【完結】ぼくたちの適切な距離【短編】

綴子

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「最近、昼休みはクラスの友達と一緒してるみたいだね。どう?」

 赤松先輩が家の用事ということで、久々に拓人と下校時間が被った。

「結構楽しいよ。あ、今日の昼休みは日下部がプリンジュース奢ってくれたんだ」

「そうなの? というか、蓮ってそんなにプリン好きだったっけ?」

「ううん。日下部のチョイス。どんなもんかって気になってたって言ってた」

「毒見させられたんだ……」

「胸焼けするかもってくらい甘かったけど、嫌いじゃなかった」

 久々にゆっくり話せる時間ができて、最初はなんだか緊張したが以前のような調子で話すことができていると思う。
 しかし、ふと拓人の言葉数が少ないことに気がつき横顔を盗み見ると、彼はなんだか面白くなさそうな顔をしていた。

「ごめん、拓人。ぼく喋りすぎ?」

 慌てて謝ると、拓人の表情がすぐにいつもの穏やかなものになった。

「ううん、そんなことないよ。蓮が楽しそうにしてるの聞いてるだけでオレも楽しい」

 拓人はそう言ったが、きっと嘘だろう。理由はわからないが、拓人は少し不機嫌だ。

「本当に? なんか少し不機嫌じゃない?」

「全然不機嫌なんかじゃないよ。久々に蓮と話せて不機嫌になる理由なんかないって」

「ならいいんだけど……。それより拓人の方は最近どう?」

「……どうって、千寿さんのこと?」

 聞き返す拓人の声がなんだか冷たく聞こえた。

「赤松先輩のことでもいいけど……、高校生活は楽しめてるかなって思って。だって、小学校の時も中学校の時もぼくたちずっと一緒だったから。こんなに一緒にいる時間が短いのって初めてじゃん? なんか変というか、不思議な感じなんだ」

 拓人はきっと赤松先輩との交際のことを他人に根掘り葉掘り聞かれるのは嫌だろうし、ぼくも拓人が普段どんな風に彼女に接しているかなんて知りたくない。そうやって目を逸らすことで自衛するしかないのだ。

「ああ、そういうこと。蓮と一緒じゃない毎日ってのはなんか物足りないかな。ついつい蓮のこと探しちゃうし」

 拓人の何気ない一言はぼくにとって猛毒だ。
 期待しても無駄だと自分に言い聞かせても、心臓が制御出来ない。
 ただこの音が拓人の耳まで届いてなければいいなと願うことしか出来ない。

「そんなこと言ったら赤松先輩に怒られるよ」

 ぼくは嬉しいような恥ずかしような気持ちを誤魔化す言葉を口にする。拓人はぼくの恋人じゃないと自分に戒めるように。

「千寿さんは確かに話してて面白いけど、千寿さんは蓮じゃないし」

「そりゃそうだよ。赤松先輩とぼくは違う。当たり前のことじゃん」

 こんな中途半端なオメガではなく、赤松先輩のようにちゃんとしたオメガだったら、ぼくは自分を認めてあげることが出来たのだろうか……。
 そんなことを考えたところで虚しくなるだけなのに、そう考えざるを得なかった。

「それに──」

 その後に続いた拓人の言葉にぼくは目を見張った。拓人からその言葉を聞かされた瞬間、ぼくは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

「蓮がオメガだったら番になれたのにって思ってる」

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