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第7話
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昨晩、夕食を終えてリビングでのんびりとテレビを見ているとメッセージの受信を告げる通知音がなった。
この一年、親以外だと公式サイトからの自動送信メッセージくらいしか届かないので油断していたぼくは、帰り際に柳川と連絡先を交換した事を思い出して慌てて送信者を確認する。メッセージの送信者は予想通り柳川だった。
【スターズカフェのメニュー送っとく。先に決めておいたら注文の時にテンパらないでしょ】
そんな一言と一緒にスターズカフェのサイトのURLが送られてきた。柳川の気遣いに感謝のメッセージを返してから早速サイトを開く。
ページが表示され一番最初に目に入ってきたのは『期間限定』の商品だった。夏という季節がら、パイナップルとパッションフルーツなどの南国系のフレーバーのドリンクが表示されてその下に定番商品の写真が並んでいる。この時点でみんな美味しそうに見えて目移りが止まらない。
自室に戻ってゆっくり吟味していたらつい寝るのが遅くなりつい寝坊をしてしまった。乗換案内で電車を調べてから、トークアプリを開き急いでメッセージを送る。
【昨日寝るのが遅くなって寝坊しました。今から急いで家を出ても十時五分着の電車にしか間に合いません】
【了解、慌てないでいいよ。あと、学生証持ってきて】
柳川からはすぐに返信が届いた。学生証を持ってきてとのことだから、通学カバンのポケットから生徒手帳を取り出してそのまま財布に詰め込んだ。
昨日は首元の縒れたTシャツを着ていって少し恥ずかしい思いをしたから、今日は中学時代に買って袋も開けず仕舞い込んでいた海外映画のタイトルがプリントされたTシャツを引っ張り出して着る。
オシャレとは程遠いけど昨日よりはマシだ。
洗面所で寝癖がついていないかのだけを確認し家を出る。
最近は午前九時を過ぎると気温は三十度を超えるのが当たり前になってきていた。そんな中を走ったせいで駅に着く頃のぼくは汗だくだった。
電車はまだ来ていないからゆっくりとホームに降りる。屋根があるホームに吹き込む風は、日向の温度からは想像ができないほどに涼しく、火照った体を心地よく覚ましてくれた。
程なくして電車がホームに着く。乗り込むとポツポツと座席が空いていて立っている人もいなかったので、周りに倣って腰を下ろし一息ついた。
T駅はぼくの最寄りの駅よりも規模が大きいこともあって、ホームにはたくさんの人がいる。エスカレーターに列ができていたのでぼくは一段飛ばしで階段を上がった。せっかく車内の冷房で冷えた身体が再び熱くなり首筋を汗が流れた。
日頃、殆ど運動をしないせいですぐに息が上がる。
改札を抜けるとすぐに柳川の姿が見つかった。柳川も同時にぼくの姿を見つけたみたいで手を振る。
「おはよう、花原。すごい汗だね。これ使いな」
柳川がウエストポーチからボディシートを出した。
「おはよう。待たせてごめん……なさい。シートもありがとう」
ハンドタオルは持っていたけど、折角だから一枚シートをもらう。香水のようないい香りがした。
「オシャレ男子の匂いだ……」
無意識に思っていたことが口に出ていたらしい。柳川が吹き出した。
「オシャレ、男子って……くくっ」
首筋の汗を拭きながら柳川を見ると唇を閉まって肩を小さく震わせていた。すごく必死に笑いを堪えているのが分かる。
「だって、クラスのカッコイイ人達みんなこんな感じの匂いする……」
自分からもいい香りがして落ち着かなくて頭を振ると、それがまた柳川のツボに入ったらしい。
柳川が落ち着くまでしばらく待ってから目的のカフェに向かう。オープンしてそれほど時間が経っていないのに、店内には既に何組かの客が居た。
「飲みたいの決めてきた?」
注文カウンターの前に出来た列の最後尾に並ぶと柳川が聞いてきた。
「えっと、定番のキャラメルマキアートにしようかなって」
「おっけ。温かいのと冷たいのどっちにする? あと、ナッツとかトッピングは?」
「今日はトッピングはナシで、冷たいのが飲みたいかも」
「了解。店内で飲むからそれで頼んでみよう。あと、今日朝メシ、食べてきてないでしょ? カウンターの横のショーケースにサンドイッチとかスコーンとかあるから好きなの頼みな」
柳川が事前確認してくれたおかげで、注文カウンターの前に立ってもぼくは必要以上に緊張することなく注文することが出来た。
受け取りカウンターで商品を貰い席に着く。ペールオレンジのトレイの上に置かれたグラスとサンドイッチを見下ろして、ぼくは密かに胸を高鳴らしていた。
記念に一枚だけ写真を撮ってからグラスにストローを刺して飲み物に口をつける。そんなぼくの様子を柳川はまるで見守るように見つめていた。
「どう? 初めてのスターズカフェは」
思ったよりコーヒー感はない。キャラメルの風味の方が強く感じた。
「甘くて冷たくて美味しい」
「それはよかった」
