸っぱくて、とてもおいしい。
この自治領内で栽培しているのだろうか。
向こう側のウイプルでは、扱っていないな。
食べ終わると、ウイプルの街並みとは少し違和感があるこの街を眺めながら歩いた。その違和感は、遥か昔のウイプルの伝統を残した家造りのためだろうか。
街を眺めて歩いていると、前に感じた独特な威圧を感じる。
やはり、この男か。
竜族にも思える、この男の目つき。
この男の目は、僕よりも先に、しっかりと僕を捉えていた。何だ…。
威圧感は、この男の身につけている鎧が黒いという事もある。
何処の国の鎧だろうか。胸部に描かれた模様に見覚えがない。この辺りの国ではない様な気がする。
一番の威圧感は、やはりこの男の目。黄金色だが、少し緑色が混じっている。この威圧感は、幾多の戦いの中で磨かれたものか。
お前がそうかと訊かれ、僕はあの言葉を覚悟した。
この言葉は、真実だから、言われ続けるのだ。
そう、これからもずっと。
ドラゴンバスター。
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僕の目は、この男を敵とみなし、睨みつけているのだろうか。
僕は、しばらく言葉を吐かずにいた。
そうしたら、この黒い鎧の男は、先にディオガルーダと名乗った。
僕も、それに対し、ウイプル王国リガード竜騎士団のアスカ・グリーンディだ、と名乗り返した。
ディオガルーダと名乗った男は、まだ覚悟ができていない様だな、と呟いたんだ。
癇に触る奴だった。
このウイプルで、そういう言葉は、吐かない方がいい、とこのディオガルーダに伝えた。
なるべく、自治領内の街中では事を荒立てたくはない。
ディオガルーダは何も語らず、そのまま目を逸らし、すれ違い、去っていった。
その時、はっと気づいたんだ。
今は、他国の者であれば、腕に通行証の腕章をしなければならないはず。
彼は、それをしていない。
このダルレアス自治領の兵か?
そうとは思えない。
腰にあった剣の鞘、柄を見て、感じた。
より素早く剣を抜き差しできる事に、特化させた様な形状だ。
下級、中級兵があんな、優れた抜剣技術が要求される物を、持つ訳がない。
ディオガルーダという名が本名なら、いずれ何処の兵か、わかるはずだ。
しかし、あの腰にあった細長い鉄の筒は、何だ。
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クフト城に辿り着くと、ザシンは奥にある威厳山に繋がる洞窟を案内し、共に歩いた。
松明の火を壁に寄せると、壁画の竜の絵が暗闇から浮かび上がる。
金呼鈴福竜が大火災の時、ウイプルの民を街から救い出した時のもの。
愚王蛇が襲ってきた時に、貴覇竜ラリュナピュートが退治したもの。
一緒に描かれたこの竜は、
紫雷刀身竜というらしい。
このウイプルに、竜に祈る習慣がついた始まり。
遥か昔、この紫雷刀身竜が、ウイプル近くのハルオム湖で水浴びをしている時に、初代ウイプル王が、その畔で水を飲んでいたらしい。
人間を忌み嫌うこの竜は、彼を食らおうとしたらしいが、ウイプル王は大声で笑い、やめておけ、貴様が死ぬだけだと言い放ったという。
ウイプルが敵国に狙われている事を悟った竜は、人と人との醜い争いの果てに、朽ち果てる様を見てやろうと、そこでウイプル王を仕留めず、ウイプルと敵国との戦いが訪れるその日、威厳山から眺める事にした。
戦いが始まり、戦況は兵数の圧倒的に少ないウイプルが劣勢になる。しかし、ウイプル王は少しも気落ちするする事なく、勇ましく戦ったという。
配下の兵もまた、王の怯まぬ鉄の意志に推される様にして、勇ましく戦った。
敵国を撤退させたのを見た紫雷刀身竜は、おもしろくなく思い、自ら威厳山を飛び降り、ウイプル王を背後から襲おうとした。
それに気づいたウイプル王は、今が倒す機会と見たか、竜よ!と。兵に手出しをさせず、一対一で戦おうとした。
紫雷刀身竜は、愚かな人間だと、あざ笑った。火を吐き、ウイプル王を焼死させようとした瞬間、金呼鈴福竜が空を飛んでいるのが目に入り、それを止めてしまった。
この土地に繁栄が訪れる。
それは、人間にとっても、竜にとってもなのか?
わからないけど。
この日以来、威厳山を巣として、紫雷刀身竜は活動する。
ウイプル王も、国に竜がいるとは、強国に相応しいと、退治したり、追い払おうとはしなかったらしい。
その後、幾度となく敵国に攻め込まれたウイプルだけど、ウイプル王は怯まず、戦った。その度に、敵国を退けたんだ。
そのウイプル王も、病気には勝てなかった。
ウイプル王は弱り果て、死期も近い時、剣を持って威厳山に行き、紫雷刀身竜の前で、いつかの戦いの続きでもやろうか、と言ったという。
弱り果てたウイプル王に、紫雷刀身竜は牙を剥く事はしなかった。
そうでないのなら、話をしようじゃないか、とウイプル王は剣を捨て、笑い、話を始めたという。
世界を統べる王になる。
世の中に平和をもたらす事ができるのは、強者のみ。その計画に、お前も加わるか、竜よ、と。
そのウイプル王は虚勢を張っている訳でもなく、真の心で語っている、そう感じた紫雷刀身竜は、彼の余力では最後の戦いになるだろう次の戦いの日を待ち、
敵国が攻め入ったその日、紫雷刀身竜はウイプル王と共に、敵国と戦った。
紫雷刀身竜が、ウイプル王を、人間も、竜も関係なく、認めた瞬間だった。
ウイプル王が死んだ後も、紫雷刀身竜はこの地に残り、ウイプル王国の戦いに加わった。
初代ウイプル王の王子が、2代目ウイプル王となり、竜をウイプルの守り神として、丁重に扱ったため、紫雷刀身竜はもはや、ウイプルを、忌み嫌う人間としては見なさなくなっていた。
ザシンは、その話は代々引き継がれてきたと言ったが、その話が本当なら、
僕は、うれしい。
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