【休載中】恋と罪【長編】

綴子

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第2話 5※

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 杉本が拓海の蕾に男根の先を押し当てる。蜜を絡めとるように数度擦り付けてから、ゆっくりと杉本は拓海のナカに入ってきた。

「挿れるね」
「んっ……あぁ……!」
「……うっ」

 アルファである拓海の身体は本来、雄の象徴を受け入れるようにはできていない。しかし、殊の外あっさりと質量感のあるソレを受け入れてしまった。
 灼けるように熱い肉棒でずんっと腹の最奥を突かれると、内臓が経験したことのない鈍痛に襲われる。覆い被さる杉本の瞳はまるで獲物を捉えた獣のように荒々しく、拓海は思わず身震いした。この行為に拓海が想像していた甘い雰囲気など一切なかった。

「お、くっ……いきな、り……」

 丁寧な前戯がまるで幻想ゆめだったのかと錯覚する。性急な挿入に対して抗議の言葉を口にすると杉本は申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「悪いけど、余裕ない……ごめん……」

 そういうと杉本は容赦なく腰を打ち付け始める。

「いッ……つ……」

 腹の中を掻き回される痛みに耐えきれず身を捩って上に這いあがろうとすると、すぐに引き戻され腕の中に閉じ込められた。

「逃げないで……」

 縋るように杉本は拓海を抱きしめていた腕に力が入る。退路をたたれてしまった今、痛みに耐えるしかない。しかし、人間の順応性とはすごいものでその痛みは次第に快感へと変化していった。
 トントンと奥を突かれる度に漏れていた呻き声は、次第に高く甘い嬌声へと変わる。

「ん……あぁッ……」
「くッ……」

 一度目の射精を終えた杉本は、硬さを保ったままの男根をゆっくり引き抜いた。それと同時に彼が放った夥しい量の精液がぐぷりと後孔から溢れる。しかし、そんなことはお構いなしに拓海の身体をいとも簡単にひっくり返した杉本は、再び拓海のナカへ押し入ってきた。

「ま、って……」

 拓海の言葉は杉本には届いていないようだった。ハッ、ハッと浅い呼吸音が鼓膜を揺する。処女である目の前のを手酷く抱いてはならないと、僅かに残っていた理性は完全に消え果てたようだ。
 オメガの発情期ヒートのフェロモンは、アルファの性欲を刺激する。『運命の番』のフェロモンとなればなおさらのことだ。どんなに意志の強いアルファでも抗うことなど出来ず、たちまち虜にしてしまう極上の媚薬だ。今の杉本がラットを引き起こしているのは火を見るより明らかであった。

 通常、ラットを引き起こしたアルファは、強いアルファ用の抑制剤を投与するか、熱を発散し切ることで理性を取り戻すことができる。しかし、現状、アルファ用の抑制剤を杉本に投与することは不可能だ。拓海はひたすら彼から与えられるとめどない快感に耐えるしか選択肢は残っていなかった。

 無防備に曝け出された頸に、杉本の熱い吐息と柔らかな唇が這う。

「ふ、あっ……んっ」

――支配される。

 その感覚は、これまでは比べものにならない快感となって拓海を襲った。思わず逃げ腰になり身を捩るが、杉本はそれを許してくれなかった。
 同じくアルファであると言うのに、拓海はすっぽりと杉本の腕の中に閉じ込められてしまった。触れ合った場所は灼けるように熱く、溶かされてしまうのではないかとすら錯覚する。

「俺の……俺の、運命……」
「い、っ……ぅんっ」

 杉本がうわ言のように呟いたその瞬間。項に激痛が走り、叫びそうになるのをどうにか耐えた。鋭い犬歯に食い破られた皮膚から、粘度の高い液体が首筋を伝ってきた。シーツに咲いた小さな赤い花が目の端に映り拓海は、ソレが唾液の混じった血液であること理解する。

――頸を噛まれた……?

 痛みを知覚すると、拓海の身体は高揚感に震えた。それはアルファであるはずの拓海が本来味わうはずのない感覚だった。しかし、ほとんど理性を飛ばしかけていた拓海はその違和感にすら気が付かなかった。

「誰にも奪わせない……」

 杉本が暗示をかけるように拓海の耳元で低く囁いた。それと同時に彼から濃いフェロモンが放出され、呼吸をする度に拓海の肺が満たされる。拓海は僅かに残った理性を手放すまいと必死に耐える。蕩け切った脳味噌で不用意な発言をするまいと、唇を強く噛み締めた。

「そんなに強く噛んだら、傷ついてしまう。力を抜いて……」

 しかし、拓海の無駄な抵抗はすぐに杉本にバレてしまった。唇をゆっくりと撫でながら甘い声で囁かれる。

「んんっ……」
「ほら、いい子。愛しい俺の番……君の声を聞かせてくれるかい……」

 必死の抵抗でイヤイヤと首を横に振ると、杉本の行動はエスカレートする。耳の淵に唇の這わせながら、聞き分けの悪い子供に諭すような口調。拓海の意思に反して強張った身体は弛緩した。
 固く結んでいた唇が僅かに開くと、杉本はすかさず抽挿のスピードを上げる。彼の剛直が最奥とトントンとノックすると拓海の口からは甘い嬌声が溢れた。

「ん、ああっ……ダメ……っ」
「嫌だ……! 拒絶しないでくれッ」

 拓海の言葉を拒絶と捉えた杉本は不安を掻き消すように、グズグズに解けた蕾を攻め立てながら、何度も頸を噛む。激しい抽挿で、腹に残っていた精液が拓海の陰嚢の裏を伝ってシーツにパタパタと落ちた。

「ぅん、あ……はや、いぃ……」
「頼む……お願い、だから……」

 拓海の背中に杉本が縋る。今の彼にとって拒否の言葉が最大の禁句であることを思い出す。どうにか、安心させようとシーツを握りしめていた手を緩め、頭の後ろに伸ばす。指先が杉本の頬に触れる。
 拓海の言葉が拒絶ではないと気づいた杉本は、頸から唇を離した。拓海が振り向くと、視線が絡む。

「俺の番……」
「うん」

 拓海が頷くと杉本は嬉しそうに目を細め唇を合わせてきた。熱を帯びた舌が唇を割って入ってきたから、拓海もそれに応えるように舌を絡ませる。

「ん……ふ、ぁ……」

 口の端をどちらのとも分からなない唾液が伝っていることなど気に留める暇もない、貪り合うようなキスだった。
 拓海の僅かに残っていた意識は完全に溶けて、ベッドの海に沈む。杉本は、再び拓海の頸に牙を突き立てる。今度は、自分のモノであるという証を刻みつけるように念入りな動作だった。

「愛してる……」

 意識が途切れる寸前、杉本の放った言葉は拓海の罪悪感を更に大きくした。
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