昨日はクリームソーダで興奮していた柳川は今日はアイスコーヒーを飲んでいた。昨日の子供っぽさとは一転して今日の柳川は大人っぽくって格好いいと思ってしまった。
この一年、親以外だと公式サイトからの自動送信メッセージくらいしか届かないので油断していたぼくは、帰り際に柳川と連絡先を交換した事を思い出して慌てて送信者を確認する。メッセージの送信者は予想通り柳川だった。
【スターズカフェのメニュー送っとく。先に決めておいたら注文の時にテンパらないでしょ】
そんな一言と一緒にスターズカフェのサイトのURLが送られてきた。柳川の気遣いに感謝のメッセージを返してから早速サイトを開く。
ページが表示され一番最初に目に入ってきたのは『期間限定』の商品だった。夏という季節がら、パイナップルとパッションフルーツなどの南国系のフレーバーのドリンクが表示されてその下に定番商品の写真が並んでいる。この時点でみんな美味しそうに見えて目移りが止まらない。
自室に戻ってゆっくり吟味していたらつい寝るのが遅くなりつい寝坊をしてしまった。乗換案内で電車を調べてから、トークアプリを開き急いでメッセージを送る。
【昨日寝るのが遅くなって寝坊しました。今から急いで家を出ても十時五分着の電車にしか間に合いません】
【了解、慌てないでいいよ。あと、学生証持ってきて】
柳川からはすぐに返信が届いた。学生証を持ってきてとのことだから、通学カバンのポケットから生徒手帳を取り出してそのまま財布に詰め込んだ。
昨日は首元の縒れたTシャツを着ていって少し恥ずかしい思いをしたから、今日は中学時代に買って袋も開けず仕舞い込んでいた海外映画のタイトルがプリントされたTシャツを引っ張り出して着る。
オシャレとは程遠いけど昨日よりはマシだ。
洗面所で寝癖がついていないかのだけを確認し家を出る。
最近は午前九時を過ぎると気温は三十度を超えるのが当たり前になってきていた。そんな中を走ったせいで駅に着く頃のぼくは汗だくだった。
電車はまだ来ていないからゆっくりとホームに降りる。屋根があるホームに吹き込む風は、日向の温度からは想像ができないほどに涼しく、火照った体を心地よく覚ましてくれた。
程なくして電車がホームに着く。乗り込むとポツポツと座席が空いていて立っている人もいなかったので、周りに倣って腰を下ろし一息ついた。
T駅はぼくの最寄りの駅よりも規模が大きいこともあって、ホームにはたくさんの人がいる。エスカレーターに列ができていたのでぼくは一段飛ばしで階段を上がった。せっかく車内の冷房で冷えた身体が再び熱くなり首筋を汗が流れた。
日頃、殆ど運動をしないせいですぐに息が上がる。
改札を抜けるとすぐに柳川の姿が見つかった。柳川も同時にぼくの姿を見つけたみたいで手を振る。
「おはよう、花原。すごい汗だね。これ使いな」
柳川がウエストポーチからボディシートを出した。
「おはよう。待たせてごめん……なさい。シートもありがとう」
ハンドタオルは持っていたけど、折角だから一枚シートをもらう。香水のようないい香りがした。
「オシャレ男子の匂いだ……」
無意識に思っていたことが口に出ていたらしい。柳川が吹き出した。
「オシャレ、男子って……くくっ」
首筋の汗を拭きながら柳川を見ると唇を閉まって肩を小さく震わせていた。すごく必死に笑いを堪えているのが分かる。
「だって、クラスのカッコイイ人達みんなこんな感じの匂いする……」
自分からもいい香りがして落ち着かなくて頭を振ると、それがまた柳川のツボに入ったらしい。
柳川が落ち着くまでしばらく待ってから目的のカフェに向かう。オープンしてそれほど時間が経っていないのに、店内には既に何組かの客が居た。
「飲みたいの決めてきた?」
注文カウンターの前に出来た列の最後尾に並ぶと柳川が聞いてきた。
「えっと、定番のキャラメルマキアートにしようかなって」
「おっけ。温かいのと冷たいのどっちにする? あと、ナッツとかトッピングは?」
「今日はトッピングはナシで、冷たいのが飲みたいかも」
「了解。店内で飲むからそれで頼んでみよう。あと、今日朝メシ、食べてきてないでしょ? カウンターの横のショーケースにサンドイッチとかスコーンとかあるから好きなの頼みな」
柳川が事前確認してくれたおかげで、注文カウンターの前に立ってもぼくは必要以上に緊張することなく注文することが出来た。
受け取りカウンターで商品を貰い席に着く。ペールオレンジのトレイの上に置かれたグラスとサンドイッチを見下ろして、ぼくは密かに胸を高鳴らしていた。
記念に一枚だけ写真を撮ってからグラスにストローを刺して飲み物に口をつける。そんなぼくの様子を柳川はまるで見守るように見つめていた。
「どう? 初めてのスターズカフェは」
思ったよりコーヒー感はない。キャラメルの風味の方が強く感じた。
「甘くて冷たくて美味しい」
「それはよかった」
昨日はクリームソーダで興奮していた柳川は今日はアイスコーヒーを飲んでいた。昨日の子供っぽさとは一転して今日の柳川は大人っぽくって格好いいと思ってしまった。
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