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それは甘い毒
Chapter6-6
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薬の副作用のせいか、視界はモヤがかかったように不明瞭だった。
朦朧とする意識の中で知らない相手に体を好き勝手に弄られるのは早苗にとって恐怖でしかなかったし、ベタベタと無遠慮に上半身を撫で回す手には嫌悪感しかない。
「あっ……」
気持ち悪いとすら思っているのに、男が胸の突起に触れた途端、早苗の口から上ずった甘い吐息が漏れた。
「結構気が強いって話を聞いていたけど、反応は可愛いんだ。快楽には弱いみたいだね」
男は早苗の反応に気を良くしたのか、さらに強い刺激を与えてくる。
身を捩って抵抗したいが、身体は鉛のように重くなっていて思うように動かせない。それは全身麻酔が解け始めた時の感覚によく似ていた。早苗ができるのは、ただ唇を噛み締めて相手を喜ばせる反応をしないように努力することだけだった。
「ダメだよ。そんなに唇を強く噛んだら。ほら、血が出てる」
そう言いながら生暖かく滑ったものが早苗の唇を這う。それが男の舌だと理解した瞬間、煮えたぎるような熱が胃から迫り上がってきた。
「ぉえ……っ」
「へへっ。キスだけでこの反応するんだ。それなら、ぶち込んだらどうなっちゃうのかな」
早苗の吐瀉物が男の衣服にもかかっただろうに、そんなことは全く気にしていないようだ。それどころか、さらに機嫌が良くなっているようだ。
スラックスの上から臀部を撫で回す。時々指が谷間を割り入って後孔をくすぐる。布越しであったがその部分を指が掠めるたびに肌が粟立った。
「ズボンに愛液が染みてきてるのわかる?」
谷間を往復すると下着がヌルヌルと肌の上を滑る。
「キスしただけで拒否反応示しておきながら、下半身は涎垂らしてる」
スラックスの中に男の手が入ってくる。早苗は体を揺らし抵抗しようとするが、それも無駄に終わった。男は躊躇なく早苗の後孔に指を入れる。
「ヒギッ……!」
喉から引き攣った声が出る。
早苗からまた新たな反応を引き出せたことで男はさらに指を奥へと侵入させる。ヌチヌチと水音がやけに大きく早苗の耳に届いた。
大層機嫌を良くした男は早苗の頸をベロりと舐める。その瞬間、今までとは比べ物にならないくらいの強い不快感が早苗を襲う。心臓は全力疾走した直後のように早くなり、呼吸も乱れる。はくはくと浅い呼吸を繰り返しているうちに早苗の意識は遠のいていった。
❖❖❖
目を覚ました早苗は、自分が硬いベッドの上で横たわっていることに気がついた。
室内は灯りが付いているものの、清潔感のあるベビーピンクのカーテンが蛍光灯の明かりを遮っているせいかその空間は薄暗い。
消毒液の匂いが鼻腔をくすぐる。そこが病院であるということはすぐに見当がついた。
ベッドの傍らにはパイプ椅子に座って船を漕いでいる蛇池がいた。
こめかみのあたりにうっすらと汗をかいている。彼が早苗を救出してくれたのだろうか。
早苗が起きあがろうとモゾモゾ動いていると、蛇池と目が合う。その瞳には怒りと呆れが入り混じっているように思えた。
「起きたな。無理して起きなくていい」
「あの、蛇池さんが助けてくれたんですか?」
早苗は横になったまま尋ねるが、蛇池は質問に答える気はないらしい。
枕元のナースコールを押した後、胸元から出したケータイをいじり始める。指の動きから誰かにメッセージを送っているのだろう。
しばらくすると女性の看護師がやってきた。
蛇池は看護師と入れ替わるようにカーテンの外に出る。狭いスペースだからだろう。
点滴の確認をして、簡単な問診をしつつ体温を測る。まだ熱が残っているという感覚は正しかったようで、体温計には三八度と表示されていた。血圧と脈拍も少し高いようなので、今夜はこのまま入院することになった。
「病室が確保できたら移動します。なにか聞いておきたいことありますか?」
「あの……今何時ですか?」
早苗の問いに看護師は少し不思議そうな顔をしながら答えてくれた。
「二十二時半です。他には大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます」
看護師がスペースから出ていくと、入れ替わるように再び蛇池が戻ってきて、パイプ椅子に腰を下ろした。
じっと早苗を見つめているが、何かを言ってくる様子はない。
「えっと、なんですか」
恐る恐る早苗が尋ねると、蛇池は大きなため息をついた。
「お前、馬鹿だな」
ようやく発した一言は暴言だった。強姦にあった相手に対してするような発言ではない。けれど、早苗は彼の言葉を甘んじて受け入れる。
自分の行動がどれほど愚かだったのか自覚があったからだ。
「すみません」
「最悪死んでいてもおかしくなかった」
責めるような言い方だったが、その言葉の裏には安堵があることに気がついて早苗の目から涙が溢れる。
「す、みま……せん」
「今はとりあえず寝とけ。落ち着いたら今回の事情を話してやる。今後のことも合わせてな」
