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魔神戦

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刀を障壁に突き立てて、力を込めて捻る。
とたん、横から殺気。
咄嗟に障壁を蹴りつけて後退する。
目の前を通り過ぎる不可視の刃に冷や汗が吹き出る。
一回転して回し蹴りを叩き込む。
罅が大きくなる。
籠手を装備して拳を引き絞って殴る。
罅が更に大きくなる。
刀を創り出して刺突を繰り出す。
硬質な音と何かが砕け散るような音が重なって響いた。
「ほう!私の障壁を砕くとはなかなかにやるではないか。」
「だから言っただろう。首を洗って待っておけと。」
「まぁ、貴様に勝機は回ってこないがな。出でよ、『五天龍』」
魔神の其の言葉と共に背後に莫大な量の魔力が渦巻き始める。
それはだんだんと形を成していく。
「ゴアアアアアアアアッ!!!」
咆哮が響き渡り、砂塵が巻き起こる。
砂埃が晴れると、大瀑布の如きプレッシャーを放つ五色の龍が鎮座していた。
思わず一歩下がると同時に、一匹の龍が飛びかかってくる。
身を捻って躱し、追撃を警戒するために後ろを向く。
真紅の瞳と目が合った。
ドン、と腹に衝撃。
ゆっくりと視線を下ろすと貫手が僕の腹に突き刺さっていた。
やけにゆっくりと腕が引き抜かれ、魔神が紅に塗れた指を舐める。
口角が吊り上がり、返り血を浴びた顔が凄惨に歪む。
熱いものが喉から込み上げる。
「がふっ!!」
耐え切れなくなって吐血する。
鮮血が撒き散らされ、土が赤く染まる。
「ユウっ!?」
遠くで魔物を掃討していたはずの早希の声が耳に届く。
振り向くと、今にも泣き出しそうな早希の顔が遠目に見えた。
口角を吊り上げ、ニッと笑って背中を向ける。
引き攣った笑顔だっただろうが、構わない。
激痛が込み上げるが飲み込んで魔法を行使する。
腹に開いた風穴が塞がる。
口に残る血反吐を吐き捨てて魔神を睨みつける。
刀を鞘にしまい、腰を落とす。
相手の一挙手一投足見逃さない。
そのすべてに集中して刀に手を添える。
冷えた感触を伝える柄を握り締め、震えるほどに力を込める。
フッと、魔神に一瞬の隙が生まれた。
数瞬のタイムラグもなく刀を振り抜く。
鞘走りの勢いを利用した一撃。
その威力は正に必殺。
鮮血が、散る。
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