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それは甘い毒
Chapter6-2
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【もしかして、体調崩してる? 夕方顔出そうか?】
昼休み、私用携帯を確認すると俊哉からのメッセージが届いていた。思いがけず自分のことを気遣うような内容のメッセージが届いたことに驚き焦った早苗は、咄嗟に返信ができなかった言い訳を並べ立てる。
【昨日から少しバタついていたせいで返信出来ませんでした。すみません】
全てが嘘ではないが、取り繕ったような内容のメッセージを慌てて送ると直ぐに既読がついた。
昼休みになるタイミングなのでたまたま携帯を見ていたのか、それとも早苗からの返信を待ち構えていたのかはわからなかったが、きっと俊哉は早苗からの返信がないことを気にしていたのは間違いないだろう。
それでも昨日のメッセージのあと、早苗が返信しなかったことに対して言及がなかったのは、ただ単に早苗の都合を考えていただけなのではないか。そう考えると、寝起きのネガティブな被害妄想じみた思考で、自分勝手な理由を付けて返信を無視したことが早苗は申し訳ない気持ちになった。
【良かった。既読にはなっていたのに返信が来ないからてっきり、促進剤が体に合わなくて副作用が出ているのかと思って心配だったんだ】
さらに早苗に追い打ちをかけるかのような思いやる俊哉の言葉が続き良心がチクリと痛む。
俊哉の過去のことを知ったせいで、いつの間にか勝手に俊哉に騙され良いように駒にされた被害者のような気分になっていたが、彼を利用し利用されることを選んだのは紛れもなく早苗自身なのである。
【心配おかけしました。大丈夫です。薬の副作用の方は問題ありません。ただ、昨日は人と会っていたりして、家に帰るのが遅くなってしまって返信が出来ませんでした】
【そうなの? 別に深夜でもメッセージおくってくれていいからね。早苗くんに何かあったっていう方が心配だから。でもまあ、体調が悪くて返事ができなかったとかじゃなくて安心したよ。いくら認可されている薬とは言っても、誘発剤ってあんまりに人体に良さそうなイメージがないんだよね。ただですら辛い発情期を無理やり引き起こすんだから、身体に負担かかりそうじゃない?】
俊哉は想像以上に早苗の身体や心を思いやってくれていたようだ。単なる契約番なのだからと、自分がいかに俊哉との関係を甘く考えすぎていた自分との認識の差をまざまざと実感させられた早苗は、あまりにも理不尽で浅はかな振る舞いをしてしまったことが気恥ずかしくてたまらなくなった。
正直なところ早苗は俊哉にとって自分は都合の良い駒であるという風に思っていた。なので、早苗の中では俊哉と番が成立した時点で目標は達成したようなものなのだったし、彼もそうなのだと思っていた。しかし、とんでもない提案をした本人である俊哉は早苗が考えていた以上にまともな人間だったみたいだ。
【それは誘発剤を使うタイミングにもよります。周期から外れたフェロモン数値が低いタイミングで誘発剤を使うと普段よりも重くなるらしいです。でも、今回はフェロモン数値が高い状態で使ったのでむしろ普段より軽く済みました】
【確かに低い数値を無理にあげるより、元々高い数値のものを刺激して発情期を誘発する方が負担は少なさそうだね。漠然とした知識しかないから誘発剤はオメガに負担をかける物だと思ってたよ】
【薬の知識なんてそんなものじゃないですか? 自分が服用してる薬ならばどういう副作用があるとか知っていてもおかしくないですけど、自分が飲むことのない薬のことなんて知らないのが普通ですよ】
【そりゃ他人ならその言い分が通るだろうけど、早苗くんとおれは仮にもパートナーなんだよ。だから、キミが飲む薬がどういうものなのか知るのはパートナーとして当然のことだとおれは考えてる。それだけのことだよ】
やり取りを続けるうちに今まで見えてこなかった俊哉の人間像が見えてきて、自分がいかに考えの浅い人間かを見せつけられているように思えて仕方がない。格の差を見せつけられた早苗がしばらく返答に迷っているとさらに俊哉からメッセージが届いた。
【重い話になっちゃったね。ごめんね。そうだ、早苗くんは今日のランチは何を食べるの? おれは会社の近くにキッチンカーが来てるから今日はケバブを食べる予定】
話題を変えるかのように送られてきたメッセージの後に、正に今撮ったであろうキッチンカーの写真が送られてきた。話題の逸らし方は些か強引であったが、今の早苗にはありがたいことであった。昨日の晩の出来事を俊哉に知られるのは何だか気まずかったのである。
【ケバブですか。何だかおしゃれなランチですね。オレは出勤前にコンビニで買ったサンドイッチと期間限定のカップ麺の予定です】
【栄養面が心配になるなあ。よし、今度美味しいインド料理屋に連れて行ってあげるよ】
【そこはケバブじゃないんですね】
【ケバブもサンドイッチみたいなものだからね。パンみたいなのに野菜と肉が挟まってる】
【いなめない……】
【あと、個人的にカレーはいろんな野菜やスパイスとか入ってるから栄養価が高そうかなって】
【健康的ではありますね】