「はい」
ぶっきらぼうにそいう言うと、蛇池は早苗の目元に手を置いた。
大きくて、少し冷たい手が心地いい。早苗はすぐに眠りについた。
朦朧とする意識の中で知らない相手に体を好き勝手に弄られるのは早苗にとって恐怖でしかなかったし、ベタベタと無遠慮に上半身を撫で回す手には嫌悪感しかない。
「あっ……」
気持ち悪いとすら思っているのに、男が胸の突起に触れた途端、早苗の口から上ずった甘い吐息が漏れた。
「結構気が強いって話を聞いていたけど、反応は可愛いんだ。快楽には弱いみたいだね」
男は早苗の反応に気を良くしたのか、さらに強い刺激を与えてくる。
身を捩って抵抗したいが、身体は鉛のように重くなっていて思うように動かせない。それは全身麻酔が解け始めた時の感覚によく似ていた。早苗ができるのは、ただ唇を噛み締めて相手を喜ばせる反応をしないように努力することだけだった。
「ダメだよ。そんなに唇を強く噛んだら。ほら、血が出てる」
そう言いながら生暖かく滑ったものが早苗の唇を這う。それが男の舌だと理解した瞬間、煮えたぎるような熱が胃から迫り上がってきた。
「ぉえ……っ」
「へへっ。キスだけでこの反応するんだ。それなら、ぶち込んだらどうなっちゃうのかな」
早苗の吐瀉物が男の衣服にもかかっただろうに、そんなことは全く気にしていないようだ。それどころか、さらに機嫌が良くなっているようだ。
スラックスの上から臀部を撫で回す。時々指が谷間を割り入って後孔をくすぐる。布越しであったがその部分を指が掠めるたびに肌が粟立った。
「ズボンに愛液が染みてきてるのわかる?」
谷間を往復すると下着がヌルヌルと肌の上を滑る。
「キスしただけで拒否反応示しておきながら、下半身は涎垂らしてる」
スラックスの中に男の手が入ってくる。早苗は体を揺らし抵抗しようとするが、それも無駄に終わった。男は躊躇なく早苗の後孔に指を入れる。
「ヒギッ……!」
喉から引き攣った声が出る。
早苗からまた新たな反応を引き出せたことで男はさらに指を奥へと侵入させる。ヌチヌチと水音がやけに大きく早苗の耳に届いた。
大層機嫌を良くした男は早苗の頸をベロりと舐める。その瞬間、今までとは比べ物にならないくらいの強い不快感が早苗を襲う。心臓は全力疾走した直後のように早くなり、呼吸も乱れる。はくはくと浅い呼吸を繰り返しているうちに早苗の意識は遠のいていった。
❖❖❖
目を覚ました早苗は、自分が硬いベッドの上で横たわっていることに気がついた。
室内は灯りが付いているものの、清潔感のあるベビーピンクのカーテンが蛍光灯の明かりを遮っているせいかその空間は薄暗い。
消毒液の匂いが鼻腔をくすぐる。そこが病院であるということはすぐに見当がついた。
ベッドの傍らにはパイプ椅子に座って船を漕いでいる蛇池がいた。
こめかみのあたりにうっすらと汗をかいている。彼が早苗を救出してくれたのだろうか。
早苗が起きあがろうとモゾモゾ動いていると、蛇池と目が合う。その瞳には怒りと呆れが入り混じっているように思えた。
「起きたな。無理して起きなくていい」
「あの、蛇池さんが助けてくれたんですか?」
早苗は横になったまま尋ねるが、蛇池は質問に答える気はないらしい。
枕元のナースコールを押した後、胸元から出したケータイをいじり始める。指の動きから誰かにメッセージを送っているのだろう。
しばらくすると女性の看護師がやってきた。
蛇池は看護師と入れ替わるようにカーテンの外に出る。狭いスペースだからだろう。
点滴の確認をして、簡単な問診をしつつ体温を測る。まだ熱が残っているという感覚は正しかったようで、体温計には三八度と表示されていた。血圧と脈拍も少し高いようなので、今夜はこのまま入院することになった。
「病室が確保できたら移動します。なにか聞いておきたいことありますか?」
「あの……今何時ですか?」
早苗の問いに看護師は少し不思議そうな顔をしながら答えてくれた。
「二十二時半です。他には大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます」
看護師がスペースから出ていくと、入れ替わるように再び蛇池が戻ってきて、パイプ椅子に腰を下ろした。
じっと早苗を見つめているが、何かを言ってくる様子はない。
「えっと、なんですか」
恐る恐る早苗が尋ねると、蛇池は大きなため息をついた。
「お前、馬鹿だな」
ようやく発した一言は暴言だった。強姦にあった相手に対してするような発言ではない。けれど、早苗は彼の言葉を甘んじて受け入れる。
自分の行動がどれほど愚かだったのか自覚があったからだ。
「すみません」
「最悪死んでいてもおかしくなかった」
責めるような言い方だったが、その言葉の裏には安堵があることに気がついて早苗の目から涙が溢れる。
「す、みま……せん」
「今はとりあえず寝とけ。落ち着いたら今回の事情を話してやる。今後のことも合わせてな」
「はい」
ぶっきらぼうにそいう言うと、蛇池は早苗の目元に手を置いた。
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