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 拓人が赤松先輩と付き合い始めてから約1週間。
 そろそろ2人が並んでいる姿に見慣れて来たかと思っていたが、そんなことはなかったらしい。

 昼休み、朝パンを買ってくるのを忘れたという日下部と一緒に購買に行った帰り道、中庭にある四阿で仲良く並んで弁当を食べている拓人と赤松先輩の姿を見かけた。
 その途端、僕の心臓はギュッと握りつぶされたような痛みを感じて息苦しくなる。
 急いで目を逸らして忘れようとしたが、その光景は網膜にしっかりとこびりついてしまった。

「篠原?」

 隣にいたぼくの挙動がおかしいことに気がつたらしい日下部に声をかけられる。日下部は、ぼくが見ていた方に視線を向けると何かを察したらしく、ぼくの肩に腕を回す。

「お兄さんが自販機で美味しい飲み物をご馳走してあげよう」

 拓人とは違う市販の制汗剤の人工的な匂いがした。女性向けのものを使っているせいかフローラルすぎる気がしたが嫌いではない。
 日下部は、「イケメン幼馴染が抜け駆けで、可愛い彼女を作ったらそりゃショックだよな」とか「俺より先に関口に彼女ができたとか想像したら血涙流れるわ」とちょっと見当違いなことを言っていたが、慰めようとしてくれているのがわかったので嫌な気分にはならなかったし、さっき網膜にこびりついてしまったと思っていた光景はなんだか薄らいだ気がした。

「何にする?」

 自動販売機の前で日下部が小銭入れを出した。
 本気で奢ってくれると言っているわけではないと思っていたので動揺していると、日下部は勝手に「決まってないならこれな」とプリンドリンクのボタンを押した。

「まさかのプリン……でもありがとう」

「隣の炭酸ブドウゼリーと迷ったけど、プリンの方は飲んでる人見たこのないから買ってみた。飲んだら感想聞かせてよ」

「もしかして、毒味……」

「それもあるけど、ほら甘いもの取ったら元気になるって言うじゃん」

「それもあるんだ。でも、ありがとう」

「いいのいいの」


 教室に戻ると、関口が熊谷と首を長くして待っていた。
 熊谷は先週まで放送委員会の当番だったと言うことで昼休みは放送室の方へ行っていたのため、一緒にお昼を食べるのはこれで2回目だが、ぼくがいつの間にか一緒にお昼ご飯を食べるメンバーに加わっていても快く歓迎してくれている。

「2人とも遅いよ。俺もう腹ペコ」

「こんなこと言ってるけど、また篠原が永井と赤松先輩の話を聞きたい奴らに囲まれているんじゃないかって心配してたよ」

 関口がそういうと熊谷の顔が茹でだこみたいに赤くなった。本人は誤魔化してるつもりだろうけど、誤魔化しきれてないのがなんだか面白かった。

「ありがとう。平気だったよ」

「時間かかったのは、篠原が中々飲み物決められなかったせいだから」

 日下部がそういうと、ぼくが手に持っている缶ジュースに2人の視線が向けられる。

「プリン……?」

「その手のドリンクは買うのに確かに勇気がいるよな」

 2人が妙に納得したようにそう言ったので、これを選んだのは日下部だと訂正しておいた。
 日下部は物言いたげな関口と熊谷の視線をいいやって早く感じ取り、2人が何かを言う前に「俺の奢りだからいいじゃん」と言った。

 プリンジュースは胸焼けするくらい甘かった。
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