会話が弾みいつの間にか昼休憩が残すところ5分を切っていたので早苗は慌ててサンドイッチをかき込むことになったが、俊哉に対する後ろめたさや、京介に対するモヤモヤとした感情は消えていた。
昼休み、私用携帯を確認すると俊哉からのメッセージが届いていた。思いがけず自分のことを気遣うような内容のメッセージが届いたことに驚き焦った早苗は、咄嗟に返信ができなかった言い訳を並べ立てる。
【昨日から少しバタついていたせいで返信出来ませんでした。すみません】
全てが嘘ではないが、取り繕ったような内容のメッセージを慌てて送ると直ぐに既読がついた。
昼休みになるタイミングなのでたまたま携帯を見ていたのか、それとも早苗からの返信を待ち構えていたのかはわからなかったが、きっと俊哉は早苗からの返信がないことを気にしていたのは間違いないだろう。
それでも昨日のメッセージのあと、早苗が返信しなかったことに対して言及がなかったのは、ただ単に早苗の都合を考えていただけなのではないか。そう考えると、寝起きのネガティブな被害妄想じみた思考で、自分勝手な理由を付けて返信を無視したことが早苗は申し訳ない気持ちになった。
【良かった。既読にはなっていたのに返信が来ないからてっきり、促進剤が体に合わなくて副作用が出ているのかと思って心配だったんだ】
さらに早苗に追い打ちをかけるかのような思いやる俊哉の言葉が続き良心がチクリと痛む。
俊哉の過去のことを知ったせいで、いつの間にか勝手に俊哉に騙され良いように駒にされた被害者のような気分になっていたが、彼を利用し利用されることを選んだのは紛れもなく早苗自身なのである。
【心配おかけしました。大丈夫です。薬の副作用の方は問題ありません。ただ、昨日は人と会っていたりして、家に帰るのが遅くなってしまって返信が出来ませんでした】
【そうなの? 別に深夜でもメッセージおくってくれていいからね。早苗くんに何かあったっていう方が心配だから。でもまあ、体調が悪くて返事ができなかったとかじゃなくて安心したよ。いくら認可されている薬とは言っても、誘発剤ってあんまりに人体に良さそうなイメージがないんだよね。ただですら辛い発情期を無理やり引き起こすんだから、身体に負担かかりそうじゃない?】
俊哉は想像以上に早苗の身体や心を思いやってくれていたようだ。単なる契約番なのだからと、自分がいかに俊哉との関係を甘く考えすぎていた自分との認識の差をまざまざと実感させられた早苗は、あまりにも理不尽で浅はかな振る舞いをしてしまったことが気恥ずかしくてたまらなくなった。
正直なところ早苗は俊哉にとって自分は都合の良い駒であるという風に思っていた。なので、早苗の中では俊哉と番が成立した時点で目標は達成したようなものなのだったし、彼もそうなのだと思っていた。しかし、とんでもない提案をした本人である俊哉は早苗が考えていた以上にまともな人間だったみたいだ。
【それは誘発剤を使うタイミングにもよります。周期から外れたフェロモン数値が低いタイミングで誘発剤を使うと普段よりも重くなるらしいです。でも、今回はフェロモン数値が高い状態で使ったのでむしろ普段より軽く済みました】
【確かに低い数値を無理にあげるより、元々高い数値のものを刺激して発情期を誘発する方が負担は少なさそうだね。漠然とした知識しかないから誘発剤はオメガに負担をかける物だと思ってたよ】
【薬の知識なんてそんなものじゃないですか? 自分が服用してる薬ならばどういう副作用があるとか知っていてもおかしくないですけど、自分が飲むことのない薬のことなんて知らないのが普通ですよ】
【そりゃ他人ならその言い分が通るだろうけど、早苗くんとおれは仮にもパートナーなんだよ。だから、キミが飲む薬がどういうものなのか知るのはパートナーとして当然のことだとおれは考えてる。それだけのことだよ】
やり取りを続けるうちに今まで見えてこなかった俊哉の人間像が見えてきて、自分がいかに考えの浅い人間かを見せつけられているように思えて仕方がない。格の差を見せつけられた早苗がしばらく返答に迷っているとさらに俊哉からメッセージが届いた。
【重い話になっちゃったね。ごめんね。そうだ、早苗くんは今日のランチは何を食べるの? おれは会社の近くにキッチンカーが来てるから今日はケバブを食べる予定】
話題を変えるかのように送られてきたメッセージの後に、正に今撮ったであろうキッチンカーの写真が送られてきた。話題の逸らし方は些か強引であったが、今の早苗にはありがたいことであった。昨日の晩の出来事を俊哉に知られるのは何だか気まずかったのである。
【ケバブですか。何だかおしゃれなランチですね。オレは出勤前にコンビニで買ったサンドイッチと期間限定のカップ麺の予定です】
【栄養面が心配になるなあ。よし、今度美味しいインド料理屋に連れて行ってあげるよ】
【そこはケバブじゃないんですね】
【ケバブもサンドイッチみたいなものだからね。パンみたいなのに野菜と肉が挟まってる】
【いなめない……】
【あと、個人的にカレーはいろんな野菜やスパイスとか入ってるから栄養価が高そうかなって】
【健康的ではありますね】
会話が弾みいつの間にか昼休憩が残すところ5分を切っていたので早苗は慌ててサンドイッチをかき込むことになったが、俊哉に対する後ろめたさや、京介に対するモヤモヤとした感情は消えていた。